法律教養択一問題(回答編) 大人になったネ!日弁連
【問題】
本年6月20日、原子力基本法に「わが国の安全保障に資すること」との文言を加える法改正がなされた。この問題に関する各論述の中で、日弁連の主張に最も近いものはどれか。あわせて、日弁連の主張に近いと思われる理由を述べよ。(問題文全文はこちら)
なお、日弁連の主張の他に掲げたのは朝日新聞、中日新聞、琉球新報の各社説である。
【回答】
①が日弁連の主張である。
各論述の結論部分を抜き出し、それぞれの出典を示すと以下のとおりである。
①日弁連会長声明(6月21日)
さしたる国民的議論もないまま国会で実質的議論がなされることもなく、原案のまま成立したことについては、深い憂慮を覚えるものである。
②朝日新聞社説「原子力基本法-『安全保障』は不信招く」(6月22日)
核兵器開発の意図を疑われかねない表現であり、次の国会で削除すべきである。
③琉球新報社説「原子力基本法改定 核兵器開発に道開くのか」(6月25日)
国会は直ちに再度の法改正を議論すべきだ。どうしてもこの法を制定したいと言うのであれば、国民の面前で堂々と議論し、その正当性を問うべきだ。
(中略)
仮に提案者の言うような意図なら、軍事利用という解釈の余地が全くない文言に改めるべきだ。
④中日新聞社説「安全保障追加 平和の理念ゆがめるな」(6月22日)
政府は原子力の平和利用の原則を堅持すべく、基本法の再改正をすぐにも考えるべきだ。
例示した各紙の社説が、等しく「我が国の安全保障に資する」との文言を削除する再改正まで踏み込んで主張するのに対して、「深い憂慮を覚える」に止めた日弁連の主張は、各社の社説と比べても際立っている。
ちなみに、産経新聞は6月24日の社説で「原子力基本法 『安全保障』明記は当然だ」と積極的に法改正を支持している。しかしながら、以下のような配慮はすべきだとしている。
「それでも、この件を単なる誤解や曲解として事態を軽視する対応は禁物だ。政府は国内外に対し、速やかに誤解を解くための手を打たねばならない。
日本は非核保有国として唯一、再処理が認められている。基本法の改定が核兵器製造に直結しないことを、世界に向けて改めて強調しておく必要がある。」
日弁連が単なる「憂慮」の表明に止めたのは、「安全保障」との文言を「核兵器保有」、「核武装」と即断するのは誤解であるとの主張に配慮した結果とも受け止められる。
産経新聞の上記社説は、以下のように結ばれている。
「同時に、抑止力などの観点も含めて原子力技術を堅持することは日本の安全保障にとって不可欠である。非核三原則の見直しなどの論議も封殺してはなるまい。こうしたことも心に刻んでおく必要があるのは言うまでもない。」
産経新聞は「核兵器」と結びつけるのは誤解だと主張しながら、一方では、「抑止力」の観点も含めて原子力技術を堅持することや、「非核三原則の見直し」も主張しており、少なくとも将来的には軍事的な意味で「我が国の安全保障に資する」ために原子力を利用することを検討することを主張している。この構造は、かなり入り組んでいて理解しにくいが、「今回の改定が核兵器製造に直結しない」とする主張を見れば、今回の改定を核兵器製造へ向けた第一歩とすることをためらってはならないという趣旨に解すべきであるようにも見受けられる。
さて、設問に戻ると、日弁連はこれらの意見の中で、中庸を図ったというように見受けられる。
「安全保障を掲げることにより軍事転用を図ることはないとの答弁がなされ、さらに、附帯決議において、『我が国の非核三原則はもとより核不拡散についての原則を覆すものではないということを国民に対して丁寧に説明するよう努めること』とされている」
ことにとくに触れている点も地味ながら、法律家らしい実務的な視点である。
「アカイ、アカイ」朝日新聞が遠い昔語りに過ぎないように、「何でも反対」日弁連も昔語りに過ぎない。
日弁連は、平和憲法の根幹に関わって世論が大きく分かれる微妙な問題については、できる限り、極端な立場に走らないよう中庸で穏健な見解の表明に止めるように努めるようになっている。日弁連も大人になったのである。
世には、未だに日弁連というと、左翼の団体という誤解があるように窺われるが、そのような認識は、遠い昔の話なので、改められるべきだ。
なお、日弁連がこの問題について法改正ではなく、「憂慮」の表明に止めた具体的な理由については、真相不明というほかない。
選択肢として考えられるのは以下のようなものであるが、ヒラ弁護士からはうかがい知ることはできない。
①日弁連内部の核武装勢力と平和憲法擁護勢力のバランスを取った
②日弁連は中庸な団体であることを示す必要がある
③日弁連には政権に近い人が多くいる
④民主党政権には弁護士が少なくないので、事情説明を受けた
⑤その他曰く言い難い何ものか
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