司法統計2 弁護士さえ増やせば法の支配は行き届くのか
昨日は、最高裁の司法統計をグラフ化したことだけを報告して、仲間内にしかわからなかったと思いますので、改めて、グラフ化してわかったことを説明してみます。
1 平成13年から平成17年まで事件総数が減少傾向にあった。
この時期は、いざなぎ越えをいわれる長期好景気であった。
しかし、事件数は平成13年15万7000件から平成17年の13万5000件へと約85%に減少した。
一般市民にとっては、好景気という実感はなかった。
2 事件数は平成18年から反転して増加している。急増といえる。
平成17年の13万5000件から平成21年21万5000件へと6割増という大増加である。
3 その全ては、金銭を目的とする訴訟である。
同時期に9万件から17万件に増加している。9割近い増加である。
4 平成17年にサラ金関係で、過払金返還を原則化する最高裁の重要判例が出されている。
この判決が過払金請求のブームを起こした。
増加している金銭を目的とする事件は、全てこの過払金請求事件であると一応、推定しても不合理ではない。
5 金銭を目的とする事件以外は、平成13年から平成21年まで一貫して減少傾向にある。
平成13年5万7000件あった金銭以外の事件は平成21年には、4万1000件とほぼ7割に減少している。
6 金銭を目的とする事件も、過払金請求を除けば、減少している可能性が高い。
争いのある事件では、最低限でも当事者尋問は行われる。
したがって、当事者尋問延べ件数は、事件数の増減に応じて正比例していた(以下、表24参照)。
当事者尋問延べ件数は平成13年3万4000件から平成17年2万6000件に減少、この間、事件数は、15万7000件から13万5000件に減少しており、ほぼ正比例している。
ところが、平成18年以降、事件数が増加しても当事者尋問延べ件数は減少の一途をたどっている。平成17年2万6000件から平成21年には2万2000件に84%に減少している。
過払金請求事件では、争いがあっても、当事者尋問が行われることは皆無に近い。
つまり、過払金事件以外は、平成17年から平成21年にかけておおむね84%に減少したものと考えることが加納である。
7 したがって、過払金請求事件を除いた実質事件数は、平成17年より84%に減少したと推測するのも不合理ではない。
この推測は、平成18年以降の事件増分だけ、過払金請求事件があるのではなく、増加分を超えて過払金請求事件があることを示す。
法廷の事件一覧表の大半が「不当利得返還請求事件」(過払金請求事件はこうした法的呼称になる)で埋められている日常の実感にも合致する。
8 過払金請求のブームはほぼ去りつつある。せいぜい1,2年である。
9 過払金請求を除いて、平成13年から平成21年の事件数を推測すると、平成13年15万7000件、から平成21年11万3400件(平成17年事件数13万5000件に84%を乗じた)になる。8年間で72%に減少したことになる。この減少率は、5で述べた金銭を目的とする以外の事件の減少率とほぼ一致している。
10 平成13年から平成21年にかけて弁護士数は1万8000人から2万7000人に5割増加している。
過払金を除く一人当たりの事件数は、平成13年の8.7件から平成21年4.2件に減少している。
11 以上、通常訴訟を見る限り、過払金資源枯渇後の弁護士業界には先の見通しは全くないといってよい。
異なる観点からの意見や批判が様々にあることは十分に承知している。
しかし、司法改革の理念である生活のすみずみまで方の支配をもたらす(泣き寝入りをなくす)ことが、弁護士増員によって図ることができていないことは明らかである。
過払金返還請求が、一面で、困窮した市民の権利実現につながっていることは否定しない。しかし、弁護士と司法書士が競うようにして出している広告の氾濫を踏まえれば、現状は割のよい事件の奪い合いの様相を呈している。困窮した被害者の救済や生活再建を目的としたものとなっていないと僕は考えている。法廷でも、裁判所からもそう見えているに違いないという光景をしばしば目にする。
弁護士の増員は過剰な市場化をもたらしただけだ。この状況が続く以上、とりあえず弁護士増員には可及的速やかにストップをかけなければ、弁護士を志す有為の人材自体が枯渇することは目に見えていると思われる。
司法統計のみによっているので、推論の中にはおおざっぱな部分があることは否定しない。
これだけ金銭を目的とする種類の事件が突出して増えているのであるから、本来、最高裁が過払金返還請求事件が何件あるのか司法統計で明らかにすべきである。過払金返還請求事件のくくりが難しければ、金銭を目的とする事件の内、「不当利得返還請求事件」の件数であれば容易に集約できるはずである。それによって、現在の裁判所の実態は鮮明になるはずである。
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