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« ISD条項の罠2 外国投資家に国家を超える特権を与えるISD | トップページ | ISD条項の罠4 憲法秩序の破壊 »

2013年2月 2日 (土)

ISD条項の罠3 韓国法務部の検討を踏まえて

1月31日に全文を紹介した、韓国法務部の検討結果は、非常に示唆に富んでいる。
ここで、要点を紹介しておくことにしたい。


ISDが伝統的国際法の考え方にそぐわないと言おうと、何と言おうが、すでに全世界2800を超える投資協定と、約300のFTAにすでにISD条項は設けられている。


どうして、ISDはこれほどの増殖を示したのか。


遡れば、真っ当かどうかは措くとして、理由はあった。


途上国に対する投資が、投資家にとっては、しばしば途上国の理不尽な振る舞いによって毀損されてきたという言われ方がある。
途上国では得てして裁判制度が未整備か、不公正であるので、投資が毀損されても、真っ当な救済手段がない。
したがって、国際的な裁判に訴える手段を認めようというのだ。
途上国が外国投資を積極的に受容するようになって以来、ISD条項を設けた投資協定は増殖してきた。


途上国に対するそうした扱いが、正当なのか、どうかわからない。
一応、実務的な理屈はあるということだ。



韓国法務部が問題にしているのは、先進国同士の投資協定にISD条項を設ける必要があるのかである。
日本もそうだが、韓国も司法制度は整備している。
国内司法手続による救済で十分ではないか。
濫訴のおそれはないのか。


ただし、既存の締結した協定の相手国は開発途上国だったり提訴の可能性が低い国だった反面、米国との協定締結時には現実的に訴訟が頻発するものと予想され、投資紛争範囲も広範囲になることによってNAFTA投資紛争事例等に基き、投資紛争構造自体に対する批判と憂慮が高まっている。(Word版・7p)

 


NAFTAは、司法制度が整備されている先進国間で初めてISD条項が入った例であり、NAFTA以降、外国投資家の提訴が激増することになった。
国際経済法の第一人者と思われる小寺彰東京大学大学院総合文化研究科教授も次のように指摘している(「投資協定仲裁の新たな展開とその意義」21頁)


すでに検討してきたように、投資協定仲裁は、途上国を念頭において、途上国の司法手続への信頼性の欠如を補うために作られていたものである。投資協定仲裁が米加自由貿易協定にはなく、NAFTAになって置かれたという事実は、NAFTA上の投資協定仲裁がメキシコを念頭に置いたものであることを示している。



NAFTAの投資家対国家紛争仲裁の例は、ネットの世界ではずいぶんと広められている。
仲裁判断をめぐって、正当だとする意見と、主権侵害だとする意見に分かれている。


韓国法務部の評価は、どうか。
この検討のすぐれている点は、仲裁判断が示されなかった例や、まだ係属中の事件も検討の対象としたことだ。


韓国法務部が注目した事件は以下のようなものだ。


○UPS事件
・国営企業(state enterprise)であるカナダ郵便公社(CPC)が法的委任に従って独占的に郵便配達サービスをするのに併せて、法的委任がない小包特急配達サービスにおいても特恵を得ていることを理由に、小包配達競争社である米UPS社が内国民待遇違反を理由に提訴(公共サービスを対象にした最初のNAFTA事例)

 ・現在仲裁中であり、カナダ郵便労組は仲裁関与を通じてUPSの勝訴時、政府補助金の支給が不可能になり収益性が落ち、僻地に対する郵便サービスを中断しなければならない等の憂慮を提起しており、NAFTAに対する違憲訴訟も起こされる等、社会的影響が大きい

○Trammel Crow事件
- カナダ郵便公社発注の郵便施設管理契約に入札を準備中だったTrammel Crow社は、郵便公社が既存企業との契約を延長し入札計画を取消したことを、協定違反として提訴
- カナダ政府は合意で終結(合意条件不詳)

また、係属中の事件として、以下のようなものを上げている。

○米国を相手 

  • 米国の核廃棄物埋立て政策(他の処理技術保有者が提訴)、
  • カナダ産木材に対する反ダンピングおよび履行義務(パフォーマンス要求)賦課、
  • 麻薬庁が大麻飲食物輸入を犯罪化した措置、
  • 組織犯罪取締り時のゲーム場および会計帳簿押収措置、
  • 原住民地域毀損の可能性がある坑口の埋立て措置、
  • タバコ販売額のうち一定比率を公衆保健のための基金に納付するように強制する規定、
  • 狂牛病発見以後米国政府がカナダ牛の輸入を禁止した措置

○カナダを相手

  • 公園建立のための土地収用措置、
  • ゼネリック医薬品の製造を禁止するカナダの特許法規定、
  • カナダ産飲用水輸出免許の延長・新規発給停止措置、
  • 特定農薬販売会社と政府機関の間の同農薬販売制限措置と関連した紛争

○メキシコを相手

  • スロットマシンと類似した賭博場閉鎖命令、
  • 投資家に敷地を売渡した開発業者の所有権を否認して投資家に土地明渡しを命じた裁判所の判決
  • 1997年ペソ貨危機以後当局の不実社債還収措置の差別性、
  • メキシコ業者と法律家・公証人の共謀で投資家に対する詐欺および同事件対処に対する政府の無能と手続的不公正、
  • 土地の国有地過不足に対する所有権紛争、
  • 清涼飲料甘味剤製造企業に対する課税措置、
  • 国境所在リオグランデ河に対するメキシコ政府の水路変更によるテキサス住民の用水権被害事例、
  • 観光地開発合作契約と関連した民・刑事紛争で敗訴後、メキシコの裁判システムを提訴した事件等

およそ、考えられる限りのケースが、対象とされていると言ってよいだろう。
日本に狂牛病の疑いのある牛を輸入するように求めているアメリカが、逆にカナダの狂牛病のおそれのある牛の輸入を禁止した結果、カナダ企業から訴えられているのは何をかいわんやであるし、判決という司法のシステム自体が、投資協定違反を問われているのだ。大麻や賭博等のグレーな分野のどこまでを犯罪として取り締まるかについてすら、自由にならない。


しかも、訴えられるだけで、巨額の費用が発生する。

□予算の負担問題
○最低補償基準に関して国内より高い基準の適用等、損害賠償算定基準の差異から 高額賠償判定の可能性が常存
 ※2004年スロバキアに対して8億2,400万ドル賠償判定等(CSOB case)、2001年チェコに対して2億7千万ドル賠償判定(Lauder case)等
  ※現在まで最多請求額はエネルギー会社の株主たちがロシアを相手に起こした約330億ドル(韓国通貨で約33兆ウォン)


○勝訴時にも仲裁手続の長期化、高額の仲裁・法律費用、証人等関係者の出張費用、翻訳費用等予算の負担が不可避
- 最近の仲裁事件関連の1件あたり平均法律費用は百万ドルから2百万ドルと推算され、長期間の訴訟で仲裁費用・法律費用加重の危険があり、投資家が一部でも勝訴した時は仲裁費用の半分負担ないし法律費用各自負担とされる事例が多く、被訴時に手続費用の算定が必要
 ※Pope & Talbot v. Canada事件の場合、原告が5億9百万ドルを請求し4年間進行した結果、結果46万ドルの認容に過ぎなかったが、総費用約760万ドルに関して仲裁費用の半分、法律費用619万ドルを各自負担との判定
  (5千万ドル賠償を主張し150万ドルが認容されたKarpa事件でも同じ原則を適用)

仮に、仲裁で勝訴するとしても、外資が絡む場合には、規制を控えざるを得ないという効果が生じる。

○特に、「間接収用」の概念は国際的定義が確立してない概念で租税、安保、公共秩序、保険等すべての政府(地方自治体および政府投資機関、司法府等を含む)の措置に対して提訴可能
※措置(actionまたはmeasure)は政府の法規定、制度、慣行、不作為、公務員の事実的行為等を含む広範囲な概念である

○政府被訴時萎縮効果(chilling effect)等により敗訴判定以前にも規制政策推進を萎縮させる効果がある
※巨大資本を保有する多国籍企業の場合、制度的・慣行的障害を除去し特定政府を手なずけるために(taming effect)勝訴の可能性が低い場合にも、仲裁を起こす傾向がある

日本の経済産業省も、日本企業向けの研修で、訴訟を背景にして有利にことを運ぶことができるという利点を強調している。後者の交渉を有利に進めるためのビバレッジとの表現は、より露骨に途上国に対する意図を示している。

実際に訴えなくとも、相手国政府を牽制し、交渉を有利に進める材料として有効。(平成24年11月経産省通商政策局経済連携課「投資協定の概要と日本の取組」)

相手政府との交渉を有利に進めるためのレバレッジとしても有効。
2009年11月 経産省通商政策局経済連携課「投資協定の現状と今後の進め方」7p)

その結果、政府は、規制をしようとするに当たっては、常に外国投資家を害しないかを念頭に政策決定せざるを得なくなる。


日本国憲法は、財産権に対しては、合理的な理由があれば、政策的な理由による制限を認める一方、精神的自由については、その自由を最大限に尊重することを求めている。
二重基準と呼ばれている。


ところが、外資に狙われることがないことを第一に考える政策決定は、憲法の価値観の逆転を招く。
精神的自由や健康、環境より外資の自由が優位することになるのだ。
逆ダブルスタンダードである。
韓国法務部もこれを憂慮している。
 

○韓国の憲法上、財産権の補償法理と衝突の可能性
-韓国の憲法上の補償体系
・憲法第23条第3項は財産権収用時、「法律に従った補償原則」および「正当な補償」原則を闡明
※憲法第23条:①すべて国民の財産権は保障される。その内容と限界は法律で定める。②財産権の行使は、公共の福祉に適合するようにしなければならない。③公共の必要による財産権の収用・使用または制限およびそれに対する補償は法律でするが、正当な補償をしなければならない。
・「公益事業のための土地等の取得および補償に関する法律」等各単行法律が個別に補償を規定したり、ほとんどすべての土地およびこれに類似した権利に限定され、財産権移転を伴う直接収用に限定
・間接収用の概念、範囲および補償原則に対する立法や判例が確立されていない

□超憲法的措置の強制問題

○韓国の憲法上収用の法理に適合し、法律に違反しない措置が仲裁判定部によって収用と判断される場合にも、韓国政府が賠償判定を執行しなければならないのみならず、関連措置を是正しなければならない負担を負う矛盾が発生する可能性

- 例えば、整理解雇制限の法理を根拠に賠償請求し認容された場合、韓国では大法院判決と背馳する仲裁判定なのにこれを執行しなければならないのみならず、同種の提訴を防ぐために整理解雇要件緩和立法が不可避

結論として、韓国法務部は、極めて広範囲にわたってISDの影響が及ぶと考えられるので、汎政府的な対応を急ぐ必要があるとしている。

○各部署別現行規制措置の再検討
- 投資紛争問題は全ての政府の部署、司法部、地方自治体、政府投資機関等に関連した事案なので汎政府的な対処が必要
- 主要分野の規制権確保方案および被訴の可能性が高い措置の事前方案を講ずる必要

※濫訴に対する実効的防止装置が未整備で投資家のすべての被害状況を「間接収用」若しくは「最低待遇(公正・衡平待遇)基準」違反等で提訴可能(政府の措置がない場合にも、投資家保護のための制度不備を事由に提訴可能)

-主要検討対象

・各種の租税措置、建築、不動産規制、保健・環境規制、外国企業に対する捜査および税務調査、中小企業支援制度 
・政府、政府投資機関、地方自治体等の投資契約等関連実態および投資誘致関連各種の措置の現況等
※政府投資機関・公企業等state enterpriseの業務性格、法的根拠、契約実態、差別的措置等、各種実態を集中検討する必要がある


何を訴えられるか予想もつかないから、あらゆる規制について、見直す必要があるということだ。
ISDを認めるということは、外国投資家本位に国を作り替えることを意味する。外国資本に国家を丸ごと差し出せというに等しい。


だから、自民党は、ISD条項に反対することを党議決定し、公約したはずだ。
政権を執ったからと言って、前のめりになるのは、絶対に許されない。



なお、ISD条項抜きの投資協定もある。
米豪FTAだ。


国際経済法の第一人者である小寺彰氏も、これを指摘して、次の通り警告している(前掲22頁)。

投資協定である以上、投資協定仲裁は置かなければならないと考えるような、教条的かつ短絡的な態度だけは取るべきではない。

韓国側がこれを指摘したときのアメリカ側の対応は、以下の通りだ。
韓国民は、アングロサクソンではないとして、軽く一蹴されたというほかない。

米国側は米国-豪州間文案は両国がすべての法理が類似した英米法圏の国家である点等を勘案した例外的な文案であり、韓国には適用できないと説明

したがって、TPPに参加するならば、この国を挙げて外国投資家に抛つ覚悟が必要である。
事実を知ったとき、国民はそれを望むのだろうか。

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