ISD条項と憲法・国際法(短文まとめ)
▼ ISD条項(もしくはISDS条項)
ISD(Investor-State Dispute Settlement)とは、協定に反する加盟国の制度や慣行によって外国投資家が損害を被ったときに相手国政府を国際仲裁に訴えることを認める制度だ。
多国籍企業と日本政府の間の紛争は本来、日本の司法の管轄下にあり、日本の裁判所の判断に服すのが当然だ。しかし、ISD条項は、外国投資家が日本の裁判所を回避して国際仲裁に訴えることを認める。
国際仲裁といえば聞こえはいいが、実態は、「投資家私設法廷」だ。
仲裁人は事件ごとに選任され、裁定を下せば解散する。その場限りの私設法廷であり仲裁人は誰にも責任を負わない。仲裁人は、グローバル市場原理主義を基本原則とする「国際経済法」に堪能なビジネスロイヤーなど一握りの人物に限られている。
国家の制度や慣行という公的なものを裁くにはあまりにも杜撰な仕組みというほかない。
▼ ISD条項と憲法秩序の破壊
投資家私設法廷では、政府(自治体等を含む)のあらゆる政策や制度、慣行が提訴の対象となる。多国籍企業の利益を違法に侵害したと判断されれば、莫大な賠償を命じられる。相手国政府に対する威嚇訴訟も可能だ。
日本の国内で起きている法的紛争なのに、国際法によって日本の裁判所の関与が排除される。そのような例外は、外交官特権と日米地位協定による在日米軍内部及び公務中の犯罪に限られる。
これ対して、ISDによる例外は多国籍企業が関わるあらゆる場面に適用される極めて広範囲なものだ。このような広範な例外を認めることは「すべて司法権は最高裁判所と系列の裁判所に属する」旨を規定する日本国憲法76条1項に反する。
違憲立法審査権が認められる等、国内裁判所には基本的人権の最後の砦としての役割が課されている。一方、投資家私設法廷で適用される基本ルールは多国籍企業の利益を国民の生命や健康より優先するものだ。外国投資家に、我が国の裁判所を回避して投資家私設法廷に訴えることを認めるISD条項は、日本国憲法の基本的人権尊重原則を、多国籍企業の利益を最優先するものに書き換える。国民には多国籍企業の利益に反しない限りの人権しか認められなくなる。
国会や内閣による政策決定は、ISD条項によって、常時、多国籍企業の監視下に置かれることになる。萎縮効果によって、国会の政策決定は、外国投資家の利益を害さないことを第一に配慮したものとならざるを得なくなる。ISD条項は、国会を外国投資家の監視下に置くことによって、国民主権から外国投資家主権へと憲法を書き換える。
▼ ISD条項と国際法
国家間の紛争の解決を強制的に解決する制度は基本的に存在しない。国際司法裁判所制度では、被告とされた国家は裁判に応じるか否か原則として自由である。WTOにおける紛争解決制度もWTO協定に反するか否かを判定するに止まる。仮にWTO協定違反と認定された場合でも、最終的には国家間の交渉によって解決せざるを得ない仕組みになっている。
これらに対して、ISD条項は、外国投資家に対して、国家を強制的に裁判に引き出す権利を認める。しかも、具体的な損害賠償や補償を直接に命じ、裁定には、相手国の国内裁判所を通じて強制執行ができる効力が与えられている。
ISD条項は、国家を超える強力な法主体性を外国投資家に認めるものだ。
国際社会では長年、個人の国際法上の主体性をめぐる議論がなされてきた。ところが、ISD条項は、議論の蓄積もなく突如として、外国投資家に国家を超える国際法主体性を認めるもので、平和と人権を基調としてきた国際法秩序を著しく紊乱する。
▼ ISD条項を認めてはならない
ISD条項は、我が国を外国投資家が支配する外国投資家主権国家に変え、外国投資家に仕える国へと我が国を作り替えてしまう。
投資家主権国家では、基本的人権は投資家の利益に害さない範囲で認められる副次的な価値へと貶められる。
国民主権原則、基本的人権尊重原則は、平和主義と並ぶ日本国憲法の三大原則だ。ISD条項は、この内の二つまでをも同時に書き換えてしまう。
「知らない間に憲法が変わっていた」という事態を決して許してはならない。
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