お勧め『TPP黒い条約』(集英社新書)
序にかえて/中野剛志
第一章:世界の構造変化とアメリカの新たな戦略―TPPの背後にあるもの―/中野剛志
第二章:米国主導の「日本改造計画」四半世紀/関岡英之
第三章:国家主権を脅かすISD条項の恐怖/岩月浩二
第四章:TPPは金融サービスが「本丸」だ/東谷 暁
第五章:TPPで犠牲になる日本の医療/村上正泰
第六章:日本の良さと強みを破壊するTPP/施 光恒
第七章:TPPは国家の拘束衣である―制約されるべきは国家か、それともグローバル化か―/柴山桂太
右派論客が揃うと、どんな本になるのかなあ(汗w)と思っておりましたが、読み終えた印象は、極めて着実な議論で貫かれたバランスの取れた良書です。
米国の世界戦略の分析(中野剛志氏)と対日要求の歴史(関岡英之氏)という総論を踏まえ、ISD(岩月)、金融・保険(東谷暁氏)、医療(村上正泰氏)の各論(網羅的ではないが、経済的観点からはTPPの本質的部分を摘出している)を経て、ボーダレス化と人間(施光恒氏)、グローバル化と脱グローバル化の歴史の視座(柴山桂太氏)を提供して展望とする一連の流れは、さすがに中野剛志氏の見事な編集だと思いました。
末席を汚させていただいたのは光栄としか言いようがありません。
要するに、TPP(並行日米二国間協議=日米FTAを含む)は、普通の日本人にとって、ごく公平に見て『売国』と呼ぶしかない訳です。
そして、グローバル化というのは、一種のイデオロギーに支えられた運動であって、それは普遍的なものでも歴史的必然的なものでもない。
むしろ行き過ぎたグローバル化が国家間の対立を抜き差しならないものにしたという20世紀初頭の状況を教訓とすべきだということです。
個人的には、施光恒氏が、第6章で、国内に多様な仕事があるということが生きるということの多様性を保障するといった趣旨を述べておられることに大変、共感した次第です。
グローバルに最適地での経済活動が行われれば、当然、国家の産業は資本に都合のいいようにモノカルチャー化し、仕事の種類は限られてきます。
多様性のある国家の間での(互恵的な)交易という世界秩序を提示されています。
「仕事」は生きるということの重要な一環を占めています。
フロムが、全体主義からの脱却の展望として「愛」と「生産的な仕事」を挙げていたことを思い起こしました。

追記 そういえば、佐伯啓思氏は、「インターナショナル(国際)」でもなく、「ワールド(世界)」でもなく、「グローバル(地球)」という言葉を使うことの意味を問い、強い警鐘を鳴らしていました(『アダムスミスの誤算』)。
「インターナショナル」は当然、国家間の関係であるから国家が強く意識されている。
「ワールド」と呼んでも、世界の中の各地域、各国の多様性は前提になる。
しかし、「グローブ」として宇宙から見てしまえば、陸と海があるだけの一様の空間になる。
「グローバル」という言葉には、多様性を無視した一律一様なルールの適用を理想とする含意がある。1999年の日本において、2013年TPPに直面する日本でまさに問われる問題の本質を喝破していたことには、改めて敬服せざるを得ません。
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