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2015年4月25日 (土)

エマニュエル・トッド 『デモクラシー以後』から抜き書き 『自由貿易』から協調的保護主義へ

日米交渉の有様を見ていると、『自由貿易』というのは、いかに相手がいやがることをするのかを競うものに見える。

 

うろ覚えだが、アダム・スミスは、「自分がやられていやなことは、相手にもしない」、あるいは逆に「相手がやられていやなことは、自分に対してもしてこない」という人としての最低限の同感性を、自由市場の基礎に置いていたと思う。

 

『自由貿易』と称して、相手がいやがることを競って、やり合うさまを、アダムスミスが見たら、なんと言うのだろう。

 

 

経済成長のためには格差はやむを得ない(OECDが統計的な分析を通じて明らかにしたように、経済成長のためには格差は是正されなければならないのが真実である。)と思い込まされているのと同様に、自由貿易以外の選択肢はないように思い込まされている。

 

エマニュエル・トッドは、トッドにとっては耐えがたいほどに壊れ始めている、フランスの民主主義の中から、民主主義の復権のために、自由貿易に代えて、協調した保護主義の採用を主張している。

 

「デモクラシー以後」から、保護主義に関する印象的な言説を引用する。

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【保護主義は給与の再上昇を通じた需要の拡大を通じて良い貿易を拡大する】

 

自由貿易に対する私の批判は、国際経済の教科書にも示されているような自由貿易の否定的な要素だけに向けられたものではありません。
国際経済の教科書の中に出てくるのは、不平等の拡大です。
それに対して、私が1998年に『経済幻想』の中で告発したのは、自由貿易が世界需要にもたらす否定的な効果であって、私はこれを本書の一つの章(第6章)の中で凝縮した形で再び採り上げています。

 

私に言わせると、保護主義の究極の観念とは、他者から身を護ることを本旨とするものではなく(もちろん保護主義のサイクルの第一局面は、そういうものになりますけれども)、給与の再上昇の条件を作り出そうとすること、したがって需要の再始動の条件を作り出そうとすることなのです。
そして私が提案していることの逆説とは、保護主義の採用で保護される地理的総体、例えばEUの中で、給与が再び上昇するなら,最後は輸入が再び増加に転じるに至る、ということなのです。

 

それは以前とは別の形の、別の種類の輸入増加、おそらくより質の高い輸入増加となるでしょう、要するにそういうことなのです。

 

【保護主義・自由貿易主義はイデオロギーであってはならない。社会や歴史の多様性にしたがって使い分けられるべき手段に過ぎない】

 

自由貿易主義者と保護主義者の間には、根本的な違いがあります。
自由貿易主義者には、イデオローグがいます。自由貿易主義の思想の歴史を見てみると、彼らは極めて単純化された公理系を持った人々で、自分たちが持っているシステムは永遠に良いもので、理想的なシステムであると考えています。
極めて単純ないくつかの法則から、彼らはその結論を導き出すのです。

保護主義者は、諸要因が複雑に絡み合っており、社会は多様であって歴史上の時代も多様である、という形で思考する人々です。

彼らは常に、歴史上異なる局面が相次いで継起するという考え方をします。

保護主義者にとって、永遠に良いシステムは存在しません。

 

フリードリッヒ・リストを読めば、その点は実に明白です。

彼には、一つの国は、出発点においては、発展するために抵抗しなければならない、自らを保護しなければならない、それはテイクオフをするためであり、それから次の段階に進んだところで、それが支障を来すことがないようなら、国を開くことになる、という考えがあります。

当初の保護主義理論には、保護主義から自由貿易へと移る、ただしいつでも保護主義に戻る可能性は確保しておく、というシークエンスの考えが見られます。

 

我々は歴史の中で生きるのであり、歴史は続きます。

私はリストの本のフランス語版に序文を書きましたが、その中で私が到達した結論は、いつの日かわれわれは、唯一最適な態度とは、自由貿易から保護主義へ、保護主義から自由貿易へと際限なく移行を繰り返すのが適切であるとする態度だ、と気づくだろうというものでした。

経済に活力を与えるために国を開き、次いで活力を与えるために国を閉ざさなければならない、そうした時期があるのだと。

 

【自由貿易主義のイデオロギーがヒトラーの台頭を許した。自由貿易以外の選択肢があることを経済学者が示していれば、ドイツの深刻な失業問題はヒトラーによることなく解決できたであろう。】

自分はケインズ以後のものであると信じている経済学者が、金融緩和的な通貨管理を主張し、より、ケインズ以前的なのである。

 

早くも1933年に、ケインズは、情勢によっては自由貿易が誤りとなり得ることを認めた論文を発表している。

彼は、結果的には、ヒトラー国家の投資政策の理論化をやらざるを得なかったのだ。

ヒトラー国家は、自由民主主義諸国に先立って経済学の正統教義の支配から抜け出し、『一般理論』の刊行時にはすでに350万の失業者を抱えたドイツを、失業者120万にまで回復させていた。

いずれそのうち、ケインズ以前の自由貿易主義経済学者たちの、ナチズムの興隆に対する貢献の歴史を書かなくてはならないだろう。

彼ら(=自由貿易主義経済学者たち)がいなかったなら、ドイツは、ヒトラーを待たずとも失業問題を解決していたはずなのだ。

 

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