「私はシャルリーではない」という、孤立感
気分は暗鬱だ。
パリで160万人、フランス全土で370万人が『反テロ』のデモをしたという。
フランス政府が主催し、40ヶ国以上の首脳がデモに参加したという。
フランス政府が「ナチスから解放されたとき以来」という規模のデモだ。
9.11直後と同じ空気が漂っている。
ここから何かが、そして多分、世界にとって好ましくないことが始まるのは間違いないだろう。
とりあえず、どのような表現活動がテロの対象になったのかを、ハフィントンポストから書き留めておこう。
【シャルリー・エブド】パリで襲撃された新聞はどんなことを報じていたのか
The Huffington Post | 執筆者: Benjamin Hart
投稿日: 2015年01月08日 12時58分 JST
更新: 2015年01月11日 01時16分 JST
風刺漫画で知られるフランスの政治週刊紙「シャルリー・エブド」の本社が1月7日(現地時間)、銃撃を受けた事件で、死亡した12人のうち4人は風刺漫画家だったとフランスでは報じられている。
「カーボ」という愛称で知られ、風刺画も描いていた編集長のステファン・シャルボニエ氏も銃弾に倒れた。また、著名な風刺漫画家のカブ氏、ウォリンスキ氏、ティグノス(本名はベルナール・ベルラック)氏も犠牲となった。このテロ事件では、他に少なくとも8人が死亡している。
シャルボニエ氏は、因習を打破する姿勢で広く知られており、反体制的な同紙の看板的存在だった。
シャルリー・エブド紙はこれまでも、政治や宗教などさまざまなジャンルの有名人を攻撃する風刺画を数多く掲載してきている。中でも一番注目を集めたのは、イスラム教ならびに預言者ムハンマドに関する表現だった。
2011年には、ムハンマドを同紙の新しい編集長に指名したという風刺画を掲載。その翌日には、同紙事務所に火炎瓶が投げ込まれ、全焼する事件が起きた。
2011年に発表された風刺画には、「笑いすぎて死ななかったら、むち打ち100回の刑だ」というセリフがついている。この号の発売後、同紙事務所には火炎瓶が投げ込まれた。
同紙は2011年にさらに、預言者ムハンマドを同性愛者として描いた風刺画を掲載した。その結果、同紙ウェブサイトはハッカーの被害を受けている(以下の画像)。
2012年には、フランス当局から警告を受けていたにも関わらず、ヌード姿のムハンマドの絵を複数掲載した。シャルボニエ氏はAP通信に、預言者ムハンマドを風刺する漫画の掲載決定について次のように主張した。「ムハンマドは私にとって聖なる存在ではない。イスラム教徒がこの漫画を見て笑わないのは仕方がない。しかし、私はフランスの法の下に生活しているのであって、コーランに従って生きているわけではない」
シャルボニエ氏が最後に描いた漫画から、シャルリー・エブド紙が絶えずさらされていた脅威を軽く見ていたことがわかる(シャルボニエ氏は複数の殺害脅迫を受けており、警察当局の保護下にあった)。
「フランスにはまだ攻撃が行ってないな。1月末までには季節の挨拶ができるぞ」
カブ氏(76歳)は同紙の常連漫画家で、かつてはフランスの有名な映画監督ジャン=リュック・ゴダール氏に「フランス一のジャーナリスト」と評された人物である、と英紙「テレグラフ」は伝えている。また、シャルリー・エブド紙の前身である月刊誌「アラキリ(Harakiri:日本語の切腹の意 フランスでは「アラキリ」と発音する)」の共同創刊者でもあった。アラキリ誌は、1970年代に発禁処分を受けたため、「シャルリー・エブド」に改名したという背景がある。
カブ氏は2006年、同紙の表紙に、「バカに愛されるのもラクじゃない」というキャプション付きで、預言者ムハンマドが頭を抱える風刺画を描いた。2つのイスラム教系団体がこの風刺画をめぐって訴訟を起こしたが、敗訴したとニューヨーク・タイムズ紙は伝えている。
ジョルジュ・ウォリンスキ氏(81歳)はチュニジア生まれのユダヤ人で、1940年に家族とともにフランスに移り住んだ。カブ氏と同様、1960年代には「アラキリ」誌に漫画を掲載していた。
シャルリー・エブド紙は2006年、「原理主義者に悩まされて困り果てたムハンマド」という見出し付きで、すすり泣くムハンマドの漫画を掲載し、物議をかもした。同号にはさらに、預言者ムハンマドの風刺画が12枚掲載され、イスラム世界からかつてないほどの批判が寄せられた(これは、もともとはデンマークのユランズ・ポステン紙が2005年に発表して問題になった預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載したものだった)。
最終的には、フランス国内に住む500万人のイスラム教徒を代表する組織「フランス・イスラム評議会」が、同週刊紙を訴える事態となった。この号がきっかけとなって、シャルリー・エブド紙はテロリストの攻撃対象としてみなされるようになったと考えられている。
さらに最近の号では、イスラム国が預言者ムハンマドの首を切るマンガを掲載していた(以下のTwitter画像)。
【訂正】2015/01/11
当初の記事で、ベルナール・ベルラック氏の名前を「ベルラーク・ベルナール」としていましたので修正しました。合わせて、ステファン・シャルボニエ氏、カブ氏、ジョルジュ・ウォリンスキ氏の名前を修正しました。
フランスでは人種差別撤廃条約に基づいて、『ヘイト・スピーチ』は禁止されている。
人種憎悪煽動罪、人種侮辱罪が存在する。
差別を禁止するための表現規制の対象には、宗教も含まれる。
冷静に考えれば、イスラム風刺(侮辱)を売りにした週刊紙を標榜する『私はシャルリだ』とのスローガンはあり得ないものだろう。
他方、2002年に起きた二つの事件は、ヘイトスピーチ規制法の厳しさを示している。
1 デュードネ事件
インタビュー記事で、大統領選挙候補者が、
「人種差別を創造したのはアブラハムだ。『選ばれし民』,それは人種
差別の始まりである。ムスリムは今日、反論の余地のない答えを返している。私にとって,ユダヤ人もムスリムも存在しない。だから反ユダヤ主義者は存在しな
い、なぜならユダヤ人が存在しないからだ。2つの観念とも馬鹿げている。誰もユダヤ人ではない、でなければ全員がユダヤ人ではない。私にはその歴史がまっ
たく理解できない。私にとってユダヤ人たち(les juifs)、それはセクト(secte)であり、詐欺(scroquerie)だ。それは最初のものなので、最も重大なものの1つだ。ムスリムの中に、『聖戦』等のような概念を復活させることで同じ道を進んでいる者たちがいる。」
と答えたうちの、「私にとってユダヤ人たち(les juifs)、それはセクト(secte)であり、詐欺(scroquerie)だ。」
との部分が、人種憎悪煽動罪及び人種侮辱罪で訴追され、破棄院(最高裁)は人種憎悪煽動罪の成立は認めなかったが、人種侮辱罪に当たる可能性を認めて、2審裁判所に差し戻している。
2 モラン事件
2002年6月4日付の「ル・モンド」紙に掲載された、ユダヤ系の社会学者エドガー・モランらの「イスラエル・パレスチナ問題という癌」との論文が問題にされた。この論文は、2002年4月のイスラエル軍のジェンニ侵攻を受けてイスラエルを非難したものである。この論説の次の部分がフランス・イスラエル協会及び国境なき弁護士団から精神的苦痛を受けたとして、民事訴追されたものだ。
①「ほとんど想像し難いのは、人類史上もっとも長期にわたって 迫害され、最大の屈辱や侮辱を受けてきた民を祖先に持つ逃亡者の国が、2世代の間に,『威圧的で自惚れに満ちた民』に変貌できるだけでなく、称賛に値する少数の人間を除き、侮辱することに満足を覚える傲慢な民に変貌できるということである。」
②「ゲットーと呼ばれる隔離政策の犠牲者の子孫であるイスラエルのユダ
ヤ人がパレスチナ人を孤立状態へと強いている。屈辱や侮辱を受け迫害されてきたユダヤ人が、パレスチナ人に屈辱や侮辱を与え迫害を行っている。非道な命令
の被害者であったユダヤ人がパレスチナ人に非道な命令を強制している。残忍性の犠牲者であったユダヤ人が恐るべき残忍性を示している。あらゆる悪のスケー
プゴートとなったユダヤ人が、アラファトとパレスチナ自治政府とをスケープゴートに仕立て、テロを防止しなかったとして彼らをテロの責任者にしている。」
2005年5月26日の控訴院判決は、出版自由法の人種的名誉毀損に該当するとして、1ユーロの賠償とルモンド紙への判決要旨の掲載を命じた(後に破棄院で取消)。
イラク戦争時期のこうした判決例が、イスラエルの暴力を批判する言説に困難をもたらしたであろうことは想像に難くない。
表現の自由の保障と言っても、歴史的・文化的・社会的背景があり、各国それぞれの特徴があろう。
多様性があってよいと私は思う。
しかし、「私はシャルリーだ」というのでは、『反テロ』の合い言葉としても、あまりにも均衡を欠いていることだけは間違いない。
一貫した立ち位置に立つ酒井啓子氏の意見を見て、少しだけ救われる思いがする。
嫌イスラームの再燃を恐れるイスラーム世界
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