裁判員裁判で少年に対する死刑判決
26日、仙台地裁で少年に対する死刑判決が出された。
中日新聞の記事が事件を多角的によく分析していた。
過去20年余りで死刑求刑された少年は7人、そのうち2人殺害で死刑求刑されたのは3人。2人は無期懲役、唯一死刑判決を受けたのが光市母子殺害事件の被告で現在上告中だという。
だから、この事件は、光市母子殺害事件に続く2例目の2人殺害の少年の死刑判決ということになる。死刑に軽重がない以上、光市母子殺害事件と同等に凶悪で更生可能性なしと評価されたのだ。
「更生可否スピード審理」とする見出しは、事案の本質を突いているだろう。
仙台地裁は、「犯罪性行は根深い。他人の痛みや苦しみに対する共感が全く欠けている」とし、「更生可能性は著しく低い」と断定した。
たった5日の審理で、更生の可否について、踏み込んだ審理ができるだろうかと、冒頭の記事は疑問を投げかける。
少年事件では家庭裁判所の調査官を中心として、少年の成育歴について詳細な記録が作られている。
ところが、今回の裁判では、成育歴は証拠請求されず、鑑別結果報告書の一部が朗読されただけという。
家庭裁判所調査官の成育歴は極めて重要な証拠だ。発達心理の専門知識を持つ調査官が丹念に調査した結果の中には、事件を解く鍵が含まれている場合もある。
これが証拠請求されなかったのは、裁判員のために、審理の時間を制約しようとする裁判所のせいだろう。
僕は修習生時代に、刑事裁判修習中に少年の殺人未遂事件に当たったことがある。
後続車両から降りてきて少年の車を叩いた男に対して、少年が、やにわに車内のナイフで、斬りつけたという事件だった。
調査官は、少年が沖縄の離島出身であることに着目していた。少年が、本土に渡った後、沖縄差別を繰り返し体験したこと、その中で、周囲に対して過剰な警戒心と恐怖感を抱きながら生きてきた経過に着目していた。そして可能なら、少年の育った島を訪ねて島独特の風土で育った少年の成育歴をさらに調査したいと記載していた。
凶悪というより、本土における差別の中で植え付けられた恐怖心がナイフを振り回すという突発的な行為として発現したという見方だ。
凶悪・凶暴とは違う恐怖心のなせる発作的な犯行という見方だった。
裁判官から意見を求められた僕は、更生可能性を強く主張して、刑事事件ではなく、家庭裁判所へ送致して、少年事件として扱うべきだと強く主張し続けた。
裁判官は懐が深かったと思う。僕は不満足だったが、刑期を軽くするという形で、僕の意見をくみ入れてくれた(余談ながら、このときの国選弁護人は、殺意を否定する少年に対して、無理矢理殺意を認めさせるという尋問をしており、腹立たしかった。少年の弁護人は、修習生として直接、裁判官に意見を述べる機会があった僕だけだったと言っていい)。
話が横にそれた。
調査官の作る成育歴にはそれほどの重みがあるということだ。
読み込むのは大変だろうが、読み込むことができれば、素人ならではの発見と共感もあったかもしれない。
少年の更生可能性を表面的にしかとらえる時間がなかったのは返す返すも残念というほかない。そして、それが裁判員裁判であるがゆえに避けられないことだとすれば、やはり裁判員制度には根本的欠陥があるというべきだ。
是非、少年には控訴してもらいたい。
控訴審で十分な審理時間を確保してもらいたい。
中日新聞は、検察幹部が「弁護側が控訴したら高裁はどう判断するか。裁判員裁判の結果であっても判決の見直しがあるかもしれない」と語ったと伝えている。
検察から見ても、死刑判決は、重すぎるのではないかということだ。
中日新聞は、さらに少年に対する厳罰化を求める市民感情が背景にあることを指摘する。
厳罰化が不必要なことは、以下のグラフを示すだけで十分だろう。
少年の凶悪事件は、圧倒的に減っているのだ。
出典「少年犯罪データーベース」
減っていることを示すだけでは、少年に対する厳罰化を求める世論にはひょっとして不十分なのかもしれない。
激減して極めて異例になっただけに、この異例の者は社会には到底理解できない。
理解できないものを排除し尽くしたいという衝動が社会にはあるのかも知れない。
異端を排除しようとする神経症的な空気が社会に蔓延している。
危ない社会だと思う。
少年が控訴して、減刑されることを切に願う。
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