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2013年3月 1日 (金)

ISD条項の罠8 朝日の解説に寄せて1

2月27日付朝日新聞が「アベノミクス」シリーズの第33回でISD条項を採り上げている。


この程度の知識しかないのにTPPを推進しているのか、知っていて、この程度のことしか明らかにしないのかわからないが、著しく浅薄な記事である。議論の密度は、やや薄くなるが、誤った認識を放置することには害が多いので、急ぎ2回に分けて朝日の解説の問題点を指摘する。



何と言っても、間違いがあるのは解せない

これを見ると、国連の機関にも訴えることができるという趣旨の記載がある。
ISD条項に基づく訴えを受理する国連の機関などは存在しない。
国連は仲裁手続のルールを決めているだけである(ルールを決定した国連の国際商取引法委員会の頭文字をとってUNCITRALルールと呼ばれる)。


朝日が国連の機関に提訴できるように説明しているのは間違いだ。


UNCITRALルールによる提訴の場合は、当事者がこのルールに則って、個別に裁判官を決めて、裁判を進める。


国連は何ら裁判に関与しない。


最も誤解を招きやすいのは、この記事を読むと、ISD訴訟について、あたかも常設の国際裁判所が存在するかのように読めることだろう。
この点は、根本的に違う。


仲裁というのは、予め、第三者が示す判断にしたがう合意に基づき、その第三者の判断に拘束力を持たせる制度である。


常設の仲裁制度もあり得るが、ISDは違う。
事件ごとに原告である外国投資家と被告国家が合意して、第三者(仲裁委員。「裁判官」と考えた方がわかりやすい)を選任する。
個別事件ごとに設けられる裁判所があるだけである。


わかりやすいイメージで言えば、両当事者が裁判官を決めて、その裁判官の下で、裁判を行い、その結果にしたがうというものだ。
私設裁判所、民間法廷といった方がわかりやすいだろう。
英語では、Private Tribunal(民間法廷)等と表記されるので、常設の公的な裁判所があるかのような誤解を招く可能性はないが、朝日の解説は誤訳に近い説明の仕方である。


世界銀行傘下の投資紛争解決国際センターに提訴する場合も同じである。
紛争当事者が合意でどの都度、裁判官を決める。

国際センターは、事務的な手助けをするだけであり、内容には関与しない。


要するに、当事者がその事件限りの判断を求めるために、特別に裁判所を作って、そこで裁判をするというものだ。

裁判官は非常勤である。

審理は非公開である。


結果を公開するかどうかも当事者の意思にしたがう。

非公開の上、一審限りの手続である。不服申立は基本的にできない。


裁決をくだしてしまえば、それで裁判所の任務は終了する。


責任の所在は甚だしく不分明である。
普通に考える限り、極めて頼りない制度である。


また、ISDS条項は、国際法の常識から考えれば、信じられないほど強力な効果を持つ。
「ISD条項の罠2」で述べたとおり、この民間法廷が下した裁決は、強制力がある。
通常、外国の裁判所が下した判決を国内で強制執行しようとすると、再度、国内法秩序との整合性等の観点から当該国の裁判所が判決の効力を審理する。
外国判決の効力を国内裁判所が承認することによって、自国と矛盾する法原理の侵入を排除する仕組みになっている。
ISDによる民間法廷の裁決には、このような手続はなく、強制執行が可能になる。
民間法廷の判断が、国内法秩序を飛び越えて、直ちに国内法的な強制力を持つ。
極めて特異な制度といわなければならない。


民間法廷の裁判官が、どうしてそのような強大な権力を有することになるのか。


何より、民間法廷の裁判官は、国民に対して何らの責任も負わず、たまたまその事件について選任された一個人(通常3人の合議になる)に過ぎない。
それなのに、一国の規制の合法、違法を判断し、規制を左右しかねない権力を持つのである。
こうした事態は、近現代憲法の民主主義原理や国民主権の原理からは到底説明できない。


ISD条項が体現するのは、端的に外国投資家主権と説明するしかないものである。

ISD条項は、国民主権国家を外国投資家主権に書き変えてしまうのである。

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