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2013年5月29日 (水)

【拡散希望】TPP/SPSルールの恐怖4 EUホルモン牛事件(中編)

ここまで、SPSルールは、有害であるという十分な科学的証拠がない限り、輸入しなければならないというルールだと述べてきた。
あまり、市民にわかりやすい言い方を繰りかえしていると、国際経済法の「専門家」(学生さんを含む)からお怒りが出そうなので、EUホルモン牛事件を例にもう少し、SPSルールについて、述べておこう。


SPSルールでは、食品の安全性に関する国際基準がある場合には、この基準に従った措置は適法な「衛生植物検疫措置」として、輸入を制限することも許される。
但し、「衛生植物検疫措置」は貿易に与える悪影響を最小限にしなければならないとか、「偽装された障壁」であってはならないとか、とにかく自由貿易に手厚い保護を与えていることには要注意だ。


さて、この国際基準には、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の共同委員会が決めるコーデックス規格がある。
ホルモン牛についても、このコーデックス委員会の定める、残留ホルモンに関する国際基準が存在した。


EUはこのコーデックス規格に適合するホルモン牛も含めて、輸入禁止措置(「衛生植物検疫措置」)を執り、アメリカとカナダからWTOの紛争解決手続に訴えられ敗訴したのだ。
SPSルールに従えば、国際基準を超える輸入制限措置を執る場合には、その措置を正当とするに十分な科学的証拠を示さなければならない。
しかし、成長ホルモンを投与された牛を有害だとする科学的証拠はなかった。
EUは、この事件において、あくまでも発ガンリスク(の可能性)があれば輸入を制限できるとする「予防原則」を「自由貿易」をより優先する原則だと主張し、堂々と敗れた。


EUの措置が、国際法上、違法だと確定したにも拘わらず、EUは輸入禁止措置を撤回しなかったため、アメリカは、EUに対して報復関税を発動して、EUに圧力をかけたが、EUは信念を枉げなかった。


そして、WTO発足前である1989年から継続した輸入禁止措置を貫き、20年余を経過して、乳ガンの発生率が顕著に低下した。他方、この間、ホルモン牛を輸入し続けた日本の乳ガン発生率が増加したと週刊新潮が伝えている。


さて、国際経済法分野の専門家の中には、EUには、もう少しましな争い方があったと指摘する向きもあるかもしれない。
WTO/SPSルールにも例外規定がある。
有害だとする十分な科学的証拠がなくても、輸入禁止措置を採ることができる場合があるとする指摘だ。
だから、予防原則を正面から主張して玉砕するより、例外規定に基づく現実的な争い方をするべきだったという言い方が一応成り立つ。


この例外は、科学的証拠が十分ではない場合に、暫定的な輸入制限を認めるルールだ。
SPSルール違反するとして、訴えられた国は、輸入制限措置の科学的証拠が十分ではない場合は、危険性評価のために追加の客観的な情報を集めるために、暫定的に輸入制限を継続することが認められる。
「ちょっと待って権」と言うような権利である。
こうした規定があるのだから、EUもこの規定に基づく権利を主張すべきだったとするのが国際経済法の通常の考え方としてあり得る。


しかし、この規定はあくまで暫定的な措置であるから、適切な期間内に輸入制限措置を再検討する(見直す)ことが義務付けられている。
国際経済法を遵守しようとすれば、絶えざる圧力をかけられながら、「ちょっと待って」と言い続けることになる。
国際経済法の文脈に入り込んでしまうと、結局、EUも、中途半端なところで、輸入禁止措置を撤回せざるを得なかったろう。


週刊新潮の記事によれば、輸入禁止措置以降、EU各国の乳ガンの発生率が有意に減少しているというデータが発表されたのは、ようやく2010年になってからなのだから、「ちょっと待って」権による争い方では、国民の健康を守るという国家の基本的責務を果たすことはできなかったに違いない。


福島第一原発事故による放射能による被害を想定すれば容易に理解できるだろう。
放射能の被害を把握するには、今後、長期間にわたる継続的で的確な追跡調査が必要である。
放射能被害が、統計的に有意性のある十分な科学的証拠によって裏付けられるまでには、十年単位の期間が必要なことは明らかだろう。
発ガンリスクなどは、適切な期間内に措置の見直しを義務付けられる「ちょっと待って」権などでは、防ぎようがないのだ。


今でこそ、農薬DDTは禁止することが国際的にも常識となっているが、DDTの有害性が判明するまでにやはり何十年という年月と大量の被害の発生が必要だったのだ。
そして、未だに多国籍業は、途上国へのDDTの輸出を続けているという。


SPSルールは、例外規定を踏まえても、やはり毒だという科学的証拠がなければ毒でも食べろ」というルールだという他ない。


ことほど、さように国際経済法分野でのものの考え方は、国民の健康を犠牲にしてでも、自由貿易を推進しようという凶暴さを秘めているのである。
ゆめゆめ157カ国も加盟しているWTOのルールだから、常識的なものなんじゃないかなどと油断してはならないのだ。
(続 EU-ホルモン牛事件2/3)

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