記者魂(体験的マスコミ論5)
東海テレビの件、あれから、また少し考えた。
東海テレビがビデオ映像を証拠採用しないように求める上申書を出したのは裁判干渉であり、非難されるべきである。
ただ、映像を撮った記者は今、どう思っているだろうと想像したら、自分にも、映像を裁判所に提出するか否かで迷ったことがあったことを思い出した。
その件では、結果的に、裁判所への提出を断念した。
今回弁護団が提出した映像は、『毒とひまわり』というドキュメント映像ではないかと想像される(その中の事件当時のニュース映像だけけを抜粋したのか、全体を出したのか不明だ)。
このドキュメントは、事件の本質に深く切り込んだドキュメントとして高い評価を受け、賞も受賞している。
そういえば、ヒステリックなバッシングに一方的に、さらされていた光市母子殺害事件の弁護団の実態に迫るドキュメントを作成し、賞を受賞したのもやはり東海テレビだ。
残念ながら、こうした硬派で、社会に問題を投げかけるようなドキュメントを放映するのには現場では大変な苦労がある。
企画を発案した記者は、プロデューサーを納得させるために何回もの打ち合わせを持って、プロデュサーを説得しただろう。
さらに、プロデューサーが局の上層部を説得するのも容易ではなかっただろう。
こうして局上層部の了解が得られて、初めて硬派のドキュメントは、ようやく日の目を見ることができる。
それでも、割り当てられるのは、深夜の時間帯だ。
番組がすぐれているかどうかは、無関係なのである。
なぜか、テレビ局は、世間の雰囲気と合わない硬派の番組には、それほどまでも気をつかう。
僕が思い出すのも、こうした硬派なドキュメントだった。
なかなか理解が得られない半生にわたる被害を、たんたんと描いたドキュメントは、その裁判の原告の被害を訴えるのに、極めて適切な証拠であった。
裁判所への提出に強く反対したのが当該の記者だった。
裁判所で使われたりすれば、自分は二度と自分が作りたいと思うドキュメントを作ることができなくなる。
何度かやりとりしたが、彼女の意見は変わらず、結局、僕は、このドキュメントの証拠提出を諦めた。
マスコミには間違いなく、良心的な記者がいる。
日の当たらない問題に日を当てようとする記者を僕は心から尊敬する。
そうした記者を、煙たがり、硬派の番組を嫌い、何かことがあれば、良心的な記者を追いやろうとするテレビ局を許すことはできない。
鋭い問題意識や感性を持つ有能な彼ら彼女らがのびのびと仕事ができるようなテレビ局に変わってくれることを願ってやまない。