フォト

日本ブログ村

ブログランキング

  • マスコミに載らない海外記事
    本ブログとセットで読むと、世界のニュースと法律解説がセットでわかります。(;^_^A アセアセ…

  • * ランキングに参加しています *
    応援クリックしてもらえるととっても励みになります
    人気ブログランキングへ

« 2013年1月 | トップページ | 2013年3月 »

2013年2月の16件の記事

2013年2月28日 (木)

リアルタイム弁護士運転資金借入体験記 続

憲法やら、自動車業界のことを心配してやっているかと思えば、懐具合を心配するのがごく普通の庶民に依存しているマチベンのマチベンたる所以である。


さて、リアルタイムと言いながら、もう1週間も前のことになるが、日本政策金融公庫の国民生活事業の担当支店を訪問した。
なお、国民生活事業の運転資金の返済期間は5年間である。


借入申込書を送ったところ、来店日時と持参資料を記載した手紙が届いていた。
持参資料は以下の通りである。


  1. 過去2年分の確定申告書の決算書類
  2. 所得税、消費税、源泉所得税(平成24年7月以降)の領収書
  3. 預金通帳(平成24年8月以降)
  4. 借入金のある場合は、毎月の支払金額・残高のわかるもの(住宅ローン・カードローンを含む)
  5. 事務所関係の賃貸借契約書、地代家賃の領収書(平成24年8月以降)
  6. 月別売上のわかるもの(平成24年1月以降)
  7. 弁護士の資格証明
  8. 運転免許(本人証明)

だいぶ前から弁護士の身分証明書らしきものが発行されるシステムになったらしいことは知っているが、写真を撮るのが面倒である。
とにかく古手の弁護士は、バッジ一つで渡ってきたという思いがあるので、身分証明なるものを持っていない。いちいち弁護士会に行って(30分以上かかる)発行してもらうしか方法がない。
ま、それも借りるための手間と考えて素直に従う。


困ったのは、月次売上である。
実は平成24年の売上は、従前に比べてがくんと減っている。
お察しのとおり過払金関係の事件がなくなったからだ。
マチベンの場合、全国で1000件程度の自己破産しかなかった当時から、破産事件は、30年来の安定収入であった。
体を張って債権者と渡り合った昔と違い、破産事件は、最近では、ルーチンな書類事務部分が多いから、事務員をこき使って、上前をはねるのに恰好の仕事である。
多重債務はマチベンにとって企業系事務所の顧問料みたいなものであった。
ところが、過払金ブームが去った後は、さっぱり、破産事件すら来ない。
しっかり、コマーシャル事務所と法テラスに奪われた印象である。


という訳で、平成24年は、歴然と売上が減っているのである。
だから、確定申告で売上減がばれる前に、駆け込みで借入に走ったのだが、敵もさる者である。というか、当たり前ではあるが、しっかりと、直前の状況まで見届けようとしている。


さて、担当支店に入ると、まるで、サービスのよい銀行のようである。
「いらっしゃいませ」と声をかけられたかと思うと、担当者が現れて、「今回はありがとうございます」とおっしゃる。
何がありがたいか、とんとわからんが、とりあえず借りることに対する屈辱的な思いはしなくてもよいようである。
事前リサーチでは、返済して元本が減って枠が空いてきたら、追加で借りてほしいというサラ金まがいの営業があったという話もあったので、さもありなんでもある。


さて、ブースで担当者と対面すると、「一時間をほどかかります」と言われる。
弁護士なら5分で即決かと思っていたが、そうではないと腹を括る。


まず、資料確認から始まる。
で、まず言われたのは、希望日に沿うのはむつかしいかもしれませんとのこと。
3月8日を希望日にしていたので、初回借入は、3週間ではむつかしいようである。
別に、今日明日のカネがない訳ではないので、とりあえず、鷹揚に「結構です」と応えてみる。


経験を聞かれ、「31年」と応える。
今回、借入に至った理由はと聞かれたので、とっさに、イソベンを引き合いに出すことにした。
イソベンを雇ったので、預金残高が減ったのだ」と。


「どうして雇われたのですか」と聞かれるので、「ちゃんとした仕事のできる弁護士を育てたいからだ」と、また、高邁なことを言う。
本当は楽をしたくなったからなどとは決して言わない。
どうも、よほど、借り入れることがコンプレックスになっているみたいで、言っていることがいちいち、鼻につくほど高慢である。


それだけでは弱いと思ったので、イソベンの経済効果論をひとくさり垂れてみる。
一種の先行投資みたいなもので、そのとき設備資金で借りてもよかったが、自分のときは、初めから一人で仕事をさせられたが、今どきのイソベンがひととおり仕事ができるまで、3年はかかると思わなければならない。
完全に「今どきの若い者は」のおじさん状態である。
3年待っている訳にはいかない台所事情なので、その間の運転資金を借りに来たとのたまう。


担当者は、経費を計算して、月間140万円かかっていると恐ろしい数字を言う。
確かにイソベンやら何やらで、経費増である。
とくに腹が立つのが広告費なので、いかに弁護士会のつきあいで、新聞の名刺広告を出さなければならないか、年間30万円は、名刺広告にかかると話すと、やや驚いた表情である。
その上、駅看板やら、区役所の封筒やら、郵便局の封筒やら、この間は、区政50周年とか言われて、はずんだとか、愚痴を言い出すと止まらない。


今後の見通しを聞かれる。
見通しは、頑張るしかないのである。
イソベン効果が出るように頑張ってみると、わが事務所の命運を、全てイソベンにかずけた上、問題は単価の低下だと力説する。
僕らが弁護士になる少し前の弁護士は、内容証明一本で、相手方からお金が入るおいしい時代だった。
僕が弁護士になったときでも、破産者に着手金25万円というと、ちゃんと誰か助けてくれる人がいて、即金で持ってきてくれた。
ところが、今は、中間層が崩壊しかかっている。
まず、普通の事件でも着手金が払えないので、分割払いになる人がいる。
しかも、判決で勝ったからと言って、払われる保障はない。
昨年だけでもカラ判決が何本かあった。
むつかしい事件を2年も争って、勝訴判決を取り、強制執行までかけたのに、別会社だと言い張られて、依頼者が諦めてしまったケースもある。
今は、法律論よりまず取れるような相手か相手を選ばなければならない。
だから、著しく労働効率が下がり、単価も下がっている。
今後、日本の中間層がどうなるのかが、勝負である。
なぞと、持論を展開する。
弁護士業界は珍しいのか、担当者も面白そうに聞いてくれている。
というか、借入窓口は、ひょっとしたら、一種のカウンセリングの場かも知れぬと思う。


で肝心の貸付額の目安である。
この経費に最低でも養育費を合わせて生活費として30万円くらい必要ですねとおっしゃるので、そりゃそうですと応える。
ここでの話は、生活費を含めた(何と言っても国民生活事業者である)月経費の2,3ヶ月分という話であった。


ここで、マチベンは、それでは足りないと力説する。
弁護士の売上はとにかく上下が激しいし、売上が少ないときは極端に少ない。
平成24年を見てもらうと、最低の売上の月と、最高の売上の月の間にざっと20倍近い開きがあるではないか。
年間で何とか帳尻を合わせているので、2,3ヶ月では足りないと、とにかく業種の特殊性を考慮してほしいと必死の抗弁である。


最後に、初回借入なので、事務所を見る必要があるとのことで、その日の夕方に事務所が本当にあるか、確認に見えた。


という訳で、当面、結果待ちの状況である。
500万円は確保したようだが、どれだけ上乗せできるか。
そういえば、元本均等払いで月の元本返済額が10万円を超えるかどうかも(国民生活事業の)一つの目安だとも言われた。


今日の教訓
借主はお客様。
担当者は、悩める国民生活事業者のカウンセラー。

 

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月27日 (水)

TPPと自動車安全基準2 マスコミの大罪

一昨日のブログで、安倍総理が、オバマ大統領に対して、自動車安全・環境基準の国際標準化という日本の成長戦略を放棄するという大失態を演じたことに触れた。
TPPと自動車安全基準」(2月25日)


このことを覆い隠して、安倍首相をもてはやすマスコミに苦言を呈したばかりだ。朝日新聞至っては、「安倍首相の日米首脳会談 での対応を、『非常に高い評価をするべきだと思う。交渉能力は素晴らしい』」との経団連会長の発言を引用してまで安倍さんにゴマをすっている(2月25日)。


しかし、さすがにマスコミがここまで腐っているとは想像も出来ない出来事が起きていた。


マスコミは、この会談の直前に、TPPと自動車安全基準・環境基準に密接に関する重要なニュースを知りながら、このニュースも報じず、安倍首相が国家的な成長戦略を放棄したことを覆い隠していたのだ。
というか、お前は今頃知ったかと言われそうな話であるが、マチベンは、とことんお人好しで人を疑うことを知らないので、お許し頂きたい。


実は、2月上旬には、韓国では、韓国版エコカー補助金制度(低炭素車協力金制度)が、米韓FTAに反するということで、大幅に先送りされていたことが判明していたのだ。
低炭素自動車支援政策、韓米FTAがブレーキをかけた
(ハンギョレ新聞2月7日)


これを報じた日本の新聞は、多分、二紙しかない。


韓国の低炭素車 “米国ルール”で延期 「FTA違反」で強要
(日本農業新聞2月15日)


やや遅れて赤旗(2月23日)である。
韓国排ガス規制 “米の横やり”で先送り 


マスコミは、どこだってソウルに駐在員を置いている。
だから、安倍訪米の直前には、アメリカとのISD(投資家対国家紛争解決制度)が、エコカーの息の根を止める具体例を目の当たりにしていたのだ。
そして、交渉に入りもしないのに、国家戦略である自動車環境基準の国際標準化の放棄をするように釘をさされた事実にほおかむりして、TPP礼賛記事を書きまくって、安倍政権の支持率を上げるのにやっきになっている。


なお、日本農業新聞はソウル駐在員がいないようだし、発行までの時間もマスコミには敵わないと思われるのに、1週間で記事にしている。


赤旗はソウル駐在員がいると思われるが、2週間もかかったのはどうしてだろう。但し、赤旗は一面トップで大きく採り上げていたらしいことは褒めてあげる。


マスコミのデスクは、日本農業新聞にも赤旗にもちゃんと目を通している。
ついでに付け加えれば、日弁連執行部も。
にも拘わらず、売国政権の人気取りのために、極めて重要な事実をひた隠しに隠す。
今回の件は、地方紙すら、無視して通ろうとしているようだ。
地方紙も、比較的大きな社は、ソウル駐在員がいるのにだ。


好きでも嫌いでも、韓国はすでに「近くて近い国」である。
そして、アメリカとの関係では否が応でも運命共同体である。
その国で起きていることが、日本人には伝わらない。
何か空恐ろしいことがこの国では、起きている。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

追記

赤旗さんへ。

貴紙に対する私のエールを読んでいただけてますか?


今や、赤旗は日本で一、二を争う偉大なるメディアになりました。かの中日新聞ですらTPPには手が出せないのです。

仄聞するところによると、赤旗は、配達する人の高齢化が進んだ上、人手が足りず、配達限界集落はもちろんですが、配達限界都市すら生まれていると聞きます。拡大に勤しんでも配達する人がいなくては、赤旗の滅亡も遠くないかと思うと、気が気ではありません。


ここは、どうです。編集権を独立させて、共産党とは違う主張でも堂々と載せる一般紙へ脱却されては?


編集長や報道局長なら私、心当たりがありますので、どうぞご遠慮なさらず、ご連絡ください。


よいお返事を心よりお待ちしております(*^ー゚)bグッジョブ!!

2013年2月25日 (月)

TPPと自動車安全基準

安倍首相は、底なし沼に踏み込みつつある。
コメ関税と引き換えに、日本を丸ごと外資に売り渡すTPPへの参加を表明する段取りという。


例によって、大手メディアは歓迎一色だ。


しかし、提灯持ち記事を書くメディアの中でも見逃せない情報はある。
アメリカは、コメ関税と引き換えに、自動車の安全基準の緩和を求めているという。


日本政府が義務づけている自動車の安全基準について、米国などからの輸入車に対しては基準をゆるめるよう求めた。(2月24日朝日新聞)


自動車の安全基準・環境基準の緩和は、アメリカが年来、日本に突きつけている課題で、日本側が珍しく持ちこたえてきた課題だ。
日本は、「一方的に全ての関税撤廃をあらかじめ約束することを求められるものではない」(米韓FTAでもコメ関税は維持されている)というおまじないのような一言と引き換えに何とか守ってきた安全基準やおそらく環境基準をアメ車並みにすることを認めるように釘をさされた。出足早々の失態である。
メディアは当然、この交渉は大失態だったことを知っているが、それを覆い隠す「歓迎」を演出してごまかしている。


まず、TPPが多国間交渉だということが、認識されていない。
アメリカ車だけに輸入の特例を設けて優遇するということが許されないのは多国間交渉の当然の前提である。
したがって、少なくとも、日本は、これを受け入れることによって、TPP加盟国からの輸入車の安全基準・環境基準を全体としてアメリカ車並みに緩和することを認めざるを得なくなる。


これは、自由貿易協定では、最恵国待遇が大原則となっているからだ。
最恵国待遇とは、相手国を現在及び将来にわたって、最も有利に待遇される第3国と同等の待遇を与えるという原則である。


TPPという同一協定の中で参加国を差別するのは論外であるのはむろん、TPPで輸入車の基準を緩和すれば、日本がこれまで締結してきた自由貿易協定各国に対しても、アメリカ自動車並みの安全基準・環境基準緩和を承認しなければならない。
国内メーカーだけに厳しい基準を適用するわけにはいかないから、結局、国内の自動車安全基準・環境基準をアメリカ自動車に合わせたものに緩和しなければならなくなる。
結果として、国際的にも国内的にも日本車の優位性は失われることになろう。


従来、国土交通省は、日本の安全・環境基準を国際標準化することを成長戦略の重要な柱の一つとしていたようである(国土交通省平成22年11月「自動車環境・安全基準にの国際標準化に係る現状と方向性」)。


環境分野や製品安全問題等にかかる日本の技術や規制・基準・規格を、アジア諸国等とも共同で国際標準化する作業を行い、国際社会へ発信・提案することなどにより、アジア諸国の成長と「安全・安心」の普及を実現しつつ、日本企業がより活動しやすい環境を作り出す。また、スマートグリッド、燃料電池、電気自動車など日本が技術的優位性を有している分野においては、特に戦略的な国際標準化作業を早急に進める。 


アメリカの要求にしたがえば、日本車の環境・安全基準を国際標準化するなどという目論見は、不可能になる。
安倍政権は、TPP交渉の鳥羽口にも立たない間に、すでに、自国の国家戦略の一つを失う可能性を犯すという大失態を演じている。


国民を騙すために「聖域なき関税撤廃を前提とする限りTPPには参加しない」等として、TPPの最大の問題がコメの関税の問題であるかのように主張して問題をすり替え、ことの本質が、自国の国内規制の撤廃にあることを覆い隠すから、このようなことが生まれる。


メディアの罪もあまりにも大きい。
何度でも繰り返すが、TPPについて、正確な情報の提供に基づく国民的議論が必要である。


関連記事 2013年11月7日「トヨタの繁栄と衰亡

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月23日 (土)

サラリーマン ソープ嬢と同じと 説く朝日

23日の朝日新聞。


シスターとスナックママがサラリーマンにアドバイスするといった内容のインタビュー記事を『耕論』欄で大きく掲載している。


お二人のお話には教えられるところは多い。


しかし、人生論をサラリーマン人生と結びつけて論じるのは如何なものか。
いやしくも公器を謳う報道機関がサラリーマンの置かれた境遇を人生論で解決することを論じるのは、おかしいと思わないのか。まして広く輿論を興す興論を意識したと思われる『耕論』である。


かつてはサラリーマンほど気楽なものはないと、自嘲気味に語られた時代があった。デスクが知らぬ訳はあるまい。
過労死が大きな社会問題となった時代に比べてすら、サラリーマンの生活はゆとりを失い、長時間過密労働が常態化している。
限りのない効率化の追求によって、仕事は細分化され、マニュアル化された結果、ホワイトカラーの労働もブルーカラー化している。働くことの喜びを得られる機会は確実に減っている。
果ては若者をすりつぶすユニクロやウェザーニュースなどのブラック企業が一流企業ともてはやされる。


人生論は、青い鳥を追うのはやめよ、そこに止まれ、そこで咲けと主張する。
かつて不登校児を無理やり登校させようとしたように、我慢して会社に行けという。


おかしいだろう。
新聞の役割は、なぜ豊かなはずの日本で、今、サラリーマンのために人生論を論じなければならないのか、なぜ人生論が流行らざるを得ないのかこそを問うべきだろう。
メディアの企業迎合的な態度が、ブラック企業をはびこらせ、大企業での退職強要部屋の横行を許しているのではないか。


インタビューで取り上げられたらスナックママは、辛そうに黙り込む客に自らの過去を語って慰めると言う。ソープ嬢を続けなければならなかった辛い過去だ。

パワハラもセクハラもあったけど、我慢して働いて、今は、いい人生だと思っている。あなたも逃げ出してはダメ。転職したからといって、いい会社がある訳ではないのよ。辛さを見せずに頑張って。辛くてもハラスメントに耐えれば、きっといい日が来るから。

『耕論』ではサラリーマン川柳も取り上げられている。


ここで一句。


サラリーマン
ソープ嬢と同じと
説く朝日

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

追伸

25日付の朝日新聞は、大企業に横行している追い出し部屋を一面を使って、特集した。現代企業の暗部に迫る当然の記事だが、好企画と褒めてあげよう。しかし、この記事を組むために、事前にサラリーマンもどんなに辛くてもソープ嬢に比べればましじゃないの(それ自体、ソープ嬢に対する敬意を欠くように思うが)、とどまって頑張りなさいと解く企画を打たねばバランスが取れないという朝日新聞のデスク判断は、到底、いただけるものではない。

傑作! 純と愛

今日、2月23日の純と愛は必見。
このドラマは最初から現代日本の歪んだ社会に向き合っていたし、家族の葛藤という普遍的な問題にも真正面から向き合ってきた。出足こそ、ご都合主義や、外資に買収されてリストラされてもホテルの従業員が団結するなんてバカかと思われる展開もあったが、後半、主人公は、まさに等身大で現代日本の矛盾に対峙してきた。

登場人物は社会的不条理を初めとして、それぞれ辛い体験を抱えながら、純の真っ直ぐな思いに自分を取り戻していく。

何もかも失った人々の溜まるドヤにしか見えない『里や』で願いであった「魔法の国」を三度目にしてようやく実現するかに見えた純。しかし、作者は、またもや『里や』の全焼というあまりにも過酷な試練を純に与えた。

純によって救われ、純を支え続ける愛(いとし)を風間俊介が好演。今日は絶望の淵に置かれた純に、愛が自分をさらけ出して、ぶつかっていく。間違いなくこの物語のクライマックスの一つ。
そして認知症の純の母が示す愛情。暴君から解放された認知症の母は、無条件の愛を体現している。

何もかも失った人を受け入れるのが沖縄の心という暗喩もいい。作者は間違いなく現代日本を知っている。


今日は朝から泣かされた。
気になる方は、昼の再放送、来週の週間再放送をどうぞ。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月21日 (木)

ISDの罠 番外 TPPを慎重に考える会学習会(第44回)

レジメ「TPPを慎重に考える会」をダウンロード


昨日は、国会へ行ってきた。
ひょんなことから、篠原孝衆議院議員から、「TPPを慎重に考える会」の講師に招かれた。


居並ぶ有名な先生方や、市民運動でも第一線の方々を前に話すのは大変に気が引けた。
しかし、憲法学者の先生が重い腰を上げるのを待っていては、手遅れになりそうな形勢である。
とにかく法律家から見て、ISD条項は、国連憲章を中核とする国政法秩序を紊乱し、憲法違反のオンパレードだということを精一杯、訴えた。

一応話の骨格だけ、ご紹介するとこんな趣旨の話をした。


◎国際法との関係

ISD条項は、
①外国投資家に国家を超越する法主体性を付与して、国家主権の絶対性の通念を覆し、
②内政不干渉・民族自決原則等の国連憲章に基づく普遍的国際法秩序を紊乱する。


◎憲法との関係

ISD条項は
①司法主権を侵害する結果、さらに
②行政主権、立法主権を侵害し、
③地方自治を無効化し、
④人権体系全体を書き換えてしまう。
憲法破壊であり、一種のクーデターのようでもある。


質問も極めて高度で、楽しかった。
新しく教えてもらったことも多かった。


岩上安身氏がUstreamでも中継してくださった。

第44回TPPを慎重に考える会

今は無料で見られます。岩上氏のサイトは、エキサイティングな議論がいっぱいあって面白いので、ぜひ、有料会員になられることをお勧めいたします。

レジメがないと、非常に分かりにくい話だったと思うので、この日記の冒頭にレジメをアップしておきました。


多少ラディカルなことを言っているようにみえるかもしれないけれど、多分、TPPが締結されてしまえば、何年後かには、みんな現実になっちゃう。


ホントに、あの場では、憲法学者か、日弁連のしかるべき立場の方に話していただきたかった。


マチベンは、これまでチャレンジングな訴訟を繰り返してきた。
そんなときに、良心的だとされる専門家に相談すると、軽く扱われるか、冷笑されることが極めて多かった。
誠実にマチベンの疑問に向き合ってくれた専門家は数えるほどしかいなかったのが実態だ。
でも、全てと言っていいけど、数年以内には、マチベンの主張が裁判所でも認められるか、そうでなくても社会が変わった。


だから、マチベンの疑問には真面目に取り合った方がいいと思う。


それから、日弁連に対する評価は僕が想像した以上に低いものでした。

まじめに国の将来を憂えている議員さんたちも、市民運動の方々も日弁連の態度には、猛烈な違和感をお持ちでしたよ。
このままでは、日弁連の威信の失墜必至です。


日弁執行部さん、考えるべきときが来てますよ!!


* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

資料1 「国家と投資家の間の紛争解決(ISDS)手続の概要
(平成24年3月 外務省・経済産業省)

資料2 「投資協定の概要と日本の取り組み」
(平成24年11月経済産業省通商政策局経済連携課)

資料3 「投資協定仲裁の新たな展開とその意義-投資協定「法制度化」のインパクト-
(小寺 彰 経済産業研究所 東京大学大学院総合文化研究所教授)

2013年2月14日 (木)

インフラ一斉崩壊 先送りする宴資本主義の果てで

以下は、土木技術者向けの専門誌『日経コンストラクション』に掲載された投書の引用である。

“橋が一斉に壊れる日がくる”

近い将来、などの土木構築物が一斉に壊れ始める日がくるだろう。あたかも新婚家庭が購入した電化製品が、しばらくして一斉に壊れ始めるかのように……。こうした問題は、一部の専門家の間ではかなり認識されているようだが、より広く世間に知らせる必要があるのではないか。

大量の橋を、いっぺんに補修したり掛け替えたりするのはほとんど不可能だ。いまのうちに、古くなった橋から順に、延命措置などの対策を施しておかなければならない。


また、このような投書もある。


“一斉に道路の傷みが進む日がくる

『道路舗装や構造物の耐久性と、その維持管理のあり方といった趣旨の特集をぜひ組んでもらいたい。高度経済成長期に大量につくった道路において、一斉に痛みが進む時期がいよいよ到来すると思われるからだ。


いずれの投書も、1997年2月14日号に掲載されたものだ。
それからすでに20年近い年月が過ぎた。
今、高速道路トンネルの天井板崩落を初め、道路の陥没、上下水道管の破断等の問題が噴出している。
現場の少なくない技術者はすでに90年代に、将来を憂え、危機感を持っていたのにもかかわらずだ。


前者の投書には、次のような件もある。


高齢化社会の進展に伴い、社会資本に投資できる金額は減っていくことが予想される。それゆえ、出来るだけ早く対策を講じなければならない。新設する土木構造物についても、最初から維持管理やライフサイクルコストのことを考慮してつくっておくことが肝要だ。


現在の危機は、とうに見越されていた。


ところが、政治はというか、社会はこの当然の事態から目を背け、今となっては無駄としか言いようのない大プロジェクトばかりを推進してきたのだ。


1999年には『コンクリートが危ない』(岩波新書)という書籍が出されている。
著者は小林一輔氏、東京大学名誉教授で千葉工業大学教授である。コンクリート工学の第一人者だと思われる。


この著書は、1983年に山陽新幹線の高架を調査した場面から始まる。完成からまだ10余年しか経ていない高架コンクリートのあちこちに大きなひび割れがあり、高架の床板からは、コンクリートが剥離して、鉄筋が露出しているという衝撃的な場面である。


著者は、山陽新幹線が惨憺たる有様である一方で、大正時代から昭和初期にかけて建設された橋梁が、コンクリートにとって、天敵とも言える潮風や豪雪にさらされても、メンテナンスなしで健全に保たれていることを紹介する。


著者の見立ては、1964年に完成した東海道新幹線の時代までは、健全な材料を用いたコンクリートを入念に施工してつくられていたとするものだ。ところが、高度経済成長時代に造られた山陽新幹線を初めとするコンクリート構造物は、劣悪なコンクリートの使用、手抜き工事の横行で劣化の速度が極めて速いとする。
日本が、活気にあふれ、生活が豊かになっていくと見えたその時期にすでに、日本の技術は劣化し始めていたのだ。


遠からず問題が生じるのはわかっていて、それでもその日限りの享楽を求める。ツケは後代に回す。赤字国債も発行された。
負担の先送りによって、高度経済成長は成立した。


コンクリート構造物の早期劣化に対する危機感が社会問題化した時期が、ごく短期間だが、あった。
小林氏の著書を見る限り、1983年には、NHKがこの問題を積極的に採り上げるなど、一定程度、社会問題化した。
しかし、急速に関心は失われた。


小林氏が一般向けの書物として、コンクリート構造物に対する対策の必要を世に問うたのは、1999年である。
しかし、小林氏の訴えはメディアに採り上げられることはなかったと思われる。少なくとも大きな世論にならなかったのは明らかだ。
そして、2004年には、小林氏の舞台は、一般には三流紙と呼ばれる「FLASH」になってしまったのだ(2011年5月18日ブログ)。


小林氏の著作には、次のような件がある。


「『半永久的に供用できるような頑丈なコンクリート構造物をつくろうと考えるのは、バカげたことだ。機能的耐用年数に達したらかんたんに壊れるような構造物をつくるべきだ』という主張がある。このような主張は、耐久性の観点からコンクリート構造物の使用材料の品質や施工方法を検討する場で、規制される側の利益代弁者となった研究者や学者によってなされる。(下線マチベン)


代弁される利益はいうまでもなく、ゼネコンの利益であろう。
小林氏の主張が世論とならず、三流紙までおとしめられた構造は、原子力ムラの構図と同じである。
良識ある技術者たちの声が埋もれてしまったのもこの構図のためである。
利益を享受するゼネコンがあり、そこから広告収入を得るメディア、研究費用を受ける学者、そして企業に依拠する官僚・政治家…。これら蝟集する集団が、危機を先送りし、後代にツケを回して、自らの利益を追求して恥じない。


宴をしながら、ツケを先送りにする資本主義の構造は、産官学メディア複合体として、あらゆる分野にある。


インフレターゲットが採用されて超金融緩和がなされ、公共事業に国家予算がばらまかれる(維持補修にどの程度の予算が割り振られているのか、その内訳がわからない。多分、補修のような地味な事業ではなく、派手で見栄えのいい構造物の新設ラッシュでいかにも景気がよくなったように演出されそうな気がする)。
犠牲になるのは、今の弱者だけではない。
将来生まれる世代、そして将来の日本が食い物にされ、壊されようとしているのだ。


天井板崩落や、上下水道の劣化、道路の陥没と相次いで現れる、高度成長のツケを目の当たりにしながら、なお、国の借金を増やしてでも、この刹那に利益を得ようとする社会は、どこか根本的なところで間違っている、と僕は思う。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月13日 (水)

リアルタイム弁護士運転資金借入体験記

何しろ最近は、事件単価の低下が著しい。庶民の懐が寒くなれば、弁護士に払える費用も乏しくなる。当然のこと、庶民に依拠するマチベンの懐も寒くなる。大概の弁護士は、当人がどう思っているかは別にして、企業に依拠してきたわけではなく、分厚い中間層に支えられてきたはずだ。中間層が薄くなれば、当然、事務所経営にも影響が及ぶ。しかも、これに弁護士大増員と広告の自由化が追い打ちをかけた。


僕が資本の流動化を極限まで推し進めるTPPやISDに反対するのは、中間層の崩壊を決定的にするからだし、司法改革に反対するのもマチベンのような良心的で正義感が強く、有為で志ある有能な人材が、カネ勘定が下手なばかりに淘汰されかねない現状を見るに忍びないからだ。


それにしても、昨年、弁護士歴30年にして初めてイソベン君を雇ったせいもあるにしろ、事務所の預金残高が心許なくなった。月によって売上が大きく上下する法律事務所の場合、残高を気にしなくて済むくらいの預金は必要である。


この点は、2010年11月10日付ブログ「弁護士事務所の台所事情 不況と過当競争の果て」参照


マチベンとしては、離婚協議で定められた息子への養育費の支払の他に15万円程度の手取りがあれば、当面、不満はないので、多くは望まない。しかし、今現在、台所が寂しいので、運転資金が必要である。


日本政策金融公庫(以下、公庫という)が弁護士なら無担保無保証で500万円くらいなら、軽く借りられると知人の税理士から聞き、申し込むことにした。


ネット検索で、公庫の融資には、中小企業事業、農林水産事業、国民生活事業の三種類があり、支店ごとに担当分野が異なることがわかった。


マチベンの事業は、当然、中小企業事業であると判断し、中小企業事業を担当している支店に電話してみた。


何となく法律事務所とは言いにくい。
名前を告げて、借り入れるには、まず窓口に行くのか、尋ねると、事業は何かと聞かれる。
仕方がないので、「法律事務所です」と、答える。


担当者は、「それでしたら、国民生活事業です」とお答えになる。
マチベンは、「そりゃそうですね。弁護士は、中小企業じゃなくて、零細事業ですよね」と言わなくてもいいことを口走る。


担当者は、売上を聞くので、もぞもぞと答える。
国民生活事業だと地域ごとに割り振りがあるとのことで、所在を聞かれたので、「守山区です」と答えると、支店管轄が違うとのこと。担当者は、担当支店の電話と所在地を行き方まで含めて、親切に教えてくれた。
ちなみに「国民生活事業」だと、融資金額は月商が目安になるという、マチベンは「エー、それっぽちですか」と落胆すると、担当者は、「いえ、一つの目安です」と答えた。


という訳で、今日は、担当支店を確認して、直接、電話の上、借入申込書(ネットでダウンロードしてある)と添付書類のコピーを郵送した。窓口に赴く日程について担当支店からの連絡を待つ次第となった。


今どきの新人弁護士は、ほとんどの新人が当然のようにロースクールの奨学金を借りた上、司法研修所の修習費用(概算300万円)を借りて、多額の借金を背負いながらスタートする。
新人で即、独立して事務所を構える場合は、さらに借入をして頑張っている。
ベテランだからと言って、借金弁護士体験を新人だけに押しつけてはいけない。
自分も体験してものを言うべきだと思う。


日弁連の開業マニュアル(その名も「即時・早期独立マニュアル」)によれば、新人弁護士が開業する際の借入先に政策金融公庫が挙げてある。
新規開業資金 最大7200万円を貸してくれるとなっている。
弁護士協同組合に至っては、1億円以内、内無担保無保証で1000万円を貸してくれる(東京の場合)となっている。


ホントにそんな借り入れられるかいな。
借入希望金額の欄があったので、強気に700万円と書いてみる。
さて、どうなるかな。弁護士は優良事業とみなしてくれるかしらん。
それとも、不良事業に仕分けられちゃうのかしらん。


今日の教訓。
弁護士事務所は、中小企業ではなく、国民生活事業である。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月11日 (月)

一昨日の中日新聞 冤罪防ぐはずが捜査権限強化

今日のではなく、おとといの中日新聞 (^-^;


厚労省の村木厚子局長が大阪地検特捜部によって陥れられた事件を受けて設置された法制審議会の特別部会によってまとめられた『時代に即した新たな刑事司法の基本構想』が、結局捜査権限を強化する結論にまとまってしまったことを批判している。


通信傍受拡大、会話傍受の容認、司法取引の導入の検討を求める内容となった基本構想は、冤罪防止の趣旨からは、著しく逸脱している。


こうした逸脱が生じるのが、官僚主導による法制審の審議、法制審の人選自体にあることを鋭く批判している。


これだけ、きちんとまとめられ、一般の人にわかりやすく解説した記事は少ないと思うので、ご紹介します。


クリックした上で、拡大すれば読めます。

Sousakengenhouseisin

民法(債権法)改正の提案も、法務省と改正派の間の出来レースで決められたことを、委員であった加藤雅信名古屋大学名誉教授は鋭く批判している(「民法(債権法)改正 民法典はどこに行くのか」

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

イソベン君デビュー 弁護士列伝インタビュー

無沙汰しておる。宮崎学の子分である。
僭称しているだけだから、誤解するな。


マチベンのところのイソベンは、マチベンが知らぬうちに、親ベンより有名になったぞ。


イソベンが「弁護士列伝」のインタビュー記事(弁護士ドットコム)にデビューしておる。


イソベンは、若い人材が不足しておる弁護士会の用務のために、面倒な会報原稿を押しつけられたりしていることは知っておったが、よもや営業の才覚があるなぞとは、思ってもおらなんだぞ。


これでしがない田舎マチベンの事務所もいっぺんに全国区である。
マチベンは有り難く思わねばならぬ。


間違っても、親ベンをさしおいて全国区になるのは、不届き千万であるなぞと思うのではないぞ。


Q1. なぜ、弁護士になろうと思われたのですか?

A1.もともと、企業など組織の中で働くよりも、弁護士のように自分が正しいと考えたことについて、自分で考え、行動に移せる自由な職業に憧れていました。


こういう自由と独立の精神、そしてその責任の引受を、昔は「在野」精神と呼んだもんだ。
このところ、とんと聞かなくなったが、つい10年数年前までは、弁護士たる者、在野であれというのは、当たり前のことだった。どうやらマチベンは、今どき珍しいタイプのイソベンに恵まれたようだな。


(Q弁護士になって初めて分かったことや、思い描いていたイメージとのギャップはありましたか)
思っていたよりもプレッシャーが大きいと実感しています。依頼者とうまく人間関係を築いていくという事は簡単なように見えて、簡単なことではありません。なる前は全く分からなかったのだが、実際に弁護士として働くと依頼者の方と信頼関係を築くことの難しさを痛感します。

わしは、そのくらいのプレッシャーを受けて当たり前だと思うぞ。何と言っても、マチベンタイプの弁護士が関わるのは市井の人の人生である。
今は偉そうにしておるが、俺は、マチベンも成り立ての頃に、責任の重圧で、げっそりやせて、同期の弁護士から「どこか悪いの」と心配されていたのを知っておる。マチベンがストレスでやせたのは、そのとき一回こっきりだったな。人一倍肝っ玉が小さいマチベンは、新人の頃、仕事に押しつぶされそうだったもんだ。


(Qそのような困難な事を前にしたときに意識することは)
諦めないことです。勝てないからと言って諦めてしまってはその時点で勝つ確率はゼロ%になってしまいますから。

これは、マチベンの受け売りであるな。
しかし、俺は知っておる。マチベンも受け売りである。
マチベンも、事件で協力してもらっているG建築士から「諦めたときが負け」だと散々教えられていたからな。


ま、俺のように踏ん張っておれば、いずれ受け売りも身に付くから、精々、頑張ることだな。


弁護士と同じで、ヤクザも凌ぎが細かく、忙しくなったので、この程度にしておく。各自、記事を参照されたい。


起死回生を狙った暴力発電は、残念ながら、いまだ成約がない。
排除された暴力団の暴力をエネルギーに変える究極のエコ発明であるにも拘わらず、だ。
興味は示しても、結局、みな、いざ契約となると、引くぞ。
どうも顧問弁護士が、反社会的勢力と契約してはならんと指導しておるらしい。
何もかも暴排条例のためである。


暴排条例には断固反対である。


* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月 7日 (木)

ISDS条項の罠7 司法主権の侵害

今回の検討に当たっては、個別のISDSケースについて、論者によって、当否の判断が分かれていることは、前提にしている。
傾向的にいえば、グローバルな自由貿易の拡大こそ国民の利益となるとする立場の論者は、全般的に国際仲裁を評価する方向に振れるし、資本主義に関する反グローバリズムの立場に立つ論者は、全般的に否定的な評価に傾く。


しかし、驚くべきことに、これらの議論を国内法体系の観点から論じた専門家の議論は、ほとんど見当たらない。


ここでは、個別のISDS仲裁判断の当否については、論者によって評価が分かれることを素直に認めた上で、国内法体系の整合性の問題を考える。


しばしば言及されるケースにMetalclad vs Mexicoケースがある。
この事件は、小寺彰東京大学大学院教授の「投資協定仲裁の新たな展開とその意義 国際仲裁『法制度化』のインパクト」によれば、以下のように事件の概要がまとめられている(同8p~9p)。

Metalclad 社は、メキシコの国内企業であるCOTERIN 社に出資して、メキシコ国内で廃棄物処理事業を行うとしていた。COTERIN 社は、メキシコ内のグワダルカザール(Guadalcazar)市内で廃棄物処理施設を建設するための許可を、連邦政府および州から得ていた。しかし、グワダルカザール市住民が水質汚濁への懸念から建設反対運動を始めると、市当局は、建設許可を市から得ていないとして建設中止命令を出した。他方、Metalclad社は、連邦政府より、市当局の建設許可の拒否は国内法上根拠がないとの説明を受けて、市当局に建設許可申請を提出すると同時に、建設工事を再開し施設を完成した。しかし、地元住民の妨害行為のために操業はできなかった。1995年11月にMetalclad 社は、連邦政府との間に施設の運営に関する協定を締結したが、同年12月にグワダルカザール市は、施設の建設不許可の決定を下した。さらに1997年12月に州政府は、施設建設地を含む地域を自然保護地域に指定する環境条例を発布して施設の操業を禁止した。
Metalclad 社は、メキシコを相手取って、上記の諸措置についてNAFTA11章に基づく仲裁申立を行った。そのなかで、Metalclad 社は、市の建設不許可決定および州の操業禁止命令がNAFTA1100条1項の「収用」に当たると主張した。

仲裁判断は、「収用」について、「NAFTAのもとでの収用は、公然に、意図的でかつ承認された、財産の収用のみならず、全体的であれ、またかなりの部分であれ、合理的に期待される財産の経済的利益の使用を奪う効果をもつ、内密または付随的な財産の使用についての干渉を含む」(para. 103)という一般的な見解を示した。そのうえで、上記諸措置は、「Metalclad 社が信頼していたメキシコ政府による説明、および州当局に建設不許可に関するタイムリーで整理された、または実質的な根拠の欠如とひとまとめになって、間接収用と同等である」(para. 107)というのである。
本件では、メキシコ政府、具体的には政府、州、市の脈絡のない行為がMetalclad 社を操業停止に追い込むという経済的不利益を与えたことについて、「合理的に期待される財産の経済的利益の使用を奪う効果」をもつと判断し、伝.統的な意味での「収用」には該当しないが、間接収用と「同等」であると結論した。


小寺氏は、このケースを「他方、本件は、単純に国の規制が変わって外国投資家が不利益を蒙った事例ではなく、国の説明を信じて投資を行った外国企業が、いわば『裏切られて』不利益を蒙った事例と言える。本件の射程を評価する際にはこの点に注意する必要がある。」とし、仲裁判断を補足した上で、結論的には、「間接収用」に当たるとした仲裁判断を支持する立場をとっている。


本質的な問題は、結論の当否ではない。
より根本的なところにある。
当該の法的紛争について、判断する権限は誰にあるのかという問題である。
この紛争は、メキシコのCOTERIN社と市・州・政府の間の紛争である。
普通に考えれば、COTERIN社は、メキシコ国内の行政府の行った処分の適法性を争うためには、メキシコ国内の裁判所に提訴しなければならないだろう。
このことは、同社が純粋に国内企業であれば、誰も、疑わないはずだ。
確かに国家権力の行った行為の適法性を、国家権力たる司法が判断することに、公平性の観点から疑問を持たれることはあるかもしれない。
しかし、権力分立原理とは、仮にそうであってもなお公正さは保たれるとする基本原理である。権力分立原理とはそのようなものなのである。


ISD条項は、外資の国内紛争に関して、外資に対して、包括的に国内裁判所の関与を排除する権利を認めるものである。
国内の法的紛争について、国際裁判に訴えることを包括的に認めるISDS制度は、司法主権を侵害するという他ない。


韓国大法院も、この制度が司法主権を侵害するものであるとして、米韓FTAの交渉過程で控えめではあるが、警鐘を鳴らしていた。


「投資家国家提訴制」の導入で、国際仲裁機構が投資受入国政府の各種政策や規制措置に干渉し、このような紛争に関して国内の司法府が関与する余地がなくなり、国家の主権または司法権が侵害される素地があるという指摘がある。

-これに対しては、このような制約は条約の批准(承認)等の手続を経て、国家が自発的に同意することに従うもので、国家はそのような選択をする主権を行使するものだと言えるという見解もある


後半部分は、国家は、自ら主権の一部を制限することも法的に可能であるという意味である。たとえば、国連憲章は、国家主権に属する武力の行使と威嚇を原則として禁止した。国連に加盟する(条約を締結する)ことによって、加盟国は主権の一部を自ら制限したとみなすことができる。
大法院としては、妥当性はともかくとして、純粋に法理論的に考える限りでは、主権を自ら制限することも主権の行使であるとしているだけである。大法院は、外資紛争に関して、包括的に司法権が排除されるISD条項が司法主権を侵害することは前提とした上で議論を進めているのである。


もともと近代国家は、国王の下に独占されていた統治権を奪うことによって成立した。近代国家は国民国家として成立するに当たって、国王に独占されていた統治権を立法、行政、司法に分類し、三権が牽制し合うことによって、国家権力を制限する仕組みとして成立した。国内の紛争は、国内において解決するシステムがあってこそ、国家は、国家として完結する。国家の不可分の統治権であった司法権を外部に奪われれば、国家の完結性は損なわれる。外資によって包括的に司法権が侵害されれば、その国家は、本来的に独立国家たり得ない。


さて、憲法論である。
憲法76条1項は、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定する。


この規定と、外資紛争に関して、外資に対して包括的に日本の裁判所の関与を排除する権利を認めるISD条項は、真っ向から対立する。
憲法76条1項違反は明らかである。


確かに、憲法の逐条解説等を参照しても、ISD条項のような国際裁判に関する例外の是非に関する記述を見いだすことはできない。
したがって、既存文献による限り、違憲論の根拠を見いだすのは困難であるかのようである(尤も、逆に言えば、合憲であるとする議論も皆無である)。


しかし、司法権に対する国際的な制限ないし掣肘に関する政府見解は存在している。
政府は、国連事務総長に対して提出した「市民的及び政治的権利に関する国際規約第40条1(b)に基づく第5回政府報告」(2006年12月)において国連の「市民的及び政治的権利に関する国際規約の選択議定書」(自由権規約第一選択議定書)を批准していない理由を次のように述べている。


本規約の選択議定書が定める個人通報制度については、本規約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度であると考えるが、本制度については、我が国憲法の保障する司法権の独立を含め、司法制度との関連で問題が生じるおそれがあり、慎重に検討すべきであるとの指摘もあることから、本制度の運用状況等を見つつ、その締結の是非につき真剣かつ慎重に検討しているところである。(下線筆者)


国連自由権規約第一選択議定書は、自由権規約に定められた人権を侵害された個人に対して、国連人権委員会に対して通報し救済を求めることを認める制度である。
第一選択議定書に基づく個人通報は、①国内の救済手続を尽くした上で認められる。すなわち、最高裁まで争った上、なお敗訴が確定した場合に初めて人権委員会に対する通報が認められるものである。
しかも、人権委員会の決定は、②政府に対して改善意見を通知するものであって、直接、裁判所に宛てたものではなく、③かつ強制力もない。


政府が第一選択議定書を批准しない理由としてあげている「司法の独立」は憲法76条3項に規定されている。
政府は、国連加盟国の司法権に十分に配慮された個人通報制度すら、憲法の定める司法権に対する侵害の可能性を理由に批准を拒んできているのである。


より根源的に国内司法の排除を認めるISD条項が憲法に違反することは明らかではないか。人権原理による司法権の制限は憲法に反するが、外国投資家の利益を守るための司法権の放棄は、憲法に反しないなどという論理がどこから出てくるのか。


基本的人権の尊重という憲法の大原則に沿い、国連で確立された国際的手続に関しては、憲法違反の疑いがあるとして拒みながら、外国投資家の紛争については、司法権の根本的排除を認める論理は破綻している。


ISD条項は、司法主権を侵害するものとして、憲法76条1項に違反する。
我が国は、憲法を国の最高規範とする(憲法98条1項)。憲法が条約に優位する法的効力があるとするのは確立された判例・通説であり、憲法に反する条約は効力を有さないのである(憲法98条1項)。


そして、内閣総理大臣、国会議員を含む公務員は、憲法を尊重し擁護する義務を負っている(憲法99条)。


ISD条項を含むTPP条約は憲法に反して、無効になる。
憲法違反のTPP条約の交渉に参加しようという安倍政権は、自らがよって立つ日本国憲法の尊重擁護義務を蹂躙するものと言わざるを得ない。


自民党は、司法主権を侵害するISD条項は認めないとする、党議決定の原点に立ち返るべきである。
ISD条項を前提とする限り、TPP交渉参加という選択肢は断じてあり得ないのである。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

追記(2月8日)

今頃になって、国連事務総長宛の「第6回政府報告書 2012年6月」の仮訳が公開された。第一選択議定書の批准をしない理由から、「憲法の保障する司法権の独立」との文言が抜け落ちている。同報告書(13頁参照)。

3.第一選択議定書
43.本規約第一選択議定書が定める個人通報制度については、本規約の実施
の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度と認識している。同制度の
受入に当たって、我が国の司法制度や立法政策との関連での問題の有無、及び個人通報制度を受け入れる場合の実施体制等の検討課題につき、政府部内で検討を行っており、2010年4月には、外務省内に人権条約履行室を立ち上げた。引き続き、各方面から寄せられる意見も踏まえつつ、同制度の受入れの是非につき真剣に検討を進めていく。

政府も、個人通報制を認めない理由と、TPPを推進するためにISD条項を丸呑みする対応との間に、論理的に矛盾があることを認めたということだ。

一貫して採ってきた憲法76条に関する憲法解釈を枉げてでも、TPPを推進しようと政府の姿勢を反映している。個人通報制度の批准についてもこれまでの、「真剣かつ慎重に検討を進めていく」との言葉が「真剣に検討を進めていく」に変化している。これは明らかにTPPの推進を意識して、これまでの個人通報制度への姿勢を改めたことを示している。

政府は、TPPのためなら、自分が主張していた憲法解釈を節操もなく、変えるのだ。

憲法を捨ててTPPを取る。そのような政府に、この国の舵取りを任せていることを、心底、恐ろしく思う。

2013年2月 6日 (水)

ISD条項の罠6 前提となる情報の公開をせよ

しばらくISD(投資家対国家紛争解決手続)条項の議論を中断して、気楽なブログに戻るつもりでいたが、自民党が今日、外交・経済連携調査会を開いて、首相の訪米前にTPP参加を決定しそうな勢いであるので、議論を続けることにした。


 日本経済新聞2月6日「TPP、首相訪米前に見解 自民の調査会が会合」

(自民党の外交・経済連携調査会長)衛藤氏は「調査会として意見集約し、論点整理して指針を示す必要がある」と強調。今月下旬の安倍晋三首相の訪米までに調査会としての見解をまとめる意向を示した。


繰り返し確認してきたように、二国間投資協定(BIT)や自由貿易協定(FTA)にISD条項(投資家対国家紛争解決手続条項)が盛り込まれるのは、現在では特別なことではない。
但し、投資協定自体が急増したのは、この15年からせいぜい20年ほどの間のことである。
先進国と途上国あるいは旧社会主義圏の国家との間での投資協定が急増するのに伴い、これらの協定に悉くISD条項が設けられた。
国際経済法の専門家ですら、ISD条項の有する意味に気づいたのは、仲裁例が急増する、この数年のことである。国際経済法の教科書で、投資家対国家紛争解決制度の突っ込んだ説明がなされるようになったのは、実に昨年、2012年になってからのことである。
したがって、ISD条項に関しては未だ知見が不十分である。薬で言えば、安全性が確認されていない治験段階であると言ってよいだろう。副作用の強烈な劇薬の可能性が排除できない。
専門家ですら、ISD条項をめぐる急激な変化を把握することが困難だというのであるから、国民的議論をするベースすら現段階では、存在しないのだ。


仲裁例については、個別事例が散発的に紹介されているに過ぎない。


自民党自体、国民的議論が不足していることを指摘している。


ISDSの個別ケースは、全て英文でしか読むことができない。
国民的議論のためには、以下の事項は最低限政府の責任においてなされなければならない。


1 ISDSの全仲裁例について、邦文のデータベース(全文及び要旨)を構築して公表すること(WEB及び紙媒体)


2 取下などで終結したISDS事例及び係属中のケースについて、正確な情報を邦文で提供するデータベースの構築と公表(WEB及び紙媒体)

 

ちなみに、国連貿易開発会議(UNCTAD)の2012年世界投資レポートによれば、2011年は、過去最高の46件が国際仲裁に付託されたとされ、国際仲裁への付託件数は、累計450件に達していると報告されている。


また、近年の傾向として、投資に悪影響を及ぼす国家の中核的な公共政策に対する国際投資家の挑戦が増えていることを指摘している。
この中には、ドイツ政府の段階的脱原発政策に対してスウェーデンのエネルギー会社がドイツ政府を国際仲裁に訴えた例(Vattenfall vs Germany)もあることが報告されている。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

ISD条項の罠5 韓国朴チュソン議員の発行冊子全体版

ようやく朴チュソン議員の冊子全体の校正を終えた。
全体版をアップする。


TPPの賛否を問わず、絶対に参考にしなければならない必読文献である。


「投資家対国家紛争解決手続 法律機関の検討」(仮訳)

全体の構成は、以下のようになっている。


 

1. [法務部、2006]

国際投資紛争分野対応方案 

2. 投資紛争2次交渉対応方案  

3.[大法院、2007]

韓米FTA国際投資紛争解決手続関連検討意見

4. [大韓弁協、2012]

 韓米FTA国際投資家国家間紛争解決手続(ISD)に対する意見 ・・

5. [米国、2012]

 米国州議会議員らがTPP交渉者である米国貿易代表部に送る投資家対国家紛争解決拒否要求関連の公開書簡  


なお、韓国語を日本語に翻訳していただいたのは、反グローバリゼーションの志を共通にする李洋秀氏である。韓国と日本に精通した優秀な通訳である氏の惜しみない労なくして、この作業は不可能であった。


是非、多くの国会議員、学者、市民の方に目を通していただきたい。


なお、大法院(最高裁)も含め、政府機関が強い危機感を持って対応しているのに対して、資料4の大韓弁協の見解は、いかにも些末である。このことはISDが彼らにビジネスチャンスをもたらすことを示している。大韓弁協の意見は、完全に英米法的思考に取り込まれているように見える。


また、資料5は、米国州議会議員、全50州と一自治区の州議会議員で構成される州立法者協議会がISDに反対している点は、特筆すべきである。急ぎ公開することを優先したので、この部分の翻訳は甚だ不十分である。英語が添付されているので、正確にはそちらを参照していただいた方がよいと思う。


強調しておくが、今後のTPP議論は、この報告書の到達点を出発点にしない限り、まやかしである。


今後は、この到達点を基礎として、いくつか、憲法論、法律論として考えられる問題点を指摘していくことにする。


憲法学者さんが拾ってくれれば、あるいは、日弁連執行部が拾ってくれれば、いつでもマチベンは撤退します。(^^)V


残念ながら、現状では、正確な情報を提供しようとする法律家が不足しているので、しばらくマチベンの議論にお付き合い願います。(^-^;

といっても、基礎とされるべきものは、全て仮訳して公開したので、真面目な議論は、休み休み進めたいと思います。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月 4日 (月)

ISD条項の罠4 憲法秩序の破壊

引き続き、韓国朴チュソン議員が公開した韓国法務部(法務省)の検討結果の翻訳を紹介する。
今回は、法務部国際法務課が、米韓FTAの第2回交渉に臨んで検討した対応策の部分を末尾に貼り付けて紹介する。

国際法務課(Word版)こちらから


法務部の検討結果からは、

①米韓FTAへのISD条項の導入は、国内規制のあらゆる分野において外国投資家によって提訴される危険性が否定できないこと、

②賠償金額や費用負担の巨大さから立法・行政機能が萎縮すること、

③「間接収用」概念と韓国憲法の「収用」保障規定とが対立する関係にあり、憲法秩序が攪乱される可能性があること、

③したがって、米韓FTAにはISD条項を導入すべきではないこと、

④しかし、アメリカは、韓国が英米法圏の国家ではないことから、米豪FTAに倣ってISD条項を設けない措置をとることはできないとしてISD条項の削除は居されたこと。

が明らかにされた。


同じく韓国法務部(法務省)の構成課と思われる「国際法務課」の検討は、ISD条項を削除すべきであるが、それは困難であるという前提から出発して、いかなる対策をとるべきかを検討している。
国際法務課の検討対象は、「間接収用」に対する補償を求める規定に集中している。
なぜなら、「間接収用」原則が韓国憲法23条3項に基づく財産権補償と矛盾し、憲法違反の事態を生じることがあまりにも明らかだからである。


ISD条項が最高法規である憲法に違反する論点に集中しているだけに法的な問題点としては、いっそう深刻である。
憲法に反する協定を押しつけられないためには、どうしたらよいか、ISD条項全体を米韓FTAから除外できないとすれば、せめて「間接収用補償原則」だけでも適用除外にしなければ、憲法秩序が崩壊するという問題意識は、痛々しいほどに具体的で論理的である。


これは又、日本がTPPを通して、直面しようとしている状態である。


要点を紹介しよう。


「間接収用」は「形式的所有権の移転がないが、直接収用と同等な効果を持つ国の措置(measure)若しくは一連の措置」であり、


間接収用は(略)経済秩序の確立、産業構造改善等一般的な目的の政策施行に付随して、財産権が事実上侵害されるケースを意味するので、政策遂行時に不測の障害要素として作用する可能性が濃厚

である。
要するに、財産権に損害を与える規制は、一応、間接収用に該当する可能性があると見なければならない。


では、間接収用はどのような判断基準で判断されるか。

修正憲法第5条の解釈に関する米国の判例法理論である3要素(Three-factor-test)の基準を考慮するように明示
・1)政府措置の経済的衝撃の程度
・2)明白で合理的な投資期待利益への侵害程度
・3)政府措置の性格

これらの基準は、極めて曖昧であるというほかない。これだけで何が間接収用であり、何が間接収用ではないかを判定することはほぼ不可能である。


では、韓国憲法は、間接収用に対する補償を予定しているか、あるいは、間接収用に対する補償を実行しているか。答えは否である。

・「公益事業のための土地等の取得および補償に関する法律」等各単行法律が個別に補償を規定したり、ほとんどすべての土地およびこれに類似した権利に限定され、財産権移転を伴う直接収用に限定

・間接収用の概念、範囲および補償原則に対する立法や判例が確立されていない


収用に対する補償は、「直接収用」(国家ないし自治体等への名義移転を伴う収用)に限定して、それぞれ個別立法で具体化しており、判例も「間接収用」の法理を確立していないというのである。
したがって、韓国・韓国民にとっては、「間接収用」は全く新しい概念であり、韓国にはその備えが全くない。米国側は、米国判例法によって確立されたものが「間接収用」であるとし、特別な国内的な変動はないが、韓国は法体系全体にわたる混乱を招く。


しかも、仲裁法廷では、韓国の財産収用に対する補償が予定しているより、格段に巨額の補償額が命じられる可能性がある。


通常仲裁判定部が損害額算定時、期待収益等一切の喪失利益を含ませるのが慣例なので、仲裁判定部の判断によれば、天文学的賠償を命ぜられる可能性が常存


かくして、法務部の報告にもあったとおり、国家機能全般に対して萎縮効果が及ぶことになる。

外国投資家の提訴の惧れ、被訴による各種予算的・行政的負担、敗訴に対する憂慮等から正当な立法・行政・司法機能が萎縮する可能性が大きい


具体的には、以下のような混乱が予想される。


  • 大法院判決、労働基準法、憲法裁判所の決定等を通じて確立した整理解雇要件が被訴し賠償判定がある場合、解雇要件を緩和する立法の義務が発生
  • 立法または規則等に基づいて推進される各種不動産関連の課税若しくは規制政策が収用と判定される場合、税金廃止および規制緩和が不可避
  • 工程40%以上進行した後にアパート分譲契約をするようにした2006.7.6.建設交通部措置等についても、その間の利子費用またはそれによって事業自体不可能になったという理由で、仲裁提訴が可能なものとみられる
  • 外国企業の不法行為を理由にする押収、捜査、有罪宣告、不法利益返還等が収用と判定される場合、司法主権と衝突

韓国は、これまで長年にわたって、個別法及び判例により、憲法を具体化し、憲法秩序を形成してきた。これでは、これまでの韓国の憲法秩序、さらには憲法的な価値観自体が大きく揺るがされる。


また、これまで途上国との間で途上国の司法制度が未整備なことを理由に設けられてきたISD条項を米韓FTAに入れること自体が、韓国の司法制度が未整備であることを自認する行為に等しく、屈辱的なことである。


(韓国が)NAFTA(‘94)以後、米国と仲裁手続が含まれた投資協定を締結する最初のOECD国となるもので韓国の司法制度が不備なことを自認する結果になる可能性がある


本来、仲裁法廷は、当事国の国内法秩序にしたがって、判断をすべきである。
しかし、仲裁法廷が、韓国憲法に基づく法秩序に理解を示し、韓国国内法を適用した判断をするか。すなわち、「収用」補償に対して、ドイツ法系の「特別の犠牲」に該当するか否かを判断基準を用いることが期待できるのか。答えは否定的である。


米国が提示した法理に対応して、ドイツの「特別犠牲」概念等に基いた韓国の判例法原則の反映を要求する方案だけでは、基本法理体系の相違を解消できないのみならず、仲裁判定部に対する実効的判定基準として機能することが難しい

以上のような検討の結果、国際法務課は、ISD条項を設けないにこしたことはないが、これが困難である以上、最低限、「収用」に対する補償法理だけは、除外することを提案している。

3.対応方案 : 「収用」関連紛争は国内の手続で解決

○既存の先例あり
   -ドイツ-中国間投資協定(2003年)の文案
    ・「収用および補償」を規定した第4条第(2)項で「収用の合法性および補償金額の問題は投資家対国家間紛争解決条項(第9条)にもかかわらず、国内の裁判所が審査すると規定」


憲法との適合性を図るための最低限の手当であり、大幅な譲歩である。せめて憲法との適合性を図ろうとすることは、米韓FTAの相手国であるアメリカも同様に自国の憲法秩序と反することになる可能性を最大限排除しようとしていること、したがって両国の関心は、同じであることなどを、アメリカの貿易促進権限法成立過程にまで遡って、論拠を列挙している。


しかし、韓国の主張が容れられることはなかった。


間接収用というおそるべき萎縮効果を生む規定は、ほぼ無傷で残されたのだ。


韓国は今、主権国家としての瀬戸際に立たされていると言ってよい。


日本も同様の問題に直面することになる。


このことについては、又、後日、改めて述べたい。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

--------------------

 

 

 

 
 

 

 

 投資紛争関連2次交渉対応方案

 

 

 

    2006.7.国際法務課

 

1.概要

  ○協定文草案の投資chapterに規定された投資家対国家間紛争の解決手続は「収用」の広範囲性等による違憲性、濫訴の危険、政府規制権の萎縮等多くの憂慮が提起されている

  ○これに対する最も効率的な対処方案は米国-豪州間FTAの締結例のように、紛争解決手続部分を削除し、すべての紛争を国内で解決させることだが、積極推進が困難な状況である

  ○韓国の憲法と衝突を起こす可能性がある「収用および補償」条項を根拠とした紛争だけでも国際仲裁提訴の可能性を遮断する方案を次善策として提示しようとする

 ※紛争解決手続全体を削除する方案に対する交渉継続の必要性を前提とした意見である

2.投資協定文草案の構造および「収用」関連の問題点

□投資Chapter3個のSectionおよびAnnex(付属文書)で構成

Section A : 投資(Investment) 

・ 米国投資家に対する内国民待遇、最恵国待遇、最低待遇(公正・衡平待遇)基準、収用に対する補償補償の保障、履行義務の賦課(パフォーマンス要求)禁止等、投資保護のための当事国の実体的義務事項を規定

Section B : 投資家対国家間紛争の解決 

・ 投資紛争の範囲、仲裁提起および判定手続、仲裁過程の透明性保障手続等、詳細な手続を規定

 米国ワシントン所在国際投資紛争解決センター(ICSID)の仲裁若しくは国連国際商取引法委員会 (UNCITRAL)仲裁規則に従った臨時仲裁判定部等を規定

Section C : 投資、投資家等、各種概念の定義を規定

Annex  B : 「収用((Expropriation)」に関する概念説明

・ 収用を直接収用と間接収用に区分

 直接収用は所有権の移転を伴う収用、「間接収用」は「形式的所有権の移転がないが、直接収用と同等な効果を持つ国の措置(measure)若しくは一連の措置」と規定

※直接収用が特定な財産権の強制的な取得を直接目的に行う措置であるのに対して、間接収用はこれとは関係なく経済秩序の確立、産業構造改善等一般的な目的の政策施行に付随して、財産権が事実上侵害されるケースを意味するので、政策遂行時に不測の障害要素として作用する可能性が濃厚である

収用に該当するか否かの判断法理 :修正憲法第5条の解釈に関する米国の判例法理論である3要素(Three-factor-test)の基準を考慮するように明示

1)政府措置の経済的衝撃の程度

2)明白で合理的な投資期待利益への侵害程度

3)政府措置の性格

-一部規制領域を原則的に除外 : 保健、環境、安全等公共の福祉(public welfare)のための非差別的規制措置は原則的に間接収用を構成しないという規定

 ※この場合にも例外的事由の存在を主張したり、規制措置が内・外国人を差別しているという理由で提訴が可能になる素地が充分

 □問題点

  ○韓国の憲法上、財産権の補償法理と衝突の可能性

   -韓国の憲法上の補償体系

    ・憲法第23条第3項は財産権収用時、「法律に従った補償原則」および「正当な補償」原則を闡明

    ※憲法第23:①すべて国民の財産権は保障される。その内容と限界は法律で定める。

        ②財産権の行使は、公共の福祉に適合するようにしなければならない。③公共の必要による財産権の収用・使用または制限およびそれに対する補償は法律でするが、正当な補償をしなければならない。

 ・「公益事業のための土地等の取得および補償に関する法律」等各単行法律が個別に補償を規定したり、ほとんどすべての土地およびこれに類似した権利に限定され、財産権移転を伴う直接収用に限定

  ・間接収用の概念、範囲および補償原則に対する立法や判例が確立されていない

 -FTA締結の立法代替的効果

  ・米国側案通りに間接収用の概念、判断法理を規定することは条約に法律と同等な効力を付与する国内法原則上、収用関連の法律を立法するのと同一な効果がある

 英米法圏の場合、条約締結以後関連国内法規を制・改定する国内手続化

履行(Implementation)過程を通して規範力を付与することになるが、米国側は収用規定は自国の判例法が既に反映していると見ており、米国法上判例法が成文法のような効力を持つので、別途の立法等の措置が必要ない

  ・これは財産権補償範囲を決定する重要な立法に関する法理の憲法適合性があるかに関して国内的な論議の過程なく受け入れるもので、実体的・手続的に違憲問題が発生する可能性

 (米国)正憲法第5条の「収用(taking)」概念の解釈に関する慣例法を通じ補償範囲と基準を定める米国法制と異なり、韓国では法律に従った補償、広範囲な国家賠償責任認定および判例法理を通じた補償という構造を取っていて、米国法理そのままでの受容は不可

補償基準も相異

 ・補償の範囲と基準に関して「収用された投資の公正市場価格(fair market value) とのみ規定しており、通常仲裁判定部が損害額算定時、期待収益等一切の喪失利益を含ませるのが慣例なので、仲裁判定部の判断によれば、天文学的賠償を命ぜられる可能性が常存

  ○濫訴の危険性および国家行為萎縮の効果

   -「間接収用」の概念が広範囲で、投資家は資産価値の減少等すべての被害を国家措置とつなげて「収用」として提訴が可能

 NAFTAによる紛争事例をよく見ると環境被害を理由とした規制措置、政府の入札計画取消し措置、タバコの価格から公共基金納入措置、賭博場閉鎖命令等も収用を根拠に多数係属中である(立法・司法・行政等すべての措置が提訴される)

   -仲裁手続の対応過程での各種資料の翻訳提出、関係者の出張証言等、莫大な行政負担および法律費用等の被害が予想

 -外国投資家の提訴の惧れ、被訴による各種予算的・行政的負担、敗訴に対する憂慮等から正当な立法・行政・司法機能が萎縮する可能性が大きい

  ○超憲法的状況発生の危険

   -韓国の合憲的立法・司法・行政行為が仲裁判定部によって「収用」と判定される場合、政府は損害を賠償しなければならないのみならず、同種の提訴防止のために関連措置を是正しなければならないので、超憲法的な矛盾状況を招く危険

    ※大法院判決、労働基準法、憲法裁判所の決定等を通じて確立した整理解雇要件     が被訴し賠償判定がある場合、解雇要件を緩和する立法の義務が発生

 ※立法または規則等に基づいて推進される各種不動産関連の課税若しくは規制政策が収用と判定される場合、税金廃止および規制緩和が不可避

      ※工程40%以上進行した後にアパート分譲契約をするようにした2006.7.6.建設交通部措置等についても、その間の利子費用またはそれによって事業自体不可能になったという理由で、仲裁提訴が可能なものとみられる

      ※外国企業の不法行為を理由にする押収、捜査、有罪宣告、不法利益返還等が収用と判定される場合、司法主権と衝突

3.対応方案 : 「収用」関連紛争は国内の手続で解決

 □提案内容

○「内国民待遇」、「最恵国待遇」等、他の協定義務を根拠にした提訴に対してだけ仲裁

提起を許容

 -協定で発生する義務であり、韓国憲法との衝突はない

○協定文第6条「収用」を根拠とした提訴は仲裁を禁止し国内手続だけで解決するようにするが、仲裁管轄に対する個別的同意がある場合にだけ仲裁への提起を許容

※米・豪州間文案のように紛争解決手続絶対削除主張の貫徹が難しい場合、次善の解決策であり中国とドイツの投資協定に先例がある

□主張の根拠

○「収用および補償」関連紛争の合憲性補償

 -収用に対する補償は、憲法が定める財産権補償の内容と限界の問題なので、協定 締結を通じた保護範囲が憲法的限界と一致できるように保障する仕組みが必要

 -財産権侵害に対する補償は協定上に規定を置かなくても憲法上保障される権利であり、仲裁合意が外国投資家に超憲法的権利を付与することに対する同意ではないので、結局収用問題を仲裁で解決するのは公正な基準と手続を保障されるためにforumを移すという意味に過ぎない

 -しかし仲裁判定部が各国の憲法上の原理に沿った判定をすることを保障する仕組みがない限り、国内手続化が唯一の対案である

○韓国の司法制度の信頼度維持および誇り(自尊心)の保障

 -投資協定は先進国資本が財産権補償体制が未整備な低開発国に投資しながら、安全を保障されるために締結するのが通例

 -しかし韓国は司法制度等が検証されたOECD国として司法を通じた権利保護の仕組みが完備しているので、基本的安定性の保証が可能

  ※NAFTA(‘94)以後、米国と仲裁手続が含まれた投資協定を締結する最初のOECD国となるもので韓国の司法制度が不備なことを自認する結果になる可能性がある

 -韓国の補償基準が未熟という疑問視、韓国の補償体系に対する米国企業の具体的不

満事例の有無、同一事例に対する米国内補償体系に対する比較検討後、改善方案を

講じる

  ○米国側の同一の関心事項と合致

-米国側が間接収用判断法理に関して収用(taking)に関する自国判例法の内容を規定した理由は、自国の判例法を許容する文案にせよという米国議会TPA(貿易促進権限法)の委任に沿ったものである

 -これは国際仲裁によって米国に投資した外国人が米国人投資家より多くの権利を付与されるかも知れず、これは米国憲法に違反するという点を憂慮したものである

 米国議会がFTA交渉権を行政部に付与するTPA2002(貿易促進権限法)はたった1票の差で通過したもので、主権を侵害する素地を内包した投資紛争解決構造に対する憂慮が反対意見の有力な論拠になり、当時米国州最高栽判事協会、州法務部長官協会も国際仲裁の違憲性に対する憂慮を表明したことがある

 -韓国側の提案は憲法と矛盾する状況の回避、国内外投資家間の平等待遇等、米国側が憂慮する措置であり、米国議会の関心事と同一 

 米国が提示した法理に対応して、ドイツの「特別犠牲」概念等に基いた韓国の判例法原則の反映を要求する方案だけでは、基本法理体系の相違を解消できないのみならず、仲裁判定部に対する実効的判定基準として機能することが難しい

 ○「収用および補償」とその他協定義務との差別性

   -収用に対する補償原則は、協定を締結しなくても韓国の憲法で保障される権利であるのに対して、内国民待遇、最恵国待遇、送金保証等の権利は協定を通して創設される権利と評価できるので、両者間の理論的区別が可能

  ○既存の先例あり

 -ドイツ-中国間投資協定(2003)の文案

    ・「収用および補償」を規定した第4条第(2)項で「収用の合法性および補償金額の問題は投資家対国家間紛争解決条項(9)にもかかわらず、国内の裁判所が審査すると規定」

   “At the request of the investor the legality of any such expropriation and the amount of compensation shall be subject to review by national courts, notwithstanding the provisions of Article 9.”

□反論の可能性

 ○国際的異例性の問題

  -間接収用だけを仲裁範囲から除外することは、国際投資協定の慣例上普遍的方式ではないという批判が可能だが、

   ・米-豪州方式は紛争解決手続全体を除外した異例なケースで、「収用」だけの除外はこれより緩和された形態であり、ドイツ-中国間投資協定等でも例を発見できるし、

   ・いわゆる「北-北」間投資協定締結自体が異例なものなので、必ず既存の「北-南」間投資協定様式を踏襲する必要はない

  ※米国が46ヶ国と、豪州が21ヶ国と締結した投資協定はすべて紛争解決手続を含んでいるが、相手国はすべて低開発国ないし開発途上国である 

○請求原因の可分性問題

 仲裁提訴する場合、一連の事実関係を「内国民待遇違反」、「公平待遇違反」、「間接収用」等、色々な請求原因を動員して提訴する場合、一部の請求原因を分離して国内手続を強制するのは非論理的という批判が可能だが、

収用以外の他の請求原因は、仲裁判定部に要件に該当するか否かを別途に判断させ、同義務違反と直接的因果関係のある損害として補償範囲を限定する等、技術的補完を通じて解決可能で、

・主要請求原因が「収用」であるケースが多いので、この争点が除去される場合、仲裁判定部が解決する争点が単純化し迅速な仲裁可能

 NAFTAKarpa(Feldman) v.Mexico事件の場合、被訴国がタバコ輸出業者である申請人に消費税を返還しない事実が「漸進的収用」と内国民待遇に違反に該当すると提訴されたが、判定部は収用に基く請求は棄却し、NT違反だけを認容(同一の環境にある他の投資家たちと比べて、同一の待遇をしなかったと判示)して200万ドルの賠償を命令

□文案の構成

○韓国側「収用および補償」条項(6)に第6項を追加

-「措置の収用に該当するか否かおよび補償金額の問題に関する紛争は締約国の国内

 行政裁判所若しくは一般裁判所の手続による」という文案を追加

○事前同意条項に例外規定追加

事前同意を規定した条項(韓国側文案第18条、米国側文案第16) 1項末尾に「仲裁提訴が6条を根拠にした場合を除く」という文案を追加

4. その他濫訴防止方案

□国家間事前協議義務の賦課

 ○協議および調整義務条項(韓国側16条、米国側14)国家間事前協議義務条項追  

  加

 -「仲裁提起前、被訴国政府と投資家の母国政府間でもconsultationnegotiation手続を経なければならない」

 TPA立法前にニューヨーク州法務長官(Eliot Spitzer)は外国投資家が投資紛争提起前に自国政府から承認を受けるようにする要件を置くことを要求したことがある

 ○国家間事前協議の条項を置く場合、投資家が母国政府に協議要請過程で提訴意志が 緩和され、濫訴が選り分けられる効果を期待

 

(翻訳:李洋秀/法律校正:岩月浩二)

2013年2月 2日 (土)

ISD条項の罠3 韓国法務部の検討を踏まえて

1月31日に全文を紹介した、韓国法務部の検討結果は、非常に示唆に富んでいる。
ここで、要点を紹介しておくことにしたい。


ISDが伝統的国際法の考え方にそぐわないと言おうと、何と言おうが、すでに全世界2800を超える投資協定と、約300のFTAにすでにISD条項は設けられている。


どうして、ISDはこれほどの増殖を示したのか。


遡れば、真っ当かどうかは措くとして、理由はあった。


途上国に対する投資が、投資家にとっては、しばしば途上国の理不尽な振る舞いによって毀損されてきたという言われ方がある。
途上国では得てして裁判制度が未整備か、不公正であるので、投資が毀損されても、真っ当な救済手段がない。
したがって、国際的な裁判に訴える手段を認めようというのだ。
途上国が外国投資を積極的に受容するようになって以来、ISD条項を設けた投資協定は増殖してきた。


途上国に対するそうした扱いが、正当なのか、どうかわからない。
一応、実務的な理屈はあるということだ。



韓国法務部が問題にしているのは、先進国同士の投資協定にISD条項を設ける必要があるのかである。
日本もそうだが、韓国も司法制度は整備している。
国内司法手続による救済で十分ではないか。
濫訴のおそれはないのか。


ただし、既存の締結した協定の相手国は開発途上国だったり提訴の可能性が低い国だった反面、米国との協定締結時には現実的に訴訟が頻発するものと予想され、投資紛争範囲も広範囲になることによってNAFTA投資紛争事例等に基き、投資紛争構造自体に対する批判と憂慮が高まっている。(Word版・7p)

 


NAFTAは、司法制度が整備されている先進国間で初めてISD条項が入った例であり、NAFTA以降、外国投資家の提訴が激増することになった。
国際経済法の第一人者と思われる小寺彰東京大学大学院総合文化研究科教授も次のように指摘している(「投資協定仲裁の新たな展開とその意義」21頁)


すでに検討してきたように、投資協定仲裁は、途上国を念頭において、途上国の司法手続への信頼性の欠如を補うために作られていたものである。投資協定仲裁が米加自由貿易協定にはなく、NAFTAになって置かれたという事実は、NAFTA上の投資協定仲裁がメキシコを念頭に置いたものであることを示している。



NAFTAの投資家対国家紛争仲裁の例は、ネットの世界ではずいぶんと広められている。
仲裁判断をめぐって、正当だとする意見と、主権侵害だとする意見に分かれている。


韓国法務部の評価は、どうか。
この検討のすぐれている点は、仲裁判断が示されなかった例や、まだ係属中の事件も検討の対象としたことだ。


韓国法務部が注目した事件は以下のようなものだ。


○UPS事件
・国営企業(state enterprise)であるカナダ郵便公社(CPC)が法的委任に従って独占的に郵便配達サービスをするのに併せて、法的委任がない小包特急配達サービスにおいても特恵を得ていることを理由に、小包配達競争社である米UPS社が内国民待遇違反を理由に提訴(公共サービスを対象にした最初のNAFTA事例)

 ・現在仲裁中であり、カナダ郵便労組は仲裁関与を通じてUPSの勝訴時、政府補助金の支給が不可能になり収益性が落ち、僻地に対する郵便サービスを中断しなければならない等の憂慮を提起しており、NAFTAに対する違憲訴訟も起こされる等、社会的影響が大きい

○Trammel Crow事件
- カナダ郵便公社発注の郵便施設管理契約に入札を準備中だったTrammel Crow社は、郵便公社が既存企業との契約を延長し入札計画を取消したことを、協定違反として提訴
- カナダ政府は合意で終結(合意条件不詳)

また、係属中の事件として、以下のようなものを上げている。

○米国を相手 

  • 米国の核廃棄物埋立て政策(他の処理技術保有者が提訴)、
  • カナダ産木材に対する反ダンピングおよび履行義務(パフォーマンス要求)賦課、
  • 麻薬庁が大麻飲食物輸入を犯罪化した措置、
  • 組織犯罪取締り時のゲーム場および会計帳簿押収措置、
  • 原住民地域毀損の可能性がある坑口の埋立て措置、
  • タバコ販売額のうち一定比率を公衆保健のための基金に納付するように強制する規定、
  • 狂牛病発見以後米国政府がカナダ牛の輸入を禁止した措置

○カナダを相手

  • 公園建立のための土地収用措置、
  • ゼネリック医薬品の製造を禁止するカナダの特許法規定、
  • カナダ産飲用水輸出免許の延長・新規発給停止措置、
  • 特定農薬販売会社と政府機関の間の同農薬販売制限措置と関連した紛争

○メキシコを相手

  • スロットマシンと類似した賭博場閉鎖命令、
  • 投資家に敷地を売渡した開発業者の所有権を否認して投資家に土地明渡しを命じた裁判所の判決
  • 1997年ペソ貨危機以後当局の不実社債還収措置の差別性、
  • メキシコ業者と法律家・公証人の共謀で投資家に対する詐欺および同事件対処に対する政府の無能と手続的不公正、
  • 土地の国有地過不足に対する所有権紛争、
  • 清涼飲料甘味剤製造企業に対する課税措置、
  • 国境所在リオグランデ河に対するメキシコ政府の水路変更によるテキサス住民の用水権被害事例、
  • 観光地開発合作契約と関連した民・刑事紛争で敗訴後、メキシコの裁判システムを提訴した事件等

およそ、考えられる限りのケースが、対象とされていると言ってよいだろう。
日本に狂牛病の疑いのある牛を輸入するように求めているアメリカが、逆にカナダの狂牛病のおそれのある牛の輸入を禁止した結果、カナダ企業から訴えられているのは何をかいわんやであるし、判決という司法のシステム自体が、投資協定違反を問われているのだ。大麻や賭博等のグレーな分野のどこまでを犯罪として取り締まるかについてすら、自由にならない。


しかも、訴えられるだけで、巨額の費用が発生する。

□予算の負担問題
○最低補償基準に関して国内より高い基準の適用等、損害賠償算定基準の差異から 高額賠償判定の可能性が常存
 ※2004年スロバキアに対して8億2,400万ドル賠償判定等(CSOB case)、2001年チェコに対して2億7千万ドル賠償判定(Lauder case)等
  ※現在まで最多請求額はエネルギー会社の株主たちがロシアを相手に起こした約330億ドル(韓国通貨で約33兆ウォン)


○勝訴時にも仲裁手続の長期化、高額の仲裁・法律費用、証人等関係者の出張費用、翻訳費用等予算の負担が不可避
- 最近の仲裁事件関連の1件あたり平均法律費用は百万ドルから2百万ドルと推算され、長期間の訴訟で仲裁費用・法律費用加重の危険があり、投資家が一部でも勝訴した時は仲裁費用の半分負担ないし法律費用各自負担とされる事例が多く、被訴時に手続費用の算定が必要
 ※Pope & Talbot v. Canada事件の場合、原告が5億9百万ドルを請求し4年間進行した結果、結果46万ドルの認容に過ぎなかったが、総費用約760万ドルに関して仲裁費用の半分、法律費用619万ドルを各自負担との判定
  (5千万ドル賠償を主張し150万ドルが認容されたKarpa事件でも同じ原則を適用)

仮に、仲裁で勝訴するとしても、外資が絡む場合には、規制を控えざるを得ないという効果が生じる。

○特に、「間接収用」の概念は国際的定義が確立してない概念で租税、安保、公共秩序、保険等すべての政府(地方自治体および政府投資機関、司法府等を含む)の措置に対して提訴可能
※措置(actionまたはmeasure)は政府の法規定、制度、慣行、不作為、公務員の事実的行為等を含む広範囲な概念である

○政府被訴時萎縮効果(chilling effect)等により敗訴判定以前にも規制政策推進を萎縮させる効果がある
※巨大資本を保有する多国籍企業の場合、制度的・慣行的障害を除去し特定政府を手なずけるために(taming effect)勝訴の可能性が低い場合にも、仲裁を起こす傾向がある

日本の経済産業省も、日本企業向けの研修で、訴訟を背景にして有利にことを運ぶことができるという利点を強調している。後者の交渉を有利に進めるためのビバレッジとの表現は、より露骨に途上国に対する意図を示している。

実際に訴えなくとも、相手国政府を牽制し、交渉を有利に進める材料として有効。(平成24年11月経産省通商政策局経済連携課「投資協定の概要と日本の取組」)

相手政府との交渉を有利に進めるためのレバレッジとしても有効。
2009年11月 経産省通商政策局経済連携課「投資協定の現状と今後の進め方」7p)

その結果、政府は、規制をしようとするに当たっては、常に外国投資家を害しないかを念頭に政策決定せざるを得なくなる。


日本国憲法は、財産権に対しては、合理的な理由があれば、政策的な理由による制限を認める一方、精神的自由については、その自由を最大限に尊重することを求めている。
二重基準と呼ばれている。


ところが、外資に狙われることがないことを第一に考える政策決定は、憲法の価値観の逆転を招く。
精神的自由や健康、環境より外資の自由が優位することになるのだ。
逆ダブルスタンダードである。
韓国法務部もこれを憂慮している。
 

○韓国の憲法上、財産権の補償法理と衝突の可能性
-韓国の憲法上の補償体系
・憲法第23条第3項は財産権収用時、「法律に従った補償原則」および「正当な補償」原則を闡明
※憲法第23条:①すべて国民の財産権は保障される。その内容と限界は法律で定める。②財産権の行使は、公共の福祉に適合するようにしなければならない。③公共の必要による財産権の収用・使用または制限およびそれに対する補償は法律でするが、正当な補償をしなければならない。
・「公益事業のための土地等の取得および補償に関する法律」等各単行法律が個別に補償を規定したり、ほとんどすべての土地およびこれに類似した権利に限定され、財産権移転を伴う直接収用に限定
・間接収用の概念、範囲および補償原則に対する立法や判例が確立されていない

□超憲法的措置の強制問題

○韓国の憲法上収用の法理に適合し、法律に違反しない措置が仲裁判定部によって収用と判断される場合にも、韓国政府が賠償判定を執行しなければならないのみならず、関連措置を是正しなければならない負担を負う矛盾が発生する可能性

- 例えば、整理解雇制限の法理を根拠に賠償請求し認容された場合、韓国では大法院判決と背馳する仲裁判定なのにこれを執行しなければならないのみならず、同種の提訴を防ぐために整理解雇要件緩和立法が不可避

結論として、韓国法務部は、極めて広範囲にわたってISDの影響が及ぶと考えられるので、汎政府的な対応を急ぐ必要があるとしている。

○各部署別現行規制措置の再検討
- 投資紛争問題は全ての政府の部署、司法部、地方自治体、政府投資機関等に関連した事案なので汎政府的な対処が必要
- 主要分野の規制権確保方案および被訴の可能性が高い措置の事前方案を講ずる必要

※濫訴に対する実効的防止装置が未整備で投資家のすべての被害状況を「間接収用」若しくは「最低待遇(公正・衡平待遇)基準」違反等で提訴可能(政府の措置がない場合にも、投資家保護のための制度不備を事由に提訴可能)

-主要検討対象

・各種の租税措置、建築、不動産規制、保健・環境規制、外国企業に対する捜査および税務調査、中小企業支援制度 
・政府、政府投資機関、地方自治体等の投資契約等関連実態および投資誘致関連各種の措置の現況等
※政府投資機関・公企業等state enterpriseの業務性格、法的根拠、契約実態、差別的措置等、各種実態を集中検討する必要がある


何を訴えられるか予想もつかないから、あらゆる規制について、見直す必要があるということだ。
ISDを認めるということは、外国投資家本位に国を作り替えることを意味する。外国資本に国家を丸ごと差し出せというに等しい。


だから、自民党は、ISD条項に反対することを党議決定し、公約したはずだ。
政権を執ったからと言って、前のめりになるのは、絶対に許されない。



なお、ISD条項抜きの投資協定もある。
米豪FTAだ。


国際経済法の第一人者である小寺彰氏も、これを指摘して、次の通り警告している(前掲22頁)。

投資協定である以上、投資協定仲裁は置かなければならないと考えるような、教条的かつ短絡的な態度だけは取るべきではない。

韓国側がこれを指摘したときのアメリカ側の対応は、以下の通りだ。
韓国民は、アングロサクソンではないとして、軽く一蹴されたというほかない。

米国側は米国-豪州間文案は両国がすべての法理が類似した英米法圏の国家である点等を勘案した例外的な文案であり、韓国には適用できないと説明

したがって、TPPに参加するならば、この国を挙げて外国投資家に抛つ覚悟が必要である。
事実を知ったとき、国民はそれを望むのだろうか。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

2013年2月 1日 (金)

ISD条項の罠2 外国投資家に国家を超える特権を与えるISD

昨日、韓国法務部(日本の法務省に当たる)がISD条項について検討した結果を公開した。Wordファイルは、改めて若干の校正を施したものをアップしておいた。


TPPのISD条項について、少し、真面目な話を続ける。


TPPにISD条項が付されるのは、必至である。
ISDは、外資が一方的かつ強制的に国家を裁判にかけることができる制度である。


ごく普通の法的な感覚からすれば、この制度はそれ自体、極めて奇妙な制度である。


領土問題を思い起こしてみれば、わかりやすいかもしれない。
日本が竹島の領有権を主張して、国際司法裁判所に提訴すると言っても、韓国は「領土問題は存在しない」として、裁判には応じない。
また、尖閣諸島について、仮に中国が国際司法裁判所に提訴すると主張しても、日本政府は応じないだろう。


国家は一方的に裁判にかけられるということはない。
国家主権の絶対性である。


したがって、国家間紛争は、結局、外交によって解決する以外に方策がない。
外交の延長としての武力行使は、国連憲章7章による場合や自衛以外の場合には禁じられている。したがって、国際法違反を主張する側はあくまでも外交によって粘り強く問題を可決する以外にない。(なお、WTOには、国家間の紛争処理手続は存在し、WTO加盟国は、委員会への提訴がなされたときは、応じなければならないが、最終判断に至るまでに数々の段階がある上、最終的判断もISDのような直接的な拘束力はない。決定に反しても、国際法違反の問題が生じるに止まる)
北朝鮮による拉致被害者について、「対話と圧力」と言われる所以である。


北朝鮮による拉致被害者問題の場合、拉致被害者の人権が侵害されている。
ところが、拉致被害者自身や拉致被害者の家族が、直接、国家と交渉することは国際法上、予定されていない。近代国際法の法主体は、国家と国際機関であることが大原則だからである。
日本国がこれに代わって、被害者の権利を保護するために釈放を求めて、北朝鮮と交渉をする。
これを外交保護権の行使と呼ぶ。
しかし、国家が関与しても、国際司法裁判所に訴えて、北朝鮮から拉致被害者を解放することもできない。


全く仮定の問題になるが、仮に、被害者家族個人ができることがあるとすれば、権利を侵害する相手国、この場合は、北朝鮮の国内裁判手続を利用する以外にないのである。


これが、通常の国際法の考え方である。
身体的な自由という基本的人権の根幹をなすような重要な権利の侵害に対してすら、国際法的な救済は認められない。


それには、それなりの歴史的理由がある。
大小、強弱を問わず、国家主権の平等を認めない限り、結局は、侵略や占領という事態を防ぐことはできない。
国際連合は、そうした主権平等を大前提にして成立している。


さて、ISDは、そうした主権の絶対性を誇る国家を、外国投資家が、一方的に裁判にかけることができるというのである。
通常であれば、外資は、母国政府に権利侵害を陳情し、母国政府が重要な課題だと考えれば、外交保護権の行使として、相手国と交渉する。あるいは、現在ではWTOのパネルにかける。
これが、当たり前の国際法の世界である。


ところが、ISDは、国家ですらなしえなかった、相手国を強制的に国際裁判の場へ引きずり出すという強烈な権限を、外国投資家に与える。
しかも、その判断には、強制力があり、国内判決と同様に強制執行できる効力があることが予め合意されている。


おかしくはないのか。


ISD条項は、外国投資家に国家を超越した強烈な国際法主体性を与える。
個人よりも、国家よりも、国際法上、外国投資家に優越した地位を与えるのがISD条項だ。
いかなる深刻な人権侵害を受けようと、個人は、決して国家と対等ではない。
かけがえのない基本的人権を侵害されてすら、個人は、相手国と直接交渉すらする権利がない。母国にすがるしか国際法上の手段はない。


外国投資家を、そこまでして、国際法上、優遇しなければならないのか、外国投資を国内に呼び込むために、国家は、そこまで屈辱的にならなければならないのか。


どうして、このような逆転したことが起きているのか。
問題は、そこから出発する。


答えは、一つである。
投資の自由の拡大こそが、全世界の国民に幸福をもたらすという強力なテーゼである。
資本移動の自由を高めてこそ、適正な国際的な分業が行われるようになり、富が均等に分配され、全世界の国民が豊かになるというのである。
したがって、投資家の前に国家は主権を譲り渡し、最大限の投資の自由の享受を認めなければならないのである。


真剣にそう考える人がいるのだろう。
そう考える人の力が強いから、ISDのような普通の国際法的発想では理解できないものが生まれたのであろう。


残念ながら、維新の党も、みんなの党も、安倍首相も、こうしたISDを当たり前と考えている。


僕には、当たり前にはとても見えないが、とりあえずISD条項は、こうした市場原理主義によって初めて正当化できるということを確認しておく。
国家主権を超えたグローバル投資家主権こそが、次の時代に全世界の国民の福利を最大化する構想だという訳である。




朴・チュソン議員の資料集には、他にも、法務部国際課の検討結果や、韓国最高裁の検討結果も掲載されている。現在、順次、翻訳作業中である。

* ランキングに参加しています *

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

« 2013年1月 | トップページ | 2013年3月 »

無料ブログはココログ
2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30