【拡散希望】TPP/SPSルールの恐怖3 EUホルモン牛事件(前編)
週刊新潮(5月23日号)は、次のように書いている。
「アメリカでは、肉牛を効率良く育てるために…成長ホルモン剤を使うことが許されている。一方、日本国内ではこうしたホルモン剤の使用は禁止。が、不思議なことに、ホルモン剤を投与した牛の輸入は認められているのだ」
国内では成長ホルモンの投与を禁止しているのに、成長ホルモンが投与された牛を輸入しているのは確かに不思議だ。
しかし、WTOのSPSルールが、有害だという十分な科学的証拠がない食品は輸入しなければならないとしているしていることを知れば、法律的に避けられない事態であることがわかる。
日本は自由貿易至上主義の推進道具に変容した国際法(国際経済法)を誠実に守っているから仕方がないのだ。
では、ホルモン牛の輸入を禁止して、現実に乳ガンの発生率が低下しているEUは国際経済法に違反しているのだろうか。
結論からいえば、EUは国際法に違反している。
国際法に違反して、EU域内の国民の健康を守るという選択をしているのだ。
国際経済法のケーススタディでは必ず出てくるWTOの係争事例がある。
EU-ホルモン牛事件と呼ばれる。
EUは、消費者保護を理由として、1989年にホルモン牛の輸入禁止措置をとった。
この輸入禁止措置をアメリカとカナダがSPSルールに反するとして、WTOの紛争解決手続に訴えたのがEU-ホルモン牛事件だ。
(ISD条項と異なり、WTOの紛争解決制度の主体はあくまでも国家であり、提訴も国家が国家(国家連合)を訴える。またISD条項と異なり、直接、賠償等を命じることはせず、WTO憲章のルールに違反するか否かを判定するだけだ。WTOは、紛争解決手続を設けるとともに、貿易紛争を理由とする一方的な経済制裁等の発動を制限する仕組みを採用した)
この事件は、第1審のパネル(1997年)、最終審の上級委員会(1998年)とも、EUが敗訴している。
したがって、EUのホルモン牛輸入禁止措置は、WTOのSPSルールに違反しており、国際法違反が確定しているのだ。
EUホルモン牛事件では、EUは、成長ホルモンを投与した牛には発ガンのリスクがある、消費者の生命健康を守るために、「一応のリスクがあれば輸入を制限する」ことは国民を守るべき国家(国家連合)の権利だとして徹底して争った。国際法の言葉ではEUの主張は「予防原則」という。
しかし、WTOは、パネル(小委員会)も上級委員会も「予防原則」は、WTOのSPSの基本ルールではないとして、有害であることの十分な科学的証拠がないのに、発ガンリスクを主張して輸入を禁止したEUの措置は違法だとしたのだ。
EU域内の乳ガンの発生率の低下が、ホルモン牛の輸入禁止措置と相関関係があるとすれば、EUは国際法に違反してでも、国民の健康を守ったことになる。
国際法を遵守する一方で、乳ガンの発生率が高まっている日本と、国際法に違反して健康が改善されたEU。
国民の立場では、自由貿易を犠牲にしても健康を守ってほしいと思うのが、普通ではないだろうか。
しかし、日本は、国際社会(日本では国際社会が許さないというときの国際社会は必ずといっていいほどにアメリカを意味する。中国や韓国、東南アジア、中東諸国やアフリカ諸国を国際社会と呼ぶのは聞いたことがない)に従順な優等生国家だから、EUのような気骨のあることはできなかったという訳だ。
(続)
(EU-ホルモン牛事件1/3)
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