ISD条項の罠6 前提となる情報の公開をせよ
しばらくISD(投資家対国家紛争解決手続)条項の議論を中断して、気楽なブログに戻るつもりでいたが、自民党が今日、外交・経済連携調査会を開いて、首相の訪米前にTPP参加を決定しそうな勢いであるので、議論を続けることにした。
日本経済新聞2月6日「TPP、首相訪米前に見解 自民の調査会が会合」
(自民党の外交・経済連携調査会会長)衛藤氏は「調査会として意見集約し、論点整理して指針を示す必要がある」と強調。今月下旬の安倍晋三首相の訪米までに調査会としての見解をまとめる意向を示した。
繰り返し確認してきたように、二国間投資協定(BIT)や自由貿易協定(FTA)にISD条項(投資家対国家紛争解決手続条項)が盛り込まれるのは、現在では特別なことではない。
但し、投資協定自体が急増したのは、この15年からせいぜい20年ほどの間のことである。
先進国と途上国あるいは旧社会主義圏の国家との間での投資協定が急増するのに伴い、これらの協定に悉くISD条項が設けられた。
国際経済法の専門家ですら、ISD条項の有する意味に気づいたのは、仲裁例が急増する、この数年のことである。国際経済法の教科書で、投資家対国家紛争解決制度の突っ込んだ説明がなされるようになったのは、実に昨年、2012年になってからのことである。
したがって、ISD条項に関しては未だ知見が不十分である。薬で言えば、安全性が確認されていない治験段階であると言ってよいだろう。副作用の強烈な劇薬の可能性が排除できない。
専門家ですら、ISD条項をめぐる急激な変化を把握することが困難だというのであるから、国民的議論をするベースすら現段階では、存在しないのだ。
仲裁例については、個別事例が散発的に紹介されているに過ぎない。
自民党自体、国民的議論が不足していることを指摘している。
ISDSの個別ケースは、全て英文でしか読むことができない。
国民的議論のためには、以下の事項は最低限政府の責任においてなされなければならない。
1 ISDSの全仲裁例について、邦文のデータベース(全文及び要旨)を構築して公表すること(WEB及び紙媒体)
2 取下などで終結したISDS事例及び係属中のケースについて、正確な情報を邦文で提供するデータベースの構築と公表(WEB及び紙媒体)
ちなみに、国連貿易開発会議(UNCTAD)の2012年世界投資レポートによれば、2011年は、過去最高の46件が国際仲裁に付託されたとされ、国際仲裁への付託件数は、累計450件に達していると報告されている。
また、近年の傾向として、投資に悪影響を及ぼす国家の中核的な公共政策に対する国際投資家の挑戦が増えていることを指摘している。
この中には、ドイツ政府の段階的脱原発政策に対してスウェーデンのエネルギー会社がドイツ政府を国際仲裁に訴えた例(Vattenfall vs Germany)もあることが報告されている。
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