ある離婚相談
大企業に勤め、定年も間近い冬、帰宅したら、妻は家を出ていた。
テーブルの上に、行方を捜すな、本人に連絡しようとするなと、仰々しく弁護士数名が名を連ねた通知書が1枚。
別れ話など、全く予兆はなかった。
やがて、一方的に届いた離婚調停の呼び出し状。
奥さん、それはないでしょう。
夫が、よほどの異常者だというなら別だ。
まがりなりにも定年までの30年を暮らせたのだから、異常者という訳でもあるまい。
定年離婚もいいだろう。
しかし、何の断りもなく、突然の蒸発で接触を断つのは、いくら何でも夫に失礼ではないですか。
あんな男と話すのは無駄。
これ以上、顔を見るのもイヤだというなら、せめて自分の言葉で、なぜ、夫のここが、あそこが、いやでいやでたまらなかった。
あるいは、あのとき、夫はこんなだった、あのときあんなだった、と夫の悪口を書き連ねた手紙でもいい。生の声を残さなかったのか。
男はそれでも、わからないだろう。
わかろうともしないかもしれない。
しかし、せめて、なぜ、自分は家を出るのか、自分の言葉で伝えるのが、長い年月を暮らした相手に対する礼儀ではないのか。
長年の配偶者としての責任ではないのか。
かく言う私は、離婚(した)弁護士である。
男の立場で、つい一言、言いたくなったので、書く。
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