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2013年12月18日 (水)

出生前診断に中国企業参入  中国企業によるISD条項の罠  蝕まれる日本の生命倫理

日本の投資協定で、最大の失敗の一つが、日中韓投資協定で中国企業に対してISD条項による保護を与えたことだろう。


出生前診断に中国企業が我が物顔で参入したという次の記事を読み、中国企業に対して、ISD条項を与えたことの愚かしさ改めて痛感した。


出生前診断に中国企業参入 低価格、遺伝相談の条件なし
朝日新聞 2013年12月14日

妊婦の血液から染色体異常を調べる新型出生前診断を、中国の遺伝子解析会社が日本国内で始めた。検査費用は10万円と従来の半額以下で、遺伝カウンセリング(遺伝相談)も条件にしていない。国内の実施施設は現在、学会の指針によって、遺伝相談を条件に限定されている。一般の産婦人科や不妊クリニックにも広がれば、学会の指針が骨抜きになる心配がある。

新型出生前診断を行える施設は、遺伝相談ができる態勢の整った約30医療機関に限られている。日本医学会が、専門外来などがある施設を認定している。
十分な情報なしに検査を受けると、「命の選別」につながりかねないとの指摘があったからだ。検査を請け負う米国の検査会社も学会の認定施設とのみ、取引をしている。

しかし、
新たに検査を始めた中国のBGI社は、遺伝相談を条件とせず、遺伝相談の専門家がいない産婦人科、不妊クリニックなどとも個別に検査を請け負う形をとろうとしている。遺伝相談なしに検査が広がれば、検査、病気について十分理解しないまま、人工妊娠中絶につながる心配がある。【岡崎明子】


出生前診断は、「命の選別」につながりかねない生命倫理上の問題がある。


産婦人科学会が指針を設けて、遺伝相談の専門家が検査の利点や限界などを十分な時間をとって妊婦らに説明するよう求め、遺伝に詳しい小児科医の常勤も条件とする等、慎重な体制で実施している。
日本の出生前診断は、臨床試験段階だという。
ところが、日本では生命倫理の観点を踏まえて、慎重かつ限定的にしか行われていない出生前診断の分野に中国企業は、専門家によるカウンセリングなしのお手軽診断として格安価格で、売り込みを図っている。


繊細な空間に、いきなり土足で踏み込まれた。
規制する立法がない。
中国企業の事業展開を止める手段は、存在しない。

もともと、主権国家は、自国域内において、自国の倫理観念に反する事業を展開する者に対して、自国の社会通念に従い学会の指針に従うよう行政指導することができた。
規制する法律が制定されれば、該当事業者に対して、これに従うことを無条件で求めることができたはずだ。
少なくとも日本国憲法29条の原則はそうだったはずだ。


ところが、ISD条項を武器として持つ外国企業には、憲法29条に基づく、そのような指導や規制は、無効だ。
彼らには、投資協定に盛り込まれた投資に関するルールが優先的に適用される。彼らが投資ルールの優先を主張する限り、国内法規制や行政指導は何の意味も持たない。
そして、法規制や行政指導が投資ルールに反するか否かは日本の裁判所ではなく、私的に選ばれた仲裁人からなる、お粗末な投資家法廷が投資家の利益を極力尊重する方向で、判断する。

時間をかけて一定の社会的コンセンサスが得られ、出生前診断に関する法規制を行う場合、すでに出生前診断を事業として展開している外国企業との関係では、新たな法規制は『間接収用』に該当する可能性が高い。

 

中国企業には、新たな規制で失われた利益、つまり将来的に得られるであろう合理的な期待利益を含む、「公正な」賠償をしなければならない。
少なくとも、中国企業から、そうしたクレームが出されることは確実であり、投資家仲裁廷も補償を命じる可能性があることは何人も否定できない。


確かに行政指導についてはこれを骨抜きにする判例が積み重ねられてきたことは事実だ。従って行政指導については、日本企業とこの点は変わりないともいえる。
しかし、日本企業に対しては、行政指導自体には有効性がないとしても、日本企業が、中国企業並みの産婦人科学会の指針破りを行えば、関連する施策のどこかで不利益を与えることが可能だろう。
しかし、中国企業にそんなことでもしようものなら、直ちにISD問題である。
また、法規制がなされる可能性を射程に入れて考えれば、ISD条項によって保護された中国企業と日本企業の差は歴然である。
日本企業であれば国内法規制で全て規律される。
しかし、中国企業はこれに対して強力な対抗手段を持つ。
日本政府はISD提訴されることを覚悟しない限り、中国企業の事業活動を規制できない。中国企業の出生前診断への参入は将来法規制がなされることを見越してもノーリスクだと見越してなされたものだといえよう。


生命倫理という思いがけない分野が、ISD条項の対象になる。
貿易の自由、公正な自由競争の形成を至上命題とする国際経済法の論理には、生命倫理が内在化される余地はない。
投資家の活動を制限する論理としても、生命倫理はあまりにも感傷的で頼りないものでしかない。
したがって、生命倫理を理由とする規制が、投資家私設法廷で、適法とされる可能性は限りなく小さい。


かくして、我々は、とんでもないものをすでに抱え込んでいることを自覚しなければならない。


このニュースは12月14日付のものだ。


日中韓投資協定に国会が承認したのが、11月22日だというから、唖然とするばかりだ。


日中韓投資協定を承認 本年度中にも発効
産経ニュース 2013.11.22 23:25

 日本、中国、韓国3カ国間の企業投資を促進するための日中韓投資協定は、22日午前の参院本会議で、全会一致で承認された。

 外務省によると、韓国は国会承認など国内手続きを完了。中国の政府内調整が順調に進めば、協定は今年度中にも発効する。

 協定は3カ国による経済分野での初の法的枠組み。知的財産権の保護や、進出企業と受け入れ国間の紛争解決手続きなどを明記した。政府や経済界は、日本企業の中国での活動を円滑にする環境整備の一環と位置付けている。

 


要するに、中国企業は、ISD条項が国会で承認されるタイミングを見計らって、出生前診断を本格展開し始めたのだ。
ISD条項を持った中国企業は、将来的にいかなる規制も受けることはないという見込みを持った。
仮に法規制がなされるとしても、公正な賠償がなされるから、リスクがないと判断して、単純な営利目的の出生前お手軽診断事業を展開し始めたのだ。


すでに、日本は、ISD条項に蝕まれ始めた。

知識人と呼ばれる人々のあまりの鈍感さを嘆くほかない。
すでにして、日本は独自の政策形成も価値形成もできない国家に貶められ始めているのだ。


それだけで、十分におぞましい事態だが、あえて付け加えれば、デザイナーベイビーも、単に生命倫理の問題に止まる限り、ISD条項を持った外国企業が、日本で事業展開されてからでは、法規制は事実上、不可能になる。
こうして次々と、人間の人間たる所以が投資家によって蝕まれていくのだ。


中国とのISD条項を含む投資協定が「全会一致」で採択されたという。
何という政治状況であろう。
この国の政治は、日本人の慎み深さに乗じて、進んで日本という国柄や人々の資源を外国投資家の餌食にしようとしている。



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追記12月19日
もう一つ、日本の経済連携協定や投資協定で失敗しているのではないかとの点は、いわゆるペーパカンパニーによるISD付託の除外条項を儲けていないと思われる点だ。
これまで締結した国の中で、ペーパーカンパニーの拠点となりそうな国の条文まで精査する余裕がないので、危惧だけ指摘しておこう。
何と、投資家仲裁の趨勢は、ペーパーカンパニーによるチャネリングと呼ばれる、適宜な国籍選択を許容している。
そして、日本の国際経済法の有力な潮流は、そうした現象に対する批判を欠いているどころか、これを推奨する気配すらあるのだ。

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