その人のこと
その人の抱える負い目は、あまりに重く、優しく、豊かだった。
だから、僕はいっとき、言葉を失った。
言葉を失った後に無理にはき出す言葉は、ありきたりの常識話になった。
少し後悔している。
僕に助言を求めたのは、その人の中で、決着をつけたかったからだったのではないか、と。
明快に断じてあげればよかったのかもしれない、と。
あなたは、もう十分に負い目を償ったのではないですか、と。
しかし、また、思い返してみる。
僕などに人の人生に関わる助言ができるなどと思うのは、所詮、思い上がりでしかない、と。
全てはありのままの流れに任せるしかないはずなのだ、と。
人の抱えられる悩みと苦しみに、あれとこれとを比較できるような物差しはない。
人の抱える悩みや苦しみの全ては等しい。
なぜなら、それがどれほど重いものであろうが、人は、抱えられる苦しみと悩みの限度でしか、抱えることができないからだ。
僕は、また、思う。
その人は、ご自身で選択されるだろう。
きっと自ら途を見い出すに違いない。
無駄に見えるときが、いたずらに過ぎていったとしても、
悔やむことは何もないし、
断ち切ることは、いつでもできるだろう。
いつ、どこで持ちきれない苦しみが負い目に釣り合うようになり、
負い目を断ち切るのか。
その過程を生きること自体が人生なのだ。
適切な対応ができたとは思えない、
その人に、気持ちを寄せること。
今の僕にできるのは、そんなことでしかあり得ない。
実存の問題に向き合うとき、
僕は粛とする。
帰り際、もっと楽しいことでお会いしたい、とその人は微笑まれた。
ありがとう。
そう、僕も、楽しく再会できることを願っている。


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