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2013年5月 9日 (木)

ISD条項の罠15 Metalclad-Mexicoケースメソッド

以下は、環境保護に関わる法律家の機関誌『環境と正義』に寄せたメタルクラッド事件に関する解説である。
TPPムラは、国と自治体が違う対応を取ったのだから、賠償はあったり前だと言うが、生活者の視点からはとんでもないことだということを分かってもらいたくて、こうした分析となった。

人権と正義を旗印にするなら、日弁連もこの程度の想像力は持って欲しいものである。


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ISD条項と環境保護・環境保護運動

     弁 護 士 岩月浩二

     (TPPを考える国民会議世話人)

 以下は、ISD条項に基づく仲裁の代表的な判例として必ず採り上げられるMetalclad社対メキシコ合衆国の事例をもとに、若干の脚色と想像を加えたものである。

1 有害廃棄物処理場反対市民運動

 近くの渓谷で建設工事が進んでいる施設が有害廃物処理場であることがわかり、G市の住民は震え上がった。処理場からは発ガン性物質が放出されるとの情報もあり、住民は慌てた。連邦政府は、すでに有害廃棄物処理場建設と操業の許可をM社に与えていたが、住民にとっては、健康は譲ることのできない価値だ。

 住民が施設の危険性を知ったときには、工事は相当に進行していたが、住民は諦めることなく運動に立ち上がった。世論は一気に燃え上がり、建築許可を担当するG市は、許可を保留し、M社に建築許可が出るまで工事を中止するように求める事態になった。しかし、M社は連邦政府の許可を得ているとして、強引に工事を進め、工事は完成してしまった。

 M社は処理場の操業を祝うため連邦政府の役人を招いた大々的なオープニングセレモニーを計画した。住民は、自分たちの命と健康を守るために断固、式典を阻止することを決定。数百名の住民が式典会場前に押しかけ、式典は阻止された。

 住民運動の盛り上がりに、G市も応えた。M社が、建築許可が出る前から、工事を開始し、市が中止命令を出しても工事を続行したことを理由に、M社の建築許可申請を棄却したのだ。工事は完成している。いつでも操業してもおかしくはない。M社と住民のにらみ合いは続いた。

 住民運動の盛り上がりは州政府も動かした。州政府は、渓谷一帯を自然保護区に指定し、M社は操業断念に追い込まれた。

 住民運動の勝利だ。住民は命と健康を守ったのだ。

2 国際投資家仲裁

 M社はアメリカ国籍の外資だった。M社は、直ちに投下資本と操業により得られた筈の利益が損なわれたことを理由に、連邦政府に2000万ドルの賠償を求める通告書を送付した。

 これまでなら、この請求は、高をくくって無視することも許された。なぜなら、M社は、せいぜいS州にある裁判所に連邦政府を相手取った賠償請求の訴訟を提起する程度のことしかできなかったからだ。しかし、今回は事情が違う。連邦政府は、何とかM社の要求額を値切ろうと、必死になった。しかし、M社は頑として譲らなかった。

 6ヶ月後、連邦政府は、投資紛争解決国際センター(ICSID)に提訴された。政府は、NAFTA(北米自由貿易協定)で、国際仲裁に服する旨の包括的な同意をしていたために強制的に国際仲裁の場に引っ張り出されたのだ。

 原告M社のアメリカ人弁護士は、強力な手練れの者がなった。また、原告側の選定した仲裁人は、これまで何度も国際仲裁の手続に関与した国際センターでもよく知られた著明な法律家だった。

 被告政府は不慣れだった上、何十万ドルにも及ぶ弁護士費用にも事欠く財政状態だった。適切な国側仲裁人に心当たりもないため、たまたま政府役人が知っていた弁護士がセンターの仲裁人名簿に掲載されていたので、仲裁人になってもらうように懇請した。

 3人目の仲裁人が仲裁委員会委員長となるが、これは原告と被告の合意で選任することになっていた。結局、折り合いが付かなかったために、世界銀行総裁を兼ねる国際センター理事長が選任した者が仲裁委員会委員長となった。世界銀行に対する出資額は、アメリカが突出しており、出資額による多数決によって選ばれる世界銀行総裁になった者は、これまで全てアメリカ人だ。

 不慣れな代理人による連邦政府の訴訟進行は哀れなものだった。M社の主張を否定するために、わざわざ申請した連邦政府の高官が、「M社には州の許可も市の許可も不要だと説明した」と証言してしまい墓穴を掘ることになった。身も蓋もないとはこのことだ。M社の有利は確定的になった。

 仲裁委員会は、連邦政府と州、市の一貫性のない一連の行為が、M社の期待利益を著しく侵害した、これは間接収用に該当し、また外国投資家に与えられる最低限待遇義務にも違反するとして、連邦政府に1670万ドルを支払うように命じた。

3 住民運動の無効化(空想)

 連邦政府は、みすみす大金を外資に巻き上げられた。

 連邦政府は、これを理由に、莫大な損害を与えかねない住民運動を徹底的に取り締まることにした。集会やデモは次々と弾圧にさらされることになった。とくに外資を相手にするものには容赦ない弾圧が加えられた。

 こうして、表現の自由を初めとする精神的自由は、ISDを武器とする外国投資家の自由の前に空文化していった。

4 メキシコの憲法体制

 メキシコは、連邦制国家だが、税収を連邦政府が独占するなど中央集権化していることで知られている。この仲裁判断でも、環境・健康に関わる判断権は全て連邦政府に属しており、市が建築許可に当たって考慮できるのは、建物の構造的な欠陥だけであるとされており、州や市の権限は極めて限られている。

 仮に地方対中央の権限をめぐる対立が背景にあるとすれば、このケースでは、連邦政府が、強力な地方からの異論を封殺するために国際仲裁を逆利用することもできたケースである。

5 後日談

 Metalclad社のケースの仲裁地は、NAFTAの第三国であるカナダのブリティッシュ・コロンビア州が選ばれた。

 投資仲裁に上訴制度はないが、当該判断事項が、投資仲裁裁判所の権限に属するかどうか(事物管轄のようなもの)については、事後的な判断を仰ぐ仕組みがある。その場合は、政府は仲裁地の裁判所に判断を仰ぐことができる。メキシコ合衆国からの異議申立を受けた、ブリティッシュ・コロンビア州の最高裁は、仲裁裁判所が違法と判断した大部分を権限外に属するとして取消した。

 投資協定には、実体法として、内国民待遇、最恵国待遇、パフォーマンス要求の禁止等が一般的に盛り込まれる。これらは、制定法主義の大陸法系の法律を扱う日本法の実務家には単に「信義誠実の原則に従う」とか「権利の濫用はしてはならない」というほどに曖昧な規定にしか見えないが、英米法系の不文法主義の国では、裁判規範として十分ということになる。大陸法系の法律家には、判決がが出てみないと内容が分からないという困った代物である。

 本件では、その中でもひときわ曖昧な、「公正・衡平最低限待遇義務」が問題になった。仲裁裁判所は、連邦政府の説明から、G市による建築不許可までの一連の流れが、透明性のルールに反し、これは外国投資家に国際慣習法上の最低限の待遇を保障する「最低限待遇義務」に反するとして、賠償を認めていた。しかし、カナダのブリティッシュ・コロンビア州の最高裁は、国際慣習法上の「最低限待遇義務」には「透明性」の要求は含まれないとして、仲裁裁判所が認めた一連の行為が「最低限待遇義務」に反するとした仲裁裁判所の判断は、その権限に属さない事項について判断したものとして取り消したのだ。最終的には、S州が施設のある渓谷一帯を自然保護区に指定した行為を間接収用(所有名義の移転を伴わないが、実質上、投資家の利益を深刻に侵害する場合)に当たると判断して、結論は維持したが、ここには、国際法の律する範囲に関して、国内裁判所と国際仲裁・外国投資家との間の国家主権をめぐる葛藤が見られる。

 ISD制度が、国内主権を侵害するという警戒が、他国間の争いとはいえ、カナダの州裁判所には、強く窺える。

6 ISDS条項と環境保護

 (Investor-State Dispute Settlement・投資家対国家紛争解決制度)

 ISDS条項の起源は古く、1959年に西独がパキスタンと結んだ投資協定が最初の例といわれる。NAFTAが発効する1994年頃から、ISD条項を含んだ投資協定が激増し、現在では全世界で3000件を超える協定にISD条項が盛り込まれている。ISD条項は、当初は途上国に進出する先進国資本が途上国で財産を没収されるなど直接的な損害を想定して、途上国の司法制度の「不備」を理由として、国際裁判に訴える手続を設けたもので、最近まで抑制的に用いられており、多くても年間1,2件の仲裁付託が確認される程度であった。

 NAFTAが先進国(アメリカとカナダ)の間で初めてISD条項を設けたことを契機として、1997年頃から、国際仲裁付託が一気に増加した。2011年には過去最高46件の仲裁付託がなされ、累計470件に及んでいる。この進展の速さには国際経済法を専門にする学者すら全体像の把握が困難であることを認めている。

 ISD提訴はしばしば、環境・健康規制をめぐる分野の非関税障壁が問題にされ、有害物質の燃料への使用を禁止したカナダの措置(Ethyl事件)、PCBの輸出を禁止したカナダの措置(S.D.Meyers事件)が国際仲裁によりカナダ政府の敗訴や敗訴的和解に終わる等、環境規制に対する有力な攻撃材料になっている。

 2011年には、ドイツの脱原発政策を違法として、スウェーデンのエネルギー企業が国際仲裁に付託する等、国家の中核的な政策に関わる領域まで、外国投資家仲裁により判断される時代が到来している。

 今後の環境保護や環境保護運動を考えるときに、ISD条項の問題は、地球規模で避けて通ることができない課題を投げかけている。ISDは環境保護・環境保護運動の死命を制するといってもよいであろう。
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