東電OL事件の照らす闇 途上国を見る目
この事件は、刑事裁判としても異例の経過をたどった。
3年の審理の後、東京地裁が無罪判決を下したのが2000年4月14日。
東京高裁が、一審判決を覆して無期懲役を言い渡したのが同じ年の12月22日。
高裁の初公判は8月24日。
高裁は、わずか4か月で、無罪判決を覆して無期懲役判決を下した。
この間に、一種、超法規的ともいえる事態が起きた。
無罪になれば、勾留状は効力を失う。
したがって、被告人は直ちに釈放される。
身体の自由は最も基本的な人権であるから、無罪になれば、速やかに身体の自由が回復されなければならない。
ところが、検察は、執拗に再勾留を地裁に、そして高裁に申し立てた。
無罪判決を受けた被告を、独自の審理もしないまま、高裁が再勾留するのは無罪判決の意義を失わせる。
1審の無罪判決を覆して、有罪判決をするとしても、有罪判決を下す前に高裁が再勾留した事件など、後にも先にもこの事件だけのはずだ。
ゴビンダは不法滞在の状態にあったため、再勾留しないと、強制送還され、場合によっては審理に支障が生じるかもしれないという事情はあった。
しかし、これは刑事訴訟手続と出入国管理法の間に調整規定がないということから当然に想定されることであり、法の整備によって解決されるべき問題である。
地裁の無罪判決は、少なくとも高裁の審理によって、被告の有罪が確実視されるまでは尊重されなければならないだろう。
検察が再勾留を請求すると報道されたとき、
そんなことにはならない、そんなことになっていいはずはないと思っていた。
案の定、再勾留の請求は地裁で却下され、高裁で一度は却下された。
しかし、結局、3回目の再勾留請求を東京高裁第4刑事部は認めた。
再勾留をするということは、無罪判決を受けたゴビンダ被告に審理もしないまま「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」があると認めたことに他ならない。
再勾留の決定を東京高裁第4刑事部は、地裁から刑事記録が送られたわずか1週間後に下した。
そして、同じ第4刑事部が、わずかな審理で、ゴビンダ被告に逆転有罪判決を下したのだ。
最初から予断をもっって臨んだ裁判所によって、ゴビンダ被告は無期懲役とされたのだ。
ゴビンダが、西洋人であったなら、果たして、無罪判決直後に再勾留とするという決定を裁判所がしたか。
たとえば、アメリカ人だったら、たとえばフランス人だったら、無罪判決を受けた被告を再勾留すれば、当該国政府から抗議を受け、外交問題・国際問題に発展しかねないことを裁判所も想像しただろう。
しかし、ネパール人であるゴビンダには易々と再勾留の決定を下した。
この点を佐野真一氏は「東電OL症候群」において鋭く突いている。
無罪判決直後の再勾留にも、ネパール政府は、最後まで沈黙を守った。
日本のODAに頼っているネパール政府は、決して抗議できる立場になかった、と。
日本人が外国で無罪判決を受けたとする。
にも拘わらず釈放されず、勾留されたとする。
当然、国民世論がわき上がり、政府も、抗議せざるを得ない事態に追い込まれるだろう。
ネパール人だからこそ、敢えて再勾留をすることができたのだ。
この事件は、日本人の途上国に対する根深い差別意識も浮き彫りにしている。
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