戦争にウソはつきものである フランス編
古今東西、戦争にウソはつきものである。
フランスの事態も十分にあやしいのである。
マスコミでは、1月7日から9日にかけての連続テロ事件と11日に行われた40カ国もの首脳が参加したと言われるフランス全土で370万人が参加した官製デモばかりが大きく採り上げられた。
その結果、今に至るも欧米の事件は、表現の自由とテロの文脈で論じられ続けている。
マスコミは、ほとんど採り上げなかったが、このときフランスでは、重要な政治決定がなされている。
一つは、1月14日に行われた原子力空母『シャルル・ド・ゴール』艦上でのオランド大統領の同空母のペルシャ湾派遣、すなわち「イスラム国」空爆本格化の表明であり、もう一つは、その前提となるフランス議会でなされた「イスラム国」空爆継続決議(1月13日)である。
1月14日にオランド大統領が新年の演説で『シャルル・ド・ゴール』をペルシャ湾に派遣すると表明することは1月6日、すでにフランスの海事ニュースが報じていた。
つまり、連続テロ事件があろうとなかろうと、フランスの空爆の本格化は既定路線であった。
しかし、実は、そのための政治的ハードルは決して低くはなかったという話である。
問題は、フランス議会の空爆継続決議が持つ、法的な意味である。
最新のフランス憲法は、ネットでもなかなか入手できない。
公刊されている世界憲法集もフランス憲法の最新改正まで追っていない。
それでも、何とか、最新改正までたどり着くことができて、空爆継続決議の意味がわかった。
フランス憲法によれば、フランスの軍の指揮権は大統領が有する。
議会には宣戦の承認権があるだけで、軍の海外派遣はもっぱら大統領の専権に属した時期が長く続いた。
イラク戦争の失敗によって、厭戦気分が高まっていたと思われる2008年7月23日、フランス憲法が改正され、軍の海外派遣に議会が歯止めをかける仕組みが作られた。
下記の条文の第2項以下が改正で付け加えられた条項である。
フランス憲法35条
1 宣戦は、国会によって承認される。
2 政府は、海外に軍を派遣する場合には、派遣後遅くとも3日以内に議会に通知しなければならない。この通知には、派遣目的の詳細を記さなければならない。この通知は、議会の審議に付されるが、票決手続には服さない。
3 上記の派遣が4ヶ月を超える場合、政府はこの期間の延期について議会から承認を得なければならない。政府は、国口議会に対して最終決定を求めることができる。
(以下、略)
3項に注目したい。
海外派遣から4ヶ月を超えると、議会の承認が必要とされるようになったのだ。
大統領が軍を海外に派遣できるのは、あくまで暫定的であり、本格的な海外派遣は、議会の承認が必要になったのである。
フランス軍が、「イスラム国」空爆を開始したのは、2014年9月19日である。
議会が空爆継続を議決する期限である海外派遣から数えて4ヶ月は、いくら遅くとも2015年1月19日である。
デッドエンドが近づいていた。
この期限までに、議会の承認が得られなかった場合には、フランス軍は撤退し、「イスラム国」空爆を止めなければならなかった。
当時、オランド大統領の支持率は史上最低、15%とも言われた。
空爆継続決議が危ぶまれて当然の形勢だったろう。
そして、フランス軍の撤退は、有志国による「イスラム国」との戦いという米国の構想自体を破綻させかねない、致命的な打撃となる。
海外派遣の憲法上の期限が迫る中、「偶然にも」連続テロ事件が起きた。
ナショナリズムが究極の高まりを見せ、エマニュエルトッドをひとりぼっちの気分にするような国民的な感情の渦が渦巻いた。
おかげで、フランス議会は、488対1という圧倒的多数で、空爆継続を決議できた。
少なくとも有志連合を率いる米国にとっては、そして各国の軍産学複合体にとっては、テロ様々で危機を克服したのである。
原子力空母派遣、空爆本格化という、決められたスケジュールに合わせて「偶然にも」「たまたま」「都合良く」連続テロ事件が起きた。
古今東西、戦争にウソはつきものであるというのが歴史の教訓である。
連続テロ事件がこの時期に起きたことがが本当に偶然なのかと、疑うのが合理的精神というものであろう。
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街の弁護士日記「戦争にウソはつきものである フランス編」に書いておられるフランスの憲法の話を読んで、
シャルリーエブド襲撃事件は、権力側のやらせなのではないかとの疑いの念は、益々高くなって来た。
(一部引用)
イラク戦争の失敗によって、厭戦気分が高まっていたと思われる2008年7月23日、フランス憲法が改正され、軍の海外派遣に議会が歯止めをかける仕組みが作られた。
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