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2014年3月 9日 (日)

グローバリズムという名のむき出しの暴力

クリミアの独立を問う住民投票について、法的根拠はなく違法であると伝える報道がある。

一方で、ヤヌコビッチ大統領解任の合法性を検証する報道はほとんどない。
幸いにもウクライナ憲法を翻訳していただいているサイトがあった。
ウクライナ憲法

議会の大統領解任権限については、同国憲法第85条10号が「憲法第111条に定める特別な手段(弾劾)によるウクライナ大統領の解任」を規定している。第111条の規定は次の通りだ。

111条 ウクライナ大統領が国家反逆罪又はその他罪を犯した場合、ウクライナ大統領は弾劾により解任される。ウクライナ大統領の弾劾による 解任は、ウクライナ最高議会の憲法に定める定数の過半数の議員の発案により審議される。調査を実行するためにウクライナ最高議会は特別弁護士及び特別調査 官を含む特別臨時調査委員会を設立する。特別臨時調査委員会の結論及び提案はウクライナ最高議会で審議される。ウクライナ最高議会の憲法に定める定数の3分の2以上の賛成によりウクライナ大統領に対する告訴を決議できる。ウクライナ大統領の弾劾による解任は、ウクライナ憲法裁判所の判決及び弾 劾に関する調査・考察を行った憲法弁護士の意見、ウクライナ大統領が告訴されている国家反逆罪又はその他犯罪に関するウクライナ最高裁判所の意見を考慮し た上で、ウクライナ最高議会が憲法に定めた定数の4分の3以上の賛成で採択できる。

これによれば、
①大統領が国家反逆罪又はその他罪を犯した場合、
②最高議会の定数の過半数の議院の発案により、
③最高議会に特別臨時調査委員会を設立し、
④特別調査委員会の結論及び提案を最高議会で審議し、
⑤最高議会の定数の3分の2以上の賛成によって告訴し、
⑥憲法裁判所の判決・意見などを考慮した上で
⑦最高議会の定数の4分の3以上の賛成で
解任できるとされている。

今回の場合、国家反逆罪との報道はなく、職務不履行を理由に解任を議決したとの報道がある。
職務不履行がウクライナ法で犯罪とされていれば、①は「その他の罪を犯した」場合として、かろうじて満たされるが、②から⑥の手続要件が満たされた形跡はない。

ウクライナ議会が大統領を解任、野党勢力が首都掌握
ロイター2014年 02月 23日 11:42 JST

[キエフ 23日 ロイター] -ウクライナの最高会議(議会)は22日、職務不履行を理由にヤヌコビッチ大統領の解任を決議した。大統領は北東部ハリコフに移動したとみられ、首都キエフは野党勢力が掌握した。一方、職権乱用罪で服役していたティモシェンコ元首相は釈放され、反政権派を前に演説を行った。

議会は大統領の解任を賛成多数で決議。また、来年3月に予定されていた大統領選を前倒しし、5月25日に実施することも決議した。

ヤヌコビッチ大統領はテレビ局のインタビューで、辞任を否定し、ウクライナを離れることはないと述べた。議会の決議は「違法だ」とし、「現在目にしていることはクーデターだ」と非難した。インタファクス通信は、大統領が出国を試みたが国境警備当局に拒否されたと報じた。

ヤヌコビッチ大統領の政敵とされるティモシェンコ氏は、車椅子で独立広場のステージに上がり、反政権派を「英雄」だと称えた。また、ウクライナは近い将来、欧州連合(EU)に加盟するとの見方を示した。

ティモシェンコ氏は2011年に禁錮7年の実刑判決を受け服役していた。米政府は同氏の釈放を歓迎すると表明。同氏が釈放され親ロシア路線のヤヌコビッチ大統領の解任が決議されたことで、ウクライナは今後、欧州寄りになる可能性が高まった。

ウクライナでは、大統領が昨年11月、ロシアからの支援を受け入れ、EUとの協定締結を見送ったことが引き金となり、反政府デモが続いていた。反政権派と治安部隊の衝突により過去数日間で82人が死亡した。

⑦については、最高議会定数450名に対して328票の賛成で解任を可決したとされている。4分の3の特別多数は、計算に間違いがなければ338票になりそうである。10票ほど足りない。

そうなると、⑦の実体的な要件も満たしていないことになる。
そうなると、ウクライナ最高議会は、憲法に定める手続を完全に無視して大統領を解任したと称しているということになる。

ウクライナ大統領が首都脱出 議会は解任決議

日本経済新聞   2014/2/23 1:13

 【モスクワ=石川陽平】反政権デモを続ける野党勢力と警官隊の衝突で多数の死者が出た旧ソ連・ウクライナで、ヤヌコビッチ大統領が首都キエフを離れ自らの支持基盤である東部に脱出した。キエフ中心部は野党勢力が掌握し、最高会議(国会)は22日、大統領を解任し、5月25日に大統領選を実施する決議を採択した。ウクライナはキエフなど親欧の中・西部と親ロシアの東・南部に分裂する様相が強まっている。


 ウクライナの国会(定数450)は22日夕、大統領の解任と、大統領選を前倒しする決議を328人の議員による賛成多数で採択した。大統領の首都脱出により、国会は野党勢力が掌握しており、同日午前から大統領の即時退陣を要求する決議を審議していた。

 地元メディアによると、ヤヌコビッチ大統領は21日夜、東部の主要都市ハリコフに脱出した。身の安全を確保し、支持者と対応を協議する狙いとみられる。

 国会の解任決議に先立ち、ヤヌコビッチ大統領は22日、地元テレビ局に対し、野党勢力の動きを「クーデターだ」と指摘、辞任しない考えを表明した。国会が決めた法案には署名しないとも述べており、解任決議は違法だと主張するとみられる。

 ウクライナでは2013年11月、政府が欧州連合(EU)と包括的に関係を強める連合協定の調印手続きを突然凍結。親欧路線の転換に反発した野党勢力や市民が大規模な反政権デモを起こした。2月18日に再び激しくなった警官隊との衝突で少なくとも77人が死亡。欧州諸国やロシアが仲介し、21日に大統領と野党勢力が事態収拾への合意文書に署名していた。

報道では、ウクライナには新政権が成立したことになっているが、憲法上の手続によるものではなく、法律的には、非合法政権である。

究極の事態となれば、法の支配などあったものではなく、勝てば革命だということなのだろう。

それにしても上記日経の記事にもあるとおり、21日に大統領と野党勢力が事態収拾への合意文書に署名した翌日の解任劇である。

ウクライナ、危機収束へ大統領と野党が合意 大統領選前倒し
ロイター2014年 02月 22日 08:00 JST

[キエフ/ベルリン/モスクワ/ロンドン 21日 ロイター] - 反政権派と治安部隊の衝突で揺れるウクライナのヤヌコビッチ大統領は21日、事態収束に向け、欧州連合(EU)の仲介の下で野党3党の代表と合意書に署名した。

ヤヌコビッチ大統領は、大統領選挙の前倒しや挙国一致政府の発足、大統領権限を制限する憲法改正など一連の譲歩に応じた。

署名を受け、議会は大統領の権限を制限する2004年憲法を復活させる案を可決するとともに、刑法の改正案を承認。これにより、職権乱用罪で服役中のティモシェンコ前首相が釈放される可能性も出てきた。

ただ、これらの譲歩を受け、ヤヌコビッチ大統領の即時退陣を求めるデモ隊がキエフの独立広場の占拠をやめるかどうかは不透明だ。

ヤヌコビッチ大統領は、多数の犠牲者が出ているウクライナの危機解決に向け、夜を徹して野党勢力と協議。ドイツのシュタインマイヤー外相のほか、ファビウス仏外相、シコルスキ・ポーランド外相らが仲介役を果たした。

EUや米ホワイトハウスは合意をたたえたが、ロシアは支持を表明することは控えた。

EU代表は立会人として合意書に署名し、「あらゆる暴力や対立の即時停止」を求める共同声明を発表した。

一方、ロシアのプーチン大統領の人権担当特使ウラジーミル・ルーキン氏は合意書に署名しなかった。インタファクス通信によると、同氏は「ロシアが交渉に加わる時期が遅かったのは適切でない。最初から交渉の形式について合意があるべきだった」と語った。

EUのアシュトン外交安全保障上級代表は、合意内容の履行には大きな困難が伴うとの見方を示し、当事者がいかなる暴力の脅しもちらつかせないことが重要だと述べた。

ロシアのラブロフ外相と協議し、暴力を止める必要があるとの認識で一致したことも明らかにした。

また、この日の合意を受け、EUが前日にまとめた制裁の行方をめぐりどのような決定を下すかは、現地に滞在する加盟国の外相が報告する情報次第との考えを示した。

米ホワイトハウスの報道官は、合意内容が実施されない場合、引き続き追加制裁を発動する用意があると述べた。

ウクライナ経済の見通しはなお不透明だ。ウクライナが昨年11月にEUとの協定締結を拒否した後、ロシアは同国に対し150億ドルの援助を約束したが、実施する意向を変えていないかは明確にしていない。

<p>金融市場では、合意への期待感から通貨フリブナが上昇した。

EUと米ワシントンは合意をたたえたとある。
翌日に野党が約束を破って、大統領を解任したのは、本来、非難に値することになりそうだ。
まして、反政府勢力には超国家主義者ネオナチが入り込んでいるという。自由世界の建前では、由々しき事態であるはずだ。
が、そうはならず、EUも米国も、ヤヌコビッチ大統領の解任は正当だとした上で、クリミアの独立投票は違法だという。

むき出しの暴力の世界に、国内法は無力だ。
所詮は、憲法など紙切れに過ぎない。
紙切れなど守るつもりもない勢力が一定数に達すれば、無効化してしまう。
解釈改憲を呼号する安倍総理しかり、権限もないまま11ヶ国を巻き込んでTPP交渉を進めるオバマ政府しかりだ。

近代国家の大前提は、言葉の支配だ。
平素は、言葉が暴力を支配できるとみなすことで、国家は運営されている。
しかし、言葉が通用しない支配者が現れれば、これを追放しない限り、無効化していく。
ウクライナにおいて、EUも米国も、つい昨日のことであっても、言葉などはどうでもよい。そこがマネーの支配する市場にできるかどうかが最大の関心事だからだ。

そして、この、むき出しの暴力の本質は、軍事に本質があるのではなく、EUへ併合しようという市場とマネーの思惑だ。

国際経済法は、自由貿易と自由な市場こそが平和を約束するという、一つ覚えのテーゼを繰り返す。
ウソであることはウクライナを見れば、明らかだ。
絶え間ないグローバリズムの要求こそが、世界を不安定に導いている。


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