無料ブログはココログ

« 「光州」に寄せて | トップページ | TPPで食の安全が脅かされる 週刊新潮5月23日号お勧めお早くお求めを »

2013年5月20日 (月)

ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」

敦賀原発2号機の直下の断層が原子力規制委員会によって活断層と断定され、廃炉の可能性が出てきたと伝えられる。
日本原電の浜田社長は、廃炉になった場合、震災以降、国の指示に従って行ってきた安全対策の費用を国に請求することも検討すると語った。



この場合、仮に日本原電が外国投資家に当たるとしてみよう。
ISD条項に基づく提訴が可能であるか。
勝訴の見込はどのくらいあるか。
賠償はどういう基準で算定されるか。
以上について、検討する。


まず、ISD条項に基づく提訴を考える場合、万能の「収用法理」を持ち出すことが得策であろう。
その場合、本件が「間接収用」に該当するかについてであるが、経産省によれば、「所有権等の移動を伴わなくとも、裁量的な許認可の剥奪や生産上限の規定など、投資財産の利用やそこから得られる収益を阻害するような措置も収用に含まれる」とされている(経済産業省 通商政策局 経済連携課「投資協定の概要と日本の取組」2012年11月)。


この定義の前段は例示であり、結局、再稼働の不認可が「投資財産の利用やそこから得られる収益を阻害するような措置」に当たるかどうかが問題になる。


本件は、「裁量的な許認可の剥奪」に著しく近いから、改めて検討するまでもないかもしれないが、念のために間接収用に該当するか否かについてTPPで採用されるアメリカ判例法理による判断基準を掲げておこう。
    ①政府措置の経済的影響の程度
    ②政府措置が明白で合理的な投資期待利益を侵害した程度
    ③ 政府措置の性格等


敦賀原発2号機のケースは、①経済的影響は甚大であり、②明白で合理的な投資期待利益を著しく侵害していることも明らかである。したがって、政府措置の性格を問題にするまでもなく、「間接収用」に該当することが明らかである。
(収用は、もともと公共目的でなされることが大前提であるから、政府措置が重大な危険性を避けるためにやむなくなされるものであることは間接収用を否定する理由にはならない)


したがって、外国投資家は、このケースについて、ISD提訴が可能であるし、勝訴も確実と言える。


さて、補償額であるが、浜田社長は「震災以降、国の指示に従って行った安全対策の費用」と語っている。
控えめすぎる。
何もそんなに遠慮する必要はないのだ。


間接収用に当たっては、収用時の投資財産の公正な市場価格(fair market value)によって補償する原則が確立している。
キャッシュフロー方式(中間利息控除方式)によって算定する逸失利益=将来利益を求めるべきである。


したがって、日本原電が外国投資家であれば、稼働可能年数までの間に挙げられたであろう利益に相当する金額を、間接収用と同時に支払うことを求めることができる。支払われるまで商業的に妥当な利率で遅延損害金の支払も求めることができる。
年利6%で請求するのが真っ当である。


外国投資家は、他社の原発事故で引き起こされたようなリスクも負わなくてよい。投資家の期待はノーリスクで保護されなければならないのである。


なお、日本国憲法によれば、致命的で取り返しのつかない事故を回避するための手段として合理性があるから、公共の福祉による財産権の規制として、当然、適法な措置である(憲法29条2項参照)。電力会社に何らかの補償をするべきかどうかは、政府の政治的裁量・政策の問題にとどまる。国民(この場合、在日・滞日外国人を含む)の生命・財産を守ることは国家の責務に他ならないから、財産補償が重大な問題に発展する余地はない。


ISDが導入されると、事態は、ことほどさように厄介になるのである。


ちなみに、現在、電力会社については、外為法によって、外国株主の投資に制限を加えることが認められている。
いわゆる投資分野における内国民待遇の例外規定に該当することになるが、この例外が許容されるためには、全加盟国の合意が必要である。


なお、日本原電が継続的に保守メンテナンス契約や部品供給契約をしているアメリカ(加盟国)企業であれば、その外国企業は、外国投資家として、間接収用に基づく補償を請求できると考えられる。


* ランキングに参加しています *
にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ


付記
最近、日本の最高裁も
財産権至上主義的な判決を下しているようにもみえるし、行政事件訴訟法の下級審での運用状況などから察すると、行政事件も財産権保護(住民利益・環境利益の軽視)に偏った判決の傾向があるように見受けられる。
したがって、仮に日本原電から依頼があった場合、憲法29条3項の「収用」に準じて補償を求めるという構成を採用することも弁護士としては、あり得るだろう。
但し、その場合でも、ISD裁判のような公正な市場価格による補償(逸失利益・稼働利益の補償)ではなく、「正当な」補償を求められるにとどまるので、さまざまな政策的配慮を持ち込んだ補償になるのではないかと想像される。

« 「光州」に寄せて | トップページ | TPPで食の安全が脅かされる 週刊新潮5月23日号お勧めお早くお求めを »

ニュース」カテゴリの記事

東日本大震災」カテゴリの記事

TPP」カテゴリの記事

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ISD条項の実務 敦賀原発2号機直下の活断層と「間接収用」:

« 「光州」に寄せて | トップページ | TPPで食の安全が脅かされる 週刊新潮5月23日号お勧めお早くお求めを »

2022年2月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28