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2013年4月13日 (土)

ISD条項の罠11 曖昧な実体法

米韓FTAの締結に当たって、韓国法務省は、米国とのISD条項の締結は、政府・地方政府・政府投資機関のあらゆる作為・不作為が国際投資紛争仲裁への提訴の対象となると結論づけた。


   特に、「間接収用」の概念は国際的定義が確立してない概念で租税、安保、公共秩序、保険等すべての政府(地方自治体および政府投資機関、司法府等を含む)の措置に対して提訴可能

 

    ※措置(actionまたはmeasure)は政府の法規定、制度、慣行、不作為、公務員の事実的行為等を含む広範囲な概念である

 


ISDは、規制政策に対する重大な萎縮効果をもたらすとして、いわば痛々しいほど真剣にISDの適用を回避し、あるいは適用範囲を縮小する途を探った。


韓国法務省の検討は結果的に無意味に終わったが、われわれがISD条項を検討する上で非常に有用である。


改めて、その翻訳版を以下に張り付けておく。
(なお、末尾の全米州立法者協議会の意見書は、英語を韓国語に翻訳した文章をさらに日本語に翻訳したので、極めて不自然なので、原文を参照してください)

韓国国会議員朴チュソン氏発行資料
投資家対国家紛争解決手続 国内法律機関等の検討


さて、今回から、しばらくISD条項に関する実体法を紹介する。
実体法というのは、ISDによる裁判の基準である。
どのような基準に基づいて、ISDの裁判がなされるのかという問題である。


ISDというのは、国際投資家民間法廷という手続をとることが強制されるという仕組みのことである。
これに対して、その民間法廷ではどのような法律で判断されるのかというのが実体法の問題である。


ISDを含む投資協定の代表的な「実体法」は大体相場が決まっている。


  • 内国民待遇
  • 最恵国待遇
  • 収用禁止と補償原則
  • 公正・衡平待遇義務
  • パフォーマンス(投資受け入れに伴う投資への義務づけ)要求の禁止
  • アンブレラ条項

ざっとこんな程度だ。
国際投資に伴い、相手国政府との間で生じる、複雑な利害関係をたった数箇条の規定だけで賄おうというのだから、極めて大胆である。
当然、政府(この場合は、国会や裁判所、地方自治体、独立行政法人、国立大学法人等々の政府投資機関を含む)側は、国民や地方住民の健康や生活を含む極めて多様な利益や人権、国土や都市のあり方、治安、環境、衛生、産業の保護、国民経済の維持、等々数え切れない様々な要素を踏まえて政策決定を行い、規制を実行する。
これほどの多様な利害と外国投資家の利益との調整をたった数箇条でまかなってしまおうとするのが、ISDなのだ。


ちなみに、民法の取引法に関連する分野だけでも700条を超える。
司法試験に合格するには、民法だけでも、少なくともその程度の条項を理解する程度に達しなければならない。
ついでに言えば、法務省は、この程度の条文数では、まだ透明性が足りないというのだ。このたびは、さらに詳細な条文を作って、条文数で言えば、おそらくざっと倍くらいにはなりそうな民法改正をしようといっている(マチベンは基本的に反対の立場)。


ISD裁判は複雑を極める外国投資家と国家規制の関係を、たった数箇条で全てを裁こうというのだから、どれほど無謀な裁判制度か理解してもらえるのではないかと思う。
条文数が少ないということは、法務省が民法の全面改正に当たって主張しているとおり、透明性に欠ける、つまり予測可能性が乏しいということを意味する。


予測可能性が乏しいことは、訴えられる側を必要以上に萎縮させる。
ISD裁判の原告は常に外国投資家である。
予測可能性が乏しいゆえに、外資は、政府のいかなる作為・不作為をも提訴の対象とできてしまう。
「間接収用」という概念をめぐって、韓国法務省が深刻に危惧したことの本質は、そこにある。


そして、政策決定の萎縮が早くも現実化したのが、韓国版エコカー支援政策の延期(実質上の撤回)である。
アメリカの自動車メーカーが韓国に輸出したければ、低燃費の性能のよい自動車を製造すればよいだけのことなのだから、差別的だと言われるのは完全に言いがかりとしか言えないだろう。
米韓FTA違反を言われる余地がない筈なのに、韓国政府は、エコカー支援制度を棚上げにしてしまった。
ISDによる損害賠償リスクを危惧したからに他ならない。


おおざっぱな規定で、何が違反になるのか意味不明というのは、訴える側にとっては、恰好の材料となる訳である。

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