アスペルガー障害者に対する隔離・収容判決 今日の中日新聞
何かとこの世は、「よいしょ」をしておくと過ごしやすいこともある。
今回は、中日新聞8月12日付から「中日新聞を読んで」に「よいしょ」する。
アスペルガー症候群の被告による殺人事件で、求刑16年を上回る懲役20年の判決が下された事件(大阪地方裁判所平成24年7月30日判決)に関する中日新聞の社説に関する論評である。
この事件については、大阪弁護士会による会長談話が出され、続いて日弁連の会長談話も出されている。
日弁連の会長談話から判決文を引用する。
「いかに精神障害の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば・・・被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される」こと及び 「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない」ことを理由として、「被告人に対し ては、許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが、社会秩序の維持にも資する」として、有期懲役刑の上限にあ たる量刑を行った。(8月10日付日弁連会長談話から。「」は判決文の引用)
会長声明や一般紙の伝え方は、障害者に対する無理解と排除の考え方を批判し、合わせて、この判決の考え方は犯罪を犯す可能性があることを理由に予め拘禁する予防拘禁であり、現実に犯された犯罪に対する処罰を決める刑事裁判の本質に反すると批判するものであろう。
「中日新聞を読んで」は、さらに一歩踏み込んでいる。
まず、裁判員制度の仕組みから、今回の判決が、裁判員だけによる多数決ではなく、少なくとも裁判官の内一人は、アスペルガー障害者が将来、犯すかも知れない犯罪を予防するために隔離・拘禁する必要があると判断したという事実を鋭く突いている。
刑務所の実態や刑罰の根拠を知らない市民がこうした見解を持つことは、まだ理解できないではない(賛成はできないが)。しかし、知識を備えた裁判官がこの見解に賛成したということは、恐ろしいことである。市民が裁判に関わるのは今回限りだが、この裁判官は今後も刑事裁判に関わり続けるからである。
さらに、筆者は、この判決は決して他人事ではないと鋭く警鐘を鳴らしている。
ナチスの強制収容所に入れられたのはユダヤ人ばかりでなく、常習的犯罪者や障がい者もいたと聞く。社会防衛の名の下に、犯した罪と無関係に市民を隔離することが許されるという恐ろしい社会が来ようとしている。
常、オオカミ少年を演じる、マチベンも脱帽である。
確かにおっしゃるとおりである。
この判決を一般市民の問題だととらえ、「恐ろしい『隔離』判決」とする筆者の卓越した見解に感服する。
社会秩序の維持に資するために重罰を与えようとする思想は、反社会的勢力を排除しようとする風潮と結びつくとき、恐ろしい収容所社会を生み出すだろう。
反社会的勢力には、エセ社会運動家ゴロやこれに準ずる者も含まれるとする解釈が一般的なようである。
エセ運動家か本物の運動家かを誰がどうやって決めるのか、さっぱりわからない。
建築紛争に関わることが多く、市役所に抗議に行くことが多かったマチベンは、「特定市民」(一般市民とは区別されるクレーマー市民だから、要警戒ということのようだ)に分類されていたこともある。
「特定市民」は、「エセ運動家ゴロ」とどう異なるのか。
誰かが、「エセゴロ」と認めれば、市民運動をしている人は、「反社会的勢力」になるので、社会秩序維持のために隔離収容できるという発想がこの判決の根底にはある。
「中日新聞を読んで」の提起に答え、さらに反転させて、一般市民の多くが、そのように考えているということに、マチベンは「排除社会」の別の恐ろしさを感じる。
裁判員裁判の本質的な狙いが、案外、国民を権力行使に参加させ、市民感覚による「社会秩序の維持」を実現することにあったのかもしれないと、今さらながら、つくづく思う。
折しも、原子力利用の目的に「我が国安全保障」が加えられた。一方で、軍事情報へのアクセスを厳しく取り締まる秘密保全法が用意されている。
秘密保全法が成立すれば、原子力の利用に関わる事柄は軍事情報に当たるから、原発事故の真相を知ろうとする活動は犯罪になる。
反省の情がなく、犯罪を繰り返し犯すおそれがあれば、問答無用で収容所送りとなる。
かくして原発帝国は完成を見る。
今日のブログは「よいしょ」を目的としている。
卓越した見解を披露したのは、愛知県弁護士会のG弁護士である。
「よいしょ」をしておくと、世の中は何かしら、役に立つこともあるのではないかと勝手に想像しているのである。
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