画期的! 妊娠中絶、男性に賠償命令
【判例時報2108号57p 合意で性交渉をし、合意で妊娠中絶手術を行った男女間において、男性が女性の身体的、精神的苦痛や経済的負担の不利益を軽減し、解消するための行為をしないことが不法行為に該当するとされた事例】
事件番号 東京高等裁判所平成21年(ネ)第3440号
自由意思で性交渉した結果、妊娠したが、産む条件がないために中絶した。
これまで、ほぼ全ての弁護士は、こうしたケースは不法行為にはならないと考えていたはずだ。
弁護士に相談しても、
全てあなたの自由な意思による結果だから、相手の責任を法的に追及するのはむつかしい。
ただ道義的な意味での責任はあるから、手術費用程度を要求することは当然のことだと思う、などとお茶を濁すケースがほとんどだったはずだ。
僕自身、そんなつれない対応をしてきたことを白状する。
全てが被害者本人の意思決定の結果であるから、その結果に対する賠償を求めること、違法な権利侵害を認めることが法律的には極めてむかしいことだったからだ。
ただ、男は無責任ですまされ、女性だけに不当に過酷な負担を負わせる結果になることには、どうにも釈然としない強い違和感は感じていた。
しかし、裁判にしても勝ち目はない(と思っていた)。
東京高裁平成21年10月15日判決は、妊娠中絶させたこと自体を不法行為ととらえるのではなく、妊娠中絶に至った女性の精神的・肉体的苦痛や経済的負担を軽減する義務が男性にあるという法的構成をとり、男性がその義務に違反したとして損害賠償を認めた。
共同の性行為に由来するものであるから、男女は等しくその不利益を分担すべきであり、その不利益を分担しない男性の行為は、法律上保護された女性の利益を違法に侵害するとしたものである。
裁判所の論理も、直接、妊娠中絶に至らしめた行為を不法行為とするのではなく、事後的な対応をとらえて不法行為としている。
法的に言うと、一種の先行行為に基づく作為義務という特殊な構成を取っているように見える。
その意味で、かなり複雑な法的構成になっていることは否めない。
極めて常識的な結論を導くのに法律はかくも厄介な理屈をこねないといけないのである。
また、この判決は不利益を分担すべき義務を導き出すために「条理」を用いている。
「条理」は明確な法律上の根拠が見いだしがたいときに持ち出されるもので、これを根拠とする判決例もまた極めて珍しい。
条理 「民事裁判ニ於イテハ成文アルモノハ成文ニ依リ成文ナキトキハ慣習ニ依リ成文慣習共ニ存セサルトキハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ」
これは、明治8年太政官布告第103号裁判事務心得第3条である。現在も、裁判規範として効力を有している。
願わくは、この判決が、世の無責任な男どもに対する警鐘になることを強く望む。
女性側の代理人弁護士名を見たら、知っている女性弁護士だった。
弁護士100人に相談しても、多分、100人とも勝訴は無理だとして断るような類型の裁判だ。
なるほど、彼女なら、この難題に挑んで勝訴をもぎ取るのだなと感銘を受けた次第である。
追記 6月7日
判決の認容額は114万2302円
女性の精神的苦痛 200万円
(いわゆる慰謝料部分)
治療費等 68万4604円
合計268万4604円を双方平等に負担 134万2302円
134万2302円に弁護士費用10万円を加算して144万2302円。
男性が中絶費用として30万円を渡しているので、これを控除して、114万2302円の賠償を命じた。
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