【資料メモ2】 田中宇の国際ニュースから
この記事は、4月13日付ブログで再整理しました。
『田中宇の国際ニュース』が安倍晋三の訪米に関して、TPPに関する鋭い分析を載せている(4月8日)。
自慢ではないが、秘密保護法の隠された目的が、『適合事業者』規定を通じた、米国のグローバル企業による日本統治にあるとのマチベンの鋭い直感(何しろ、そのような主張は他ではお目にかからない)と符合していて嬉しい。
なお、米国議会議員にはこの3月に、交渉中のフルテキストへのアクセス権が認められたこと、USTR自身が、TPAはファストトラックなどではなく、獲得の目標の重点を示す法律だと言うようになったという最新情報は盛り込まれていない。
合わせて見ると、オバマとUSTRの並々ならぬ意欲が窺われるようでもある。
他方、マチベンは、首藤信彦氏のTPP漂流論、「ゾンビ化するTPPの脅威」に賛成である。
したがって、TPP本丸論には、少しだけ疑問を留保する。
なお、安倍訪米に先立って、外務省が今年の外交青書に、「痛切な反省」ないし「深い反省」を盛り込んだとの情報が「逝きし世の面影」ブログに掲載されている(4月10日付)。
この分析は、すごいと思った。
こちらが訪米の主眼とすれば、TPP目的は少しは減殺される。
なお、同ブログ中のスプートニクの記事はこちら(4月7日初稿、11日更新)。
日本語で読めるのは大変にありがたい。旧「ロシアの声」に感謝である。
日本、第2次対戦中の暴力へ初めて「痛切な反省」
日本政府は第2次世界大戦時に隣国へ行なった攻撃に対し、「痛切な反省」を表した。岸田外相はこの表現が記載された外交青書を内閣閣議で読み上げた。
「痛切な反省」が表されたのは初めて。観測筋は、戦後70年の今年、歴史改ざんへの日本政府を名指しにした非難が相次ぐなか出されたものとの見方を示している。
中国、韓国をはじめとする隣国からは、日本が安全分野の政策を見直していることについて、自衛隊の全権拡大につながるとの批判が浴びせられている。
安倍首相は2012年の首相就任以来、第2次大戦に降伏日に2度と戦争をしないという宣誓を一切行なわず、アジア隣国に行なった暴力への謝罪も行なったことがないことについて、国際社会からは何度も憂慮の念が表されている。
------------以下、「田中宇の国際ニュース」抜粋-------
そう思って調べていくと、それらしき理由が見えてきた。それは「TPP」である。日米など環太平洋の12カ国が交渉中の自由貿易協定であるTPP について、米国では、民主党を中心に反対運動が起きている。多国籍企業が、政府の政策が不当(自社の儲けを阻害している)だとして特別法廷(非公開)で提 訴でき、勝訴すると政策を無効にできる仕組み(ISDS)が、環境や食の安全などに関する政策を阻害しかねないとか、TPPから除外されている中国の製品 が韓国などを経由して非関税で米国に入ってきかねないというのが反対運動の論点だ。 (Ahead of Abe Visit, Pressure Builds For Obama on TPP_vv_) (The Trans-Pacific Partnership is the opposite of free trade)
TPPの交渉は完全非公開で行われ、交渉がまとまるとどんな貿易圏ができるか曖昧にしか公開されていない。米国では、大企業や業界団体が 直接に大統領府の担当者を動かして交渉している。TPPは、米欧間の自由貿易体制であるTTIPと合わせ、大企業の権限が政府を凌駕する国権剥奪・民主主 義破壊の「新世界秩序」を作る動きになっている。国権剥奪の新体制作りなので、国権機関である米議会に交渉の中身を知らせずに交渉が行われている。米議会 では、一部の議員が機密保持を誓約させられた上で、限定的な情報を開示されているにすぎない。 (国権を剥奪するTPP) (Trans-Pacific Partnership Seen as Door for Foreign Suits Against U.S.)
(日本は、官僚機構が政治家や企業より強い官僚独裁で、TPPの交渉役や運営役も官僚なので、権力構造の改変はない。TPP実施後の新体制 下では、米国などの企業や業界団体が日本の官僚が決めた政策を転覆できるが、対米従属の観点から見ると日本の従属先が米政府から米企業に替わるだけで、大 した体制転換でない) (貿易協定と国家統合)
TPP加盟諸国の中で大企業が強いのは圧倒的に米国だ。米国の大企業が、日本など他の加盟国の政府の政策を踏み荒らすのがTPPでまず予 測される構図だ。この構図だと、米国には不利益がないように見える。しかし米国の大企業は、米国自身の政策も変えたいはずだ(外国でなく自国の政策を最も 変えたいだろう)。米国の大企業は、日本や豪州など他の諸国の同業他社をそそのかしてISDSに提訴させ、自社に不利益な米国の政策を変えられる。TPP は、米国自身(米国の国民と政府)にとっても不利益になる。 (A Fast Track to Disaster)
オバマ大統領はTPP推進派だ。TPPの締結は、残り任期1年半のオバマ政権の経済面の最大目標とされている。政府の権限を剥奪して企業 に譲渡してしまうTPPを米政府自身が強く推進していることは、常識からすると不可解で、裏読みしないと理解できない。TPPについて米議会に議論させる と、多くの点で改定案を出されて収拾がつかなくなる。そのためオバマは米議会に対し、大統領府が他の諸国と交渉して決めたTPPの条文を、審議なしで丸ご と議会が可決するか否決するか(条文の一部改訂を認めない)の二者択一で票決する「ファストトラック」方式(大統領一任方式)で批准してくれと要求してい る。 (Let Obama Close the TPP Deal)
米国では、労組や消費者団体など民主党系の組織がTPPへの反対を強めているので、民主党議員の中には反対派がかなりいるが、共和党は伝 統的に大企業寄りなので、共和党議員はほとんどTPPに賛成している。米議会は両院とも共和党が多数派なので、TPPをファストトラック方式で批准するこ とを米議会が認めると、その時点でTPPが実現する可能性がぐんと上がる。米議会は5月中にTPPのファストトラック化を認めるかどうか決める見通しだ。 それに先立ち、米国では3月からTPPに対する反対運動が強まり、たとえば民主党リベラル派の市民が多い西海岸のシアトルでは市議会や役所など市を挙げて 反対運動を始めている。 (Seattle votes to oppose fast-track of Trans-Pacific Partnership) (Japan's Abe to disappoint U.S. Obama, not only on TPP)
3月末、米国のバイデン副大統領が、自民党でTPPを担当する高村副総裁に電話してきて、安倍の訪米までに日米間でTPPに関する交渉を 妥結できるよう、日本が自動車や農業の分野で譲歩してほしいと求めた。TPP全体の交渉は、日米以外の10カ国に関してほぼ完了しており、日米間の交渉が 妥結するとTPPが実現できる。米国は安倍に、日米がTPPの交渉を妥結した直後に訪米してもらうつもりでいるようだ。 (Biden calls for Japan-U.S. TPP deal before Abe's trip to Washington)
安倍が訪米する4月末、米国ではちょうど米議会がTPPのファストトラック化を認める前後で、TPPの是非をめぐる議論が高まっていると 予測される。そんな中で、TPP交渉の中で最後までもめていた日米間の交渉を妥結させた安倍が訪米し、米議会の両院合同会議で、日米と環太平洋の貿易と安 保の「明るい」未来について演説する。TPP推進派の共和党議員や大統領府の高官たちは拍手喝采だ。日本がTPP交渉で米国の言いなりになったとあれば、 民主党議員も反対色を弱めざるを得ない。安倍を米議会で演説させるのは、オバマ政権と議会共和党による、TPPをまとめるための演出だろう。 (貿易協定と国家統合)
日本にもTPPの反対運動があるが、昨年末の選挙で圧勝した安倍政権は、農業団体が自民党に死にものぐるいで圧力をかけても、簡単に無視できそうだ。米国の反対運動も、どれだけ盛り上がるか疑問だ。TPPは安倍の訪米までにまとまる可能性が高い。 (U.S., Japan seek trade deal with auto, farm issues key)
安倍首相と、安倍をあやつる官僚機構(日本外務省など)の国家戦略は、日本を米国と「一体化」していくことだ。FTよると(旧覇権国とし て覇権動向を見る目が鋭い)英国の閣僚は、米国の高官に「英国が覇権衰退した1960年代にインド洋や太平洋(アデン以東、スエズ以東)から撤退したよう に、米国もいずれ西太平洋(グアム以西、またはハワイ以西)から撤退せざるを得なくなる(西太平洋は中国の覇権下に移管される)」と語っている。米高官 は、そんなことはないと否定しているが、米軍がグアム以西への(日本と韓国から)撤退を長期計画にしていることは事実だ(FTの記事は、米国覇権の衰退を 予測する英国勢の分析を冷笑する米国勢の立場に立っているが、私の見立てでは英国勢の方が正しい)。 (UK's risky obsession with US decline) (資本の論理と帝国の論理)
対米従属を絶対の国是としている日本の独裁的な権力である官僚機構は、米国の西太平洋からの撤退を是が非でも防がねばならない。そうしな いと日本が対米従属できなくなり、官僚機構は米国という権力の後ろ盾を失い、国会の政治家に権力を奪われて「民主化」されてしまう。米国が日本を捨ててグ アム以西に撤退することを防ぐため、日本の権力機構はできるだけ早く経済的・外交軍事的に米国と一心同体になることをめざしている。 (まだ続き危険が増す日本の対米従属) (米中逆転・序章)
最近、米国の金融債券システムの崩壊が近い(早ければ今年中)と米国のヘッジファンドなどが騒いでいるが、金融危機の再燃は米国の覇権崩 壊、西太平洋からの撤退、日本の対米従属の終わりになる。だから、安倍を操る官僚機構は、TPPや米軍基地の辺野古移転、日米安保ガイドライン改訂による 日米軍の一体化、日銀のQE続行による債券金融システムのテコ入れなどを全力でやり、米国の覇権崩壊や日本からの撤退を何とか防ごうとしている。 (Stock market rigging is no longer a `conspiracy theory') (Global fund managers warn of a bond bubble) (We Are All Trapped-Alasdair Macleod)

なお、米議会のTPAをめぐる日程は次の通りである。
「方谷先生に学ぶ」のブログから(4月4日)
POLITICO Morning Trade 2015年4月3日
米上院財政委員会の補佐官達が、TPA法案について、4月13日委員会上程、15日公聴会、21日マークアップ(委員会態度決定)の仮の予定を立
てた。議会休会の間、ハッチ上院財政委員長、ワイデン筆頭理事、ライアン下院歳入委員長のスタッフレベルの協議を行っている。ワイデン筆頭理事は、議会に
より大きな力とTPAを越える監督権を与える基準を含めるよう求めている。
この法案に関する早い動きは、マッコネル上院院内総務に、来たるべき6週間の立法期間に割り込むよう合図を送ることになるが、その6週間は、予算 承認からイランとの原子力エネルギー協定に関する政治的影響まで、そしてサイバーセキュリティ法案からハイウエイ資金提供法案までの大きな課題がいっぱい である。
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