お見事! 家庭裁判所様
裁判所というと、いかめしく近づきがたいという印象の人も多いと思う。
でも僕の知る限り、役所の中で一番親切なのが、裁判所だ(但し、刑事部を除く)。
今回は、裁判所に成り代わり、裁判所は親切ですよとのアピールを1つ。
6年前に奥さんを亡くされた80代後半の一郎さん。
自宅は持ち家だが、奥さんと共有で
奥さんの持分が3分の1ある。
ささやかな相続財産だが、
このまま自分も亡くなってしまうと
権利関係が複雑になって、
手が付けられなくなるのが心配である。
6年前に司法書士に相続登記を依頼したが、
今年になって、結局、「弁護士に頼むよう」に言われたという。
2人の間には子どもはなく、
むろん奥さんの両親も亡くなっている。
この場合、配偶者である一郎さんと奥さんの兄弟姉妹が相続する。
一郎さんの相続分が4分の3、
後の4分の1を奥さんの兄弟姉妹が頭割りで相続する。
、
兄弟姉妹が奥さんより先に亡くなっているときは
兄弟姉妹の子、すなわち甥姪が兄弟姉妹の相続すべき分を代わって相続する。
法律関係自体は、至って簡明で難しいことは何もない。
奥さんは両親の間に生まれた一人っ子である。
が、両親がそれぞれ再婚で
父方の兄姉と、母方の兄姉が合わせて12人もいる。
兄姉も亡くなって、甥姪の代になっているのが半分以上である。
自宅の持分の3分の1の4分の1が
兄弟姉妹の相続分であるから、
持分12分の1をこれら相続人14名(兄弟姉妹+甥姪)が
相続したことになる。
一郎さんが、自宅を単独所有するためには、
この14名全員の同意を得なければならない。
奥さんの父方の兄弟姉妹は、奥さんの葬儀にも来たと言うが、
母方の兄弟姉妹は全く面識がない。
法律関係は簡単明瞭だが、
実際に同意を得るのは極めて繁雑である。
個別に交渉しているのでは、とても埒があきそうもない。
とにもかくにも、家庭裁判所に遺産分割協議を申し立てた。
調停期日に来てもらえば、裁判所から話をしてもらえるし、
出席しない場合でも、事前に承諾書を徴して分割することが可能だ。
調停の間に何回か僕から相手に連絡して理解を得るのは当然のこととして、まずは裁判所の手続きに乗せる。
3、4回くらい調停期日を重ねれば、
成立するだろうか、というくらいの読みだった。
ところが、家庭裁判所の活躍は、予想をはるかに超えた。
調停期日を指定する前に、
調査官が担当することになって、電話で当方の意向を確認しながら、
調査官から全員に手紙を送り、兄弟姉妹甥姪の意向を確認する。
逐一、僕に連絡をくれながら、調停条項の成案を作成し、
ついに全員の同意を取り付けてくれた。
父方の甥姪は、全員一郎さんに相続分を譲渡する書面を提出して
調停からは脱退。
母方の兄姉甥姪には出頭の意思を確認し、
遠方のため出頭が困難な相続人には、
事前に調停条項を送付して受諾する旨の書面を取り付けてくれた。
第1回調停期日が指定されたのは、
こうして全員の同意を取り付けて
調停が成立するばかりになってからであった。
こうして、第1回調停期日には、僕と一郎さん、
母方の兄弟が2人出頭しただけで、
調停成立。
この間、わずか2か月あまりのスピーディな処理であった。
何か、任せっきりで申し訳ないほど
家庭裁判所の調査官は親切であった。
電話の声にも張りがあり、気持ちよいやりとりが続いた。
そんなことなら調停にせずに、
弁護士が自分で遺産分割の同意書を取り付ければいいのにと言われそうなので、言い訳を考える。
中立の裁判所に対する信頼があるからこそ
スムーズにことが運んだのだと
詮もない言い訳である。
いや、でも、日本の裁判所は(刑事を除いて)
普通の事件では十分に信頼に足ると思う。
市民の信頼を得ているから、
スムーズに運んだのは本当だと思う。
潔癖であることでは人後に落ちないことを自負しているが、
裁判所は、稀な非行を除き、組織ごと潔癖である。
所在尋問などで当事者の家などに出張することがあっても、お茶は飲んでも、お茶菓子は食べず、コーヒーは断る。
社会常識がないと言われても、僕は、この裁判所の姿勢を支持したい。
調査官様、それにしても、お見事なお手並みでした。
本当に親切な家庭裁判所に脱帽である。
一郎さんの自宅と、ささやかな願いは
こうしてきちんと守られたのである。
家庭裁判所の調査官を初めとする皆さま、
遅くなりましたが、篤くお礼申し上げる次第です。
本当に、ありがとうございました。
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