米国に収奪される年金資産
年金資産運用機関(GPIF。長ったらしい正式名称は避ける)が、国債への割当を半減させた背景には、もう一つの事情がある。
ロイターが伝える市場関係者の声には、次のようなものがある。
岡三証券 日本株式戦略グループ長 石黒英之氏
報道ベースだが、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の新たな運用比率はポジティブな印象だ。国内株は25%と事前報道通りで驚きはないが、国内債が35%と予想していた40%より5ポイントも低い一方、外国証券が40%と高く、円安進行に追い風となる。日本株にとっては円安を通じてプラスに作用しそうだ。
外国株式と外国債券に40%も振り向けられ、国債の割合が35%まで引き下げられるという逆転は市場の専門家すら予想できなかったという訳だ。
日銀の緩和拡大、年金資産運用機関の資産運用基準の変更が決定された10月31日は、米国FRB(Federal Reserve Bank)が量的緩和の終了を決定した10月29日の直後である。
外国証券の割合が国債を上回るという異例の運用の変更は、当然に米国の金融緩和の終了を受けている。
年金資産運用機関は大量の国債を手放して日銀の超緩和マネーを手にし、国内株式だけではなく、米国債やニューヨーク市場に投資する。
外国株式の増加分13%は26兆円、外国債の増加分4%は8兆円に匹敵する巨額だ(公務員共済など関連する年金資産を含んで200兆円として計算)。
年金資産で、米国株式や、米国債を下支えするというのだ。
年金資産運用基準変更の当日、ニューヨーク株式市場は、前日比195.10ドル高の史上最高値1万7390.52ドルを記録した。
要するに、日本国民の年金資産を挙げて米国に貢ぐことがいつのまにか決まり、ニューヨーク市場を盛り上げたのだ。
米国は、ついに日本国民にとって、なけなしの年金資産にまで手を突っ込んできた。
株価至上主義に乗っ取られた日本政府は、率先して年金資産を投げ出し、米国を支えようとしている。
対外収支に膨大な赤字を抱える米国債は、日本がいったん買ったら、決して売ることができないことはよく知られてところだ。
米国債の買付は、日本にとって、米国への無償援助、貢ぎ物に等しい。
FRBは金融緩和終了の理由として、米国経済の回復を挙げるが、実情は極めて危うい。
米国の金融緩和であまった大量のマネーの一部は、サブプライムローンに回っている。今回は住宅ではなく、自動車のサブプライムローンだ。
GMを初めとする米国自動車産業の好調もこのサブプライムに支えられている。
金融緩和による増えた所得の95%は株式などを大量に保有する1%の富裕層に流れ込んだ。
格差はむしろ拡大している。米国経済の危うさは一向に改まっていないとも言える(朝日新聞10月30日「米、憂い抱えた好景気」)。
米国の危機は深い。
あからさまに日本の資源を巻き上げようとする、極限の収奪が始まろうとしている。
このまま行けば、日本は、米国より先に米国に根こそぎ収奪されて、滅びるだろう。
国民の利益を考える、まともな政府を取り戻すことは急務だ。
日銀の金融緩和拡大には、証券会社の委員も含め、民間企業の委員全員が反対した。
年金資産運用の変更が予め秘かに決められていたことを知らないから、反対したのか、それを知っていて反対したのか。
前者であれば、一連の決定は極めて密行性の高い高レベルでなされたものだったことになる。
後者であれば、年金資産を丸ごと投げ出すような暴挙には、民間挙げて、ストップをかけるべく動いてもらいたい。
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