敢えて問う“一人一票”はガリレオ裁判への途ではないのか
投票価値の平等をめぐる一人一票をスローガンとする裁判の判決が、26日までに各地の高裁で出そろうという。
一人一票の裁判について、あまりにも皆がその正当性を疑わない。
生来のへそ曲がりである。
例によって一言口を挟みたくなった。
今の時代、誰も異論を唱えない問題ほど、あやうい問題だと考えるという、言い訳もある。
投票価値の平等の要請は、そのときどきの政治経済社会状況を踏まえてさまざまに考えられてよい。
むしろ最高裁は従来は、そのような価値観から一票の格差を正当化してきた。
「また、社会的、経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選挙制度の仕組みに 反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであって、その決定は、種々の社会情勢の変動に対応して適切な選挙制度の内容 を決定する責務と権限を有する国会の裁量にゆだねられているところである。」(平成10年9月2日最高裁判決)
グローバリズムの進められる中、地方はどんどん疲弊化している。
一人一票を進める立場は、地方選出の議員を減らすこと、大都市選出議員の少なくとも相対的な増加を主張している。
地方の発言権は弱められ、大都市の発言権を強くする。
そうした結果を招くことは明らかだろう。
(どこから選出されようと全ての国民の代表だという建前は措く。少なくとも大都市選出議員が疲弊する地方の実情を肌で知ることがないのは紛れもない事実だろう)
思い切って、異説を言う。
投票価値の形式平等は、都市部への一極集中をいっそう進める。
資源が一極集中すれば、グローバリズムによる効率的な収奪が可能になる。
そうした社会を望むのか、それぞれの地域が地域の特色を生かしながら、自立した経済を営むことができるような社会を望むのか、投票価値の平等をめぐる議論は、こうした議論とどう重なり合うのか。
現在、進められている巨額マネーを有する一人一票運動が初めて出稿した新聞全面広告は、おそらく
「“清き0.2票”はガリレオ裁判より不条理」とするものだった。
(これに疑問を唱えた拙ブログ2010年12月6日付参照)。
どのみち間違うなら、投票価値平等で、間違った方がよいという含意があるように見えた。
今は、一人一票ならば、より大幅に間違えるだろうと思えてならない。
形式価値の平等を達成すれば、東京や大阪の有権者はより大きな支配力を握ることになる。
そのメトロポリス東京の有権者は、実に12年間にわたって、極右発言を繰り返す傲岸きわまりない石原慎太郎氏を都知事として選び続けた。
そして、5000万円問題で都知事を追われる猪瀬氏に石原後継として史上最高得票を与えた。
大阪も同様(橋下知事のことだけではない。その前には横山ノック氏なんてとんでもないセクハラ知事を選挙して喜んでいた)、名古屋も同様、大都市部の有権者がこれからの日本を任せるに値する賢明な選択をしているとは到底、思われない。
少なくとも、地方の有権者は、地方の利益を反映した候補者を選ぶことが多いであろう。
そして、地方の発言権を確保しておくことこそが、今後、ますます猛威を振るうであろうグローバリズムの嵐の中で、せめても抵抗のよすがになるのではないかと思われてならない。
『正しい多数決』で、絶対的な間違いを犯すことがないよう、選挙制度の設計に当たっては、最大限の配慮を願いたいものだ。
ちなみに、一人一票運動の巨額マネーの出所であるスポンサーたちは、選挙が適正に民意を表す不可欠な前提をなす表現の自由の問題については、全く関心がないようだ。
民主主義を殺すかも知れない、秘密保護法に対して、巨額マネーを投じることはなかった。
おかげで、反対運動にかけずり回っていた弁護士たちの台所事情は、甚だお寒い状態になっている。
民主主義を守るという心意気では共通しているはずなので、是非、巨額広告費の一部でもそうした弁護士の生存のためにプールしていただきたいものである。
これが、かなわぬとすれば、一人一票を掲げる巨額マネーのスポンサーが考える民主主義とは、できる限り効率的な民主主義であり、それは、まさに秘密保護法制定過程であからさまにされた、数の暴力による効率的な意思決定である。
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