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2015年5月 7日 (木)

ISD条項の罠17 翻訳されない「otherwise」 環境・健康保護の核心条項に仕組まれた罠

英文テキストなど、国会議員に閲覧させてもちっとも怖くない。
TPPの条文は膨大な上に、並の英語力では絶対に理解できない。
翻訳会社が一部を翻訳したのを見たこともあるが、とうてい合格ラインの答案にはなっていなかった。
英語の他に、法律と経済両方の専門知識が必要である。
それくらいにしちむつかしいのである。

 

考えてみれば、わかっていただけるだろう。
日本の法律も、専門家が読み解かなければ意味が不明である。
法律の知識だけではだめである。
各分野の専門知識がないと、読み解けない日本の法律は山ほどある。
TPPの英文は、日本法の上を行く、さらに高度に難解なのである。

 

代表的なものを例に挙げよう。
健康や環境等の公共的な規制が、ISD提訴されて妨害されるのではないか、という論点について、推進派が、好んで取り上げて、ISDによって環境や健康のための規制が妨害されることはないと主張する、最大のよりどころとされる重要規定、いわば推進派の目玉商品である。
TPP投資章の最新リーク版では、ようやく留保(カギ括弧)が取れて、次の条文となっている。

 

Article II.15: Investment and Environmental, Health and other Regulatory Objectives
Nothing in this Chapter shall be construed to prevent a Party from adopting, maintaining, or enforcing any measure otherwise consistent with this Chapter that it considers appropriate to ensure that investment activity in its territory is undertaken in a manner sensitive to environmental, health, or other regulatory objectives.

 

たどたどしく訳してみる。
条文の名前は、「投資と環境、健康及びその他の規制目的」である。

 

で、マチベン程度の英語でも、全体構造としては、まず、「投資章のいかなる規定も加盟国が執る措置を妨げるものと解釈してはならない」ということはかろうじて理解できる。
Nothing in this Chapter shall be construed to prevent a Party from adopting, …measure




 

いかなる措置がこの規定の対象かという当たりで、もう、マチベンの場合は、ついて行けなくなる。
どのフレーズが、どこにかかっているのか、こんがらかって、さっぱりわからなくなるのである。
何日も頭の中でちらちら考えた末、かろうじて、次のように考えるようになる。

 

まず、適切に配慮する措置である。
that it considers appropriate

何を適切に配慮する措置か、
「投資活動が、環境、健康、その他の規制目的に敏感な方法で開始されることを確保すること」を「適切に配慮する」措置である。
ensure that investment activity in its territory is undertaken in a manner sensitive to environmental, health, or other regulatory objectives

この措置には条件がある。
「この章に合致する」ことである。

consistent with this Chapter

 

要約すれば、「この章に合致すれば、環境等目的の投資活動の開始に対する規制が、妨げられるものと解釈してはならない」ということになる。

以上を踏まえて、全体を訳すと、
「この章のいかなる規定も、加盟国が、その領域内における投資活動が、環境、健康もしくはその他の規制目的に敏感な方法で開始されることを確保するように適切に配慮された、この章に合致する措置を採用、維持、もしくは執行することを、妨げるものと解釈してはならない」
となる。

 

Nothing in this Chapter shall be construed to prevent a Party from adopting, maintaining, or enforcing any measure otherwise consistent with this Chapter that it considers appropriate to ensure that investment activity in its territory is undertaken in a manner sensitive to environmental, health, or other regulatory objectives.

 

和訳しても十二分にむつかしいことが理解していただけるであろう。
法的文章であるから、わかりにくいからと言って、意訳してはいけない。
これを国会議員に英文で見せるということである。
ほとんどの場合、見せられる方が当惑するだろう。

 

重要なことは、さんざん苦労して訳してみても、結局、この規定は、何も言っていないに等しいということである。
要するに、投資章の規定に合致していれば、公共目的の規制は妨げられないと言っているだけだ。
この規定が、ISDは、環境や健康などの公共目的の規制を妨げないとする理由に、どうしてなるというのだろう。

で、政府は、国会議員は、そんな条文の山を、そらんじた上で、自分で訳せとでも、言うのだろうか。

 

念のために、京都大学大学院の学生を濱本正太郎教授が監修している、「ISDS条項の批判的検討-ISDS条項はTPP交渉参加を拒否する根拠となるか」の米国モデル規定(ほぼ同じ文章が米国の投資協定のモデル規定に存在する)に当たっても、似たりよったりの訳になっている(9頁)。
監修しているのだから、国際経済法の学者も認める訳だと見てよい。

 

要するに、投資章に合致する規制目的の政府の活動を妨げない、という当然のことを言っているだけだ。

 

で、従来の議論は、ここまでで終わっている。
先日、極めて英語と国際法に堪能な方にお会いする機会があったので、お尋ねしてみた。
で、極めて貴重な示唆をいただいた。

 

otherwise」を、なぜ訳さないのか、と。
この英文は、「otherwise」を入れて訳せば、まるきり違う意味になるのではないか、と。

 

言われてみれば、そうなのである。
どうしても、翻訳に入れられなかったのが、この「otherwise」なのである。
国際経済法を専攻していると思われる最エリート校(この国の最先端である)の大学院生(したがって、英語に極めて堪能なはず)の翻訳で、国際経済法の一級の学者が監修した訳でも、「otherwise」は訳されていない。
入れると、普通の日本語としては、変になるからである。

 

otherwise」は、普通に訳せば、「さもなくば」である。
だから、該当部分を直訳すると、「さもなくば、この章に合致する措置」ということになる。
つまり、「さもなくばこの章に合致する措置を維持することを妨げない」ということになる。

 

「さもなくば、この章に合致しない措置を執ることを妨げない」というのであれば、意味が通る。
公共目的の措置は、仮にこの章に合致しなくても、妨げられないという意味になるから、まさに、公共目的の加盟国政府の措置はISDから守られる、とするISD推進派(ないし「反対しない」派)の主張のとおりになる。
しかし、「otherwise」の次に来ているのは、あくまでも「合致」であって、「合致しない(inconsistent)」ではないのである。

 

結局、この規定の本来の意味は、「環境等の公共規制目的の措置を執ることは、公共規制目的の規制でなければ投資章の規定に合致しているものであったとしても、妨げられない(妨げるものと解釈されてはならない)」となる。
日本語として、意味不明にみえる。
英語でも意味不明のはずだ。

 

意味をとろうとすると、次のように考える以外にない。
「環境、健康等の公共規制目的の措置は、この章の規定に合致していても、ISDの対象になる」

 

「投資章に合致する公共規制目的の措置」は妨げません、自由にやってください。
だけど、ISDの対象にはなります。

 

この規定は、とんでもないことを意味しているのではないだろうか。
こういうには、それなりの根拠がある。
WTO発足時には、衛生及び植物検疫措置(SPS)で散々もめた経過があるはずだが、その結果、SPSは、見た目、極めつけに難解な規定になった。
そして、WTOが発足してみると、結局、生命、健康より、「自由貿易」が大事というトンデモ規定であることが判明した顛末がある。

 

政府が、そうでないと言うなら、きちんと「otherwise」を和訳した、適切な翻訳文を示してもらいたい。

 

で、僕の言いたいのは、TPPの英文は、かくほどにむつかしいということである。
推進派からは、目玉商品のごとく持ち出される、超重要規定すら、かくも難解でかつ怪しいのである。

 

国会議員に「テキスト」を閲覧させても、政府にとっては、痛くもかゆくもない。
その場で、これほど困難な規定を、読み下すことができる議員は、いたとしてもほんの一握りである。
で、そういう人の大半は、政府の公共規制が妨げられても、何ら構わないと考える議員に違いないからである。

 

すでに、リークされた「テキスト」は出回っており、米国議会の調査局は、「非公式開示文書」として、正式な草案(ないし米国提案)であることを前提に扱っている。
政府が、まずやるべきは、すでに公開されている、①投資、②知的財産権、③医薬品・医療機器関連手続の透明性、④規制の単一性、⑤TBTに関する規定を、日本国民が英語圏の国民にハンディを負わない程度に、和訳することである。
いずれ、国会審議の際には、和訳しなければならないのであるから、すでに和訳をしていると思われる。
その公開をまず第一にすべきである。

 

コヒーレンスを「整合性」と誤訳するくらいの政府であるから、和訳が完全なものとは、とりあえずは、期待していない。
しかし、それでも、翻訳の下作業くらいは、しかるべき公的機関が責任をもって行うべきである。
マチベン程度の低能力では、とりあえず日本語にしてみる、それだけに大変な時間がかかってしょうがないのである。

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追記 5月10日
「otherwise」について、「その他の点では」と訳せば、一貫性がある訳ができるとの指摘があった。
確かに自然な訳である。
しかし、なお以下の疑問はある。
まず、法律用語では「otherewise」が用いられるときは、「さもなくば」または「本来であれば」との意味で使用される例も少なくないと聞く。
また、だからだと思われるが、京都大学法学院の国際経済法を専攻する学生の訳(何度も繰り返すが、一流の学者が監修をしている)でも、「otherewise」は敢えて訳されていないこと。
さらに、条約のような法的文書では明確性が求められるのであるから、もし「その他の点では」という意味であれば、他の明瞭な表現が可能であるにもかかわらず、敢えて、多義的な「otherewise」が用いられていること。
むしろ、国際経済の分野では米国は、極めて狡猾な方法を用いていることに対する警戒を怠ってはならないと思う。
少なくとも、この「otherwise」の意味を確定するには、交渉過程での解釈合意を知ることが不可欠であるが、交渉過程文書は、TPP発効後4年間は秘匿される秘密保持契約によって極秘にされている。

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