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2014年9月16日 (火)

遅ればせながら、マチベンの残暑見舞い

遅ればせながら、先週、ようやく残暑見舞いを出しましたので、ご紹介します。


「残暑見舞い申し上げます」(PDF)
       2014年9月  岩月浩二

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                        街場の弁護士32年の実感

多重債務被害救済の現場

 僕が弁護士になったのは1982年の4月。
 以来32年間、一貫して街場の弁護士である。
 弁護士になった当時は、サラ金被害が、深刻な社会問題になっていた。貸金業法の取立規制もなかった当時のサラ金は半端ではない。連日連夜の厳しい取立に追い込まれ、夜逃げや自殺する人が跡を絶たなかった。
 一刻も早く取立から逃れられるようにするのがサラ金と対峙する弁護士の役割だった。言ってみれば当時の多重債務者被害の救済は体を張る体育会系の仕事であった。
 僕は、弁護士になって3ヶ月目頃には、取り立てが目に余った名古屋で3指に入る悪質な金融業者に対する過払金訴訟を起こして判決を取り、強制執行で業者の事務所の備品を差し押さえた。怒り狂った金融業者は直接、事務所に押しかけて騒ぎになった。大人数の事務所だったので、事務所で対応してくれ、結局、警察を呼んで収めることになった。「岩月を出せ」とわめいていたそうだが、外出していた僕は幸いにも難を逃れた。
 相談を受けるや、早ければ翌日には裁判所に破産申立をする。裁判所の破産手続中にもかかわらず取立を迫るのは、恐喝ではないかということで警察の介入を求める。サラ金被害者救済のため、そんな手法が確立した頃だった。


  破産事件の着手金の支払状況の変化

 新人の僕が入所した事務所は、破産事件では25万円ほどの着手金を一括で受け取っていた。依頼者は、サラ金の借金が返済できなくて駆け込んできているのに、これを一括で払ってくれていた。当然、身内や友人が用立ててくれていただろうが、それにしても破産申立をしなければならない人が一括で少なくない金額を払っていたのだ。
 90年代後半頃から、分割払いでないと着手金が支払えないという依頼があるようになった。大方の弁護士は、分割払いが途中で途絶えるのを危惧して、こうした依頼を避けていたが、僕は自然体で受けていた。弁護士に依頼すれば依頼した時点でサラ金への支払からは逃れられる。その余裕を着手金の支払いに当てるので、分割払いは合理的な払い方だ。現に分割払いが途絶える依頼者はほとんどいなかった。
 やがて分割払いの方が当たり前の時期になったのが、この10年ほどのことではないかと思う。
 今はどうかというと、当初に着手金が支払える例は極めて稀になった。分割払いも困難な場合が激増している。依頼したまま、当面の生活の目処が立たないまま立ち消えになってしまうようなケースも少なくない。
 破産申立は、生活再建の確実な手段とされてきた。一度、多重債務状態に陥っても、破産によって借金の支払いを免除されれば、生活を再建できることは当然の前提であった。しかし、今では多くの場合、多重債務で相談に訪れるときには、すでに生活自体が危うくなっている状況にあることが多い。仮に借金の支払いを止めても、生活に困窮する実態にある。


    悪化する市民生活

 僕が弁護士になった当時は、大半の弁護士が企業顧問で経営を成り立たせていた。法律事務所のコマーシャルが当たり前になった今では考えにくいかもしれないが、弁護士の多くが紹介者なしの依頼は受けなかった。僕が最初に入所した事務所は、企業からの顧問収入に依存せず、紹介者なしでも依頼を受ける事務所で当時は例外的な存在だった。
 したがって、街場の弁護士で30年以上のキャリアを持つ弁護士は全国でも数少ない。500人程度しかいないのではないかと思う。
 そんな街場の弁護士の目から見ると、1990年代以降の市民生活は、一貫して苦しくなってきたとしか思われない。
 もう少し例を上げれば、たとえば離婚だ。不貞行為や暴力などが原因で離婚する場合、慰謝料が発生する。結婚生活が10年程度で子どもがいる夫婦の場合、長らくおおむね300万円が慰謝料の相場とされていた。1990年代までは、相手方から慰謝料が取れないということはほとんどなかった。
 今の相談の大半は、相手方に支払能力があるかを考えなければならない。仮に慰謝料が請求できるとしても、支払が得られる見込が薄いと思わざるを得ないケースが多い。
 一般市民の生活基盤が崩壊しつつあるのだ。


    経済成長の裏で進行した貧困化

 この間、基本的に経済成長は続いた。日本のGDPは1980年当時の約300兆円から500兆円に増えている。経済成長はしたが、市民の生活基盤は底辺から掘り崩されている。
 少しだけ統計を挙げよう。生活保護受給者数は、1995年の90万人台を最低として、2011年11月には210万人に達した。実に1951年(昭和36年)を上回り、過去最高の水準で推移している。
 貯蓄ゼロの2人以上世帯は1990年代前半まで5%程度だった。実感がない人も多いと思うが、今や貯蓄ゼロの2人以上の世帯は31%に及んでいる(金融広報中央委員会平成25年家計の金融行動に関する世論調査)。ひとり親世帯に至っては半数が手取り収入200万円以下の貧困層である。母子家庭では6割近くが貧困層である。
 日々の生活に追われて貯蓄もない夫婦が離婚すれば、直ちに生活が困窮する。小さな破綻が直ちに生活困窮に結びつく構造になった。
 かつては女性の離婚相談では、僕のスタンスは夫の束縛から逃れるためには離婚をお勧めするスタンスであったが、離婚後の生活を考えると、考え込まざるを得ないケースが増えた。


            TPPによるグローバリゼーションになぜ反対するのか

    貧困社会への道程

 戦後まもなくから長く職業斡旋事業は禁止されていた。労働者の賃金をピンハネする人入れ稼業は絶対的な悪だとされていたからだ。小規模事業者を保護する大規模店舗の出店規制も厳しかった。日本社会では、長く公平の理念が尊重されていた。
 大店法が改正され、出店規制が緩められたのは1990年。その4年前に労働者派遣を認める労働者派遣法が施行されている。
 その後、時代は大きな変わり目を迎える。1991年にソ連が崩壊し、冷戦が終結した。資本主義の暴走を牽制する重しが消えた。
 1995年には、管理職や基幹労働者を除く、一般労働者を流動化することを経済界が提言した。以後、通訳等ごく一部の専門職に限られていた派遣労働が漸次拡大されていった。30年前(1985年)には16%だった非正規労働の割合は今や4割に迫る。
 経済界が労働力の流動化を求めた理由は、グローバル市場での競争力の確保である。つまりグローバル市場での競争力を強調すれば強調するほど、労働力は部品と同じコストとみなされ、労働者は不安定な地位に置かれ、生活は劣化していく。
 かつては家計補助労働の典型だったレジに男性が立つ姿を見るようになったのは、ほんの数年前だ。それが今では当たり前の風景になっている。


    日本は格差社会か

 では日本が格差社会かと言われると、統計ではそうではないというから、また恐ろしい。
 高齢化の影響を除いた統計処理では、社会構造ではまだ日本は先進国の中では相対的に平等だというのだ。
 欧米の失業率は高くなると10%を超える。日本では5%程度の失業が問題になる。日本社会は未だに欧米並みの格差社会ではないというのだ。
 格差社会の米国では上位1米国では1%の富裕層が所得の20%を占め、資産の4割を独占する(中国も同様である)。新自由主義政策を打ち出した英国やカナダも同じ傾向で、上位1%の富裕層が15%の所得を独占している。
 日本の富裕層1%の所得はは2000年以降微増傾向ではあるが、まだ10%に満たないと言われる(2005年現在)。それにしても90年代半ばまでは、大企業の役員の年収は労働者の平均賃金の2.5倍程度の割合を保っていた。この構造が急速に変化していることは周知だろう。
 TPPは、日本の法的・社会的風景を一括して新自由主義の風景に変換する。
 富裕層を急速に富ませ、市民の生活は貧困へと追い込まれていく。


  TPPの経済的側面

 TPPは相変わらず、農業問題、関税の問題として伝えられている。
 輸出力を高めるためにTPPは必要だと、輸出産業と農業の対立が煽られる。TPPに反対するのは、少数のために多数に犠牲を強いるという宣伝が定着している。
 輸出力を高めるためにTPPをというなら、コストである人件費を抑制しなければならない。実質賃金は低下し、市民の生活は益々困窮する。
 アベノミクスが、解雇規制の緩和、残業代ゼロ法、生涯派遣を追及するのはグローバル市場で人件費をカットし、競争力を高めるためには必然なのだ。
 かつての小規模店舗に変わったコンビニの「経営者」の収入は、365日24時間の体制を確保するために、時間単価では最低賃金すら下回り、裁量もない。リスクを「経営者」に転嫁する実質無制限労働の労働者である。
 そんな風景を置き去りにして、国際競争力を追及するのが今の経済政策だ。
 世界銀行の統計では、2012年、日本のGDPに占める貿易依存度は調査した206ヶ国中、196位だ。日本の経済規模が大きいから、世界の貿易では目立つ存在かも知れないが、日本の輸出依存度は一貫して15%程度で、85%は内需である。内需を厚くするための所得の再配分が国民にとっての利益であることは明らかだろう。
 アベノミクスは違う。消費税増税と法人税減税を同時に行うという市民から大企業への所得の逆配分だ。ほんの少し前まで考えられなかった施策が経済成長策として堂々と行われる。
 一部のグローバル企業のために大多数の国民に犠牲を求める、総仕上げがTPPに他ならない。


                          対米従属というくびき

 TPPも集団的自衛権行使も米国の要求によるものだ。
 集団的自衛権は日本国憲法の平和主義と相容れないだろう。
 同様に、暮らしの仕組みをグローバル企業本位のものに一括変換するTPPは憲法の国民主権と基本的人権尊重主義を踏みにじる。
 米国の国力の衰退は、否応なく日本に軍事的役割の負担を求める。集団的自衛権行使容認に込められたのは、米軍を肩代わりする自衛隊に他ならない。米国のためいっそうの軍事予算の肩代わりを求められるのも必至だろう。
 軍事のクローズアップも一面では確実に金儲けと結びついている。利にさとい経済人は、武器輸出や軍事ODA、そして民間軍事会社で儲けようとする。いわゆる「死の商人」に踏み出すこともいとわない。
 TPPで日本は、国民の生命や財産を守る多くの法律の改正を余儀なくされる。一方、米国は全く国内法を変えることなくすむ仕組みになっている。自分を安全地帯において一方的に相手国の制度の変更を求めるのが米国の自由貿易協定の歴史だ。一方的に責めるだけで自分は安全圏にある姿は、米軍の空爆に似ている。
 そんな不平等は百もわかっていて、TPPの締結を急ごうとする政府は、結局、国民を食い物にして自らの利益を得ようとする勢力を代表しているとしか言いようがない。
 新自由主義の元祖のように言われるアダムスミスは、労働が価値を生み出すこと、したがって、労働に見合った賃金を保障すべきことを説いた。マルクスはいうまでもなく、ケインズも価値を生み出すのは労働であると考えていた。労働者をモノ扱いしてできるだけ賃金を削り取ろう等という考え方は、歴史に残る偉大な経済学者は考えもしなかったということだ。


          街場の弁護士の矜持

 TPPに反対する主張を繰り返したとき、意外だったのが、「弁護士の中にも、まだ、そういう人がいたのか」という反応だった。
 弁護士の大増員も年次改革要望書に基づく、米国の要求であった。弁護士数はこの10年で倍増し、3万5000人に近づいている。所得100万円を下回る弁護士が3割を超え、法律事務所は経営難が広がり、事務所閉鎖も相次いでいる。先行きのない法律家の志願者は激減し、挙げ句には東大法学部が定員割れを起こす事態にまでなっている。
 一般市民の生活が貧困化へ向かう中で、弁護士だけ激増すれば、弁護士が困窮化するのは明らかだ。
 かつて、弁護士には「在野」という共通の精神があった。官にも企業にもおもねらないことを誇りとしていた。経済基盤を奪われれば、「在野」精神も失われる。官にも大企業にも、文句が言えない刹那主義が弁護士の世界にも広がっていると言うと、言い過ぎだろうか。少なくとも一般にはそうした弁護士像が行き渡っているから「まだ弁護士の中にもそうした人がいるのか」という反応が出るのだろう。
 新自由主義による経済成長が市民の生活を豊かにしないことは街場の弁護士として痛感している。グローバル資本のために経済・社会を作り替えるTPPは、1%を富ませ、99%を犠牲にしていくだろう。
 だからこそ、在野精神に矜持を持つ街場の弁護士として毅然としてTPPによって反対を主張し続けたい。


                              ご相談、ご紹介はお気軽に
  「志、体力、気力のある者」という募集要領に応じて入所した土井洋佑弁護士も3年目に入り、すっかり弁護士らしくなりました。同弁護士は、原発事故の避難者の裁判の弁護団の中心メンバーの一人として活躍し、着実な仕事ぶりは高い評価を受けています。
  今どき珍しい「在野」の志を持つ弁護士です。
  在野の弁護士を支えるのは皆さまのご支持です。
  お気軽にご相談、お知り合いのご紹介をいただきますと幸いです

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街の弁護士日記「マチベンの暑中見舞い」に、 街場の弁護士32年の実感という題で、 岩月弁護士が1980年代から現在の日本社会、一般庶民の置かれている立場の変遷を分かりやすく書いておられる。 前半部分も面白いのだけれど、全文を引用すると可也長くなるので、 現在の日本にとっての喫緊の課題である、「TPPによるグローバリゼーションになぜ反対するのか」以降を紹介させて頂く。    (引用) ...... [続きを読む]

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 というわけで、「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」の準備会が発足した模様である。  問い合わせ連絡先は下記の通りである。  ■電話番号: 03−5211−6880  ■Eメール: tppikenn@yahoo.co.jp  「TPP交渉差し止め・違憲訴訟の会」については...... [続きを読む]

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