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2014年3月11日 (火)

法のグローバル化  韓国徐尚範弁護士の報告から

以下は、昨年10月1日、衆議院第一議員会館で行われた「TPPを考える国際会議」で、韓国の徐尚範(スォ・サンブォン)弁護士が配布した資料の冒頭部分の翻訳である。

1.法のグローバル化

カ.現在の法のグローバル化は、国際法の分野では基本的に「脱政治」という方向に進んでおり、それは「国家を前提としない世界法」の形で、そして政治から自由で普遍的な市場システムの形成を目指している。

ナ.国内の憲政秩序や民主秩序、そしてこうした秩序に基づいて構成される公益など、最も重要な国の領域も、通商と呼ばれる私的な利害関係が動作する対象へと転落する。

ダ.韓国の国内における立法作用は、国の構成員がどのような生活をどのように営むべきかについての根本的な選択と決定を行う行為であり、それは国民の生命、自由および財産、そして幸福の質と内容を規律する法規範の制定作用である。近代国家の登場自体が立法権に対する市民的制御として進行し、市民革命の過程で、立法の権利は、国民主権の最も重要な要素として構成されてきた。

ラ.韓米FTAのように、条約によって包括的•一般的に統治権を留保することは、一種の 「包括的立法の委任」に相当する統治権の放棄になると言わざるを得ない。


徐尚範弁護士の報告は、韓国の法律家の議論の概要を紹介するものであった。


この冒頭部分は、非常に要約された表現であるため、読み流しがちであるが、議論の質は深い。
グローバリズムの本質を、国民の立場から、簡潔に要約していると言ってよいと思う。
韓国では、米韓FTAに対抗する法律家の間で、このような共通認識が形成されていることに感銘を受けた。


「カ」では、グローバル法の形成を説明している。
眼目は、「自由で普遍的な市場システムの形成」を目的として、法がグローバル化しているとする指摘である。
これまで国家の政策課題とされてきた市場や企業活動に対する規制は、国内政治の課題ではなくなり、「グローバルな『法の支配』」によって自ずから決定される事柄となる。

「グローバルな法の支配」においては、市場や企業活動は、単一の「世界法」によって規制されることになる。
したがって、市場や企業活動に関して、国家が主体的に関わる余地はなく、「国を前提としない世界法」が直接に、市場や企業活動に関わるルールを提供するというのである。

市場や企業活動の在り方は、グローバルな法によって先行的に決まってしまうために、国内政治の課題ではなくなる。
「脱政治」化と呼ぶのはこのような現象を総体として総括した言葉である。


「ナ」では、次のような説明をしている。
憲法秩序や民主秩序に基づく最も重要な国政の分野は「公益」の実現である(「ダ」で明らかなようにここに言う「公益」は国益というようなものではなく、国民各自の幸福の総体を指す)。
この最も重要な分野が、「グローバルな法の支配」する世界では、「国際的な商取引」という私的な利害関係によって支配される分野に堕し、私的な利害関係に従属させられることとなってしまう。


「ダ」は、次のような説明になる。
近代国家は、市民革命の過程で、国家の重要な作用である立法権を国王から奪い、市民の統制の下に置いた。
立法権は、国家の構成員がどのような生活をどのように営むべきかを選択し決定する、
国民の生命、自由、財産や幸福の実現を規律する、国家の根本的な作用である。
したがって、立法権が国民の統制下にあることは国民主権の最も重要な要素を構成する。


「ラ」は、次のように解される。
ところが、米韓FTAは、立法権という国民主権の最も重要な作用を一片の条約によって包括的に制約してしまう。
これは、条約を締結するという政府の行為によって、立法権の作用を包括的に外部に委任してしまったことを意味する。
「包括的な委任立法」は、行政(政府)は法律(国民代表たる議会)に従うとする近代国家の大原則に反し、統治権の放棄と評価せざるを得ない。

以上。

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ヤヌコビッチ大統領の解任は、ウクライナ憲法に反しているのではないかと考えていたら、欧米諸国からは、クリミア独立の国民投票がウクライナ憲法に違反すると主張されていることを知った。
この説明は、産経新聞の記事がわかりやすい。
自国の憲法の大原則を解釈によって枉げようという日本政府もウクライナ憲法の一方的な解釈について、同一歩調を取るようだ。
菅義偉官房長官が「憲法違反」との認識を表明したと報じられている。


グローバリズムの世界では、国家主権の核心である憲法を、外部の勢力が欲しいように弄ぶ。


同じように、米韓FTA、TPP等の、グローバル法の支配は、外部勢力による憲法の空洞化を招く。
国家が決定できることは些細なことに限られるようになり、国民の自己決定の権利は斥けられる。
グローバルな勢力によって、国民の生活が決定され、国民はこれに翻弄される。
ウクライナの事態と似ていないことはない。


グローバル資本と国民個人が「国家を前提とせず」に直接対峙させられる、そうした世界が、グローバリズムの追及する世界だ。


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