軍事では絶対に儲からない 武器輸出を国家戦略とすることを求める経団連提言は亡国への道
武器輸出三原則を攻撃し続けてきた経団連が、集団的自衛権の肝はここだとばかりに、改めて、武器輸出を国家戦略とすることを提言している。
「死の商人」立国の主張である。
経団連、「武器輸出を国家戦略として推進すべき」提言を公表
朝日新聞デジタル
武器輸出「国家戦略として推進すべき」 経団連が提言
経団連は10日、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表した。10月に発足する防衛装備庁に対し、戦闘機などの生産拡大に向けた協力を求めている。
提 言では、審議中の安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割が拡大するとし、「防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には中長期的 な展望が必要」と指摘。防衛装備庁に対し、「適正な予算確保」や人員充実のほか、装備品の調達や生産、輸出の促進を求めた。具体的には、自衛隊向けに製造 する戦闘機F35について「他国向けの製造への参画を目指すべきだ」とし、豪州が発注する潜水艦も、受注に向けて「官民の連携」を求めた。産業界として も、国際競争力を強め、各社が連携して装備品の販売戦略を展開していくという。(小林豪)
(朝日新聞デジタル 2015年9月10日19時50分)
経団連の提言は、経済的に見て、明らかに間違っている。
いけいけどんどんの経済学者や、グローバリズム礼賛の経団連の言うことを聞いていれば、この国は滅びる。
公衆衛生学者が統計学を用いてグローバリズムの誤りを告発する論文に「Does investment in the health sector promote or inhibit economic growth?」がある(ことを「経済政策で人は死ぬか」(草思社)で知った)。
と言って、僕にとって英語は最大の非関税障壁であるので、原典に当たっていただきたいが、そこで明らかにされているのは、景気後退側面において、政府支出がどれだけの国民所得のリターンをもたらすかである。
政府支出1ドルが国民所得を何ドル押し上げるかを政府支出乗数として分析されている。
従来、IMFは、政府が1ドル支出しても、0,6ドルしか国民所得は増えないとみなしてきた。
政府支出は税金で賄われる訳だから、1ドル支出して、0.6ドルしか国民所得が増えないとすれば、0.4ドル分、損失が生じる。
したがって、経済を回復させるには、政府支出はできるだけ少ない方がよい。
IMFが、危機に陥った国家の処方箋として緊縮財政を求めてきたのはここに根拠がある。
ところが、経済学の門外漢である、公衆衛生学者が、1995年から2010年までのEU25カ国の経済統計に基づいて、景気後退側面における、政府支出が経済成長にどのような影響を与えるかが分析した結果、IMFの考えは間違いであることが証明された。
景気後退側面である2009年のEU各国の政府支出と国民所得の相関を分析したところ、政府支出1ドルは、平均して1.6ドル国民所得を押し上げるという結果が得られた。
差し引き0.6ドルのプラス効果が認められたのである。
興味深いのは、どの分野に対する政府支出が、国民所得をもたらすかである。
彼らの分析によれば、衛生部門に対する支出は、平均4.3倍、教育部門に対する政府支出は8.2倍の国民所得増となって返ってくる。
問題は、防衛予算である。
政府が防衛予算を1ドル支出すると、国民所得は9.8ドル減少するという。
論文では、防衛は貿易赤字と相関関係が深いことが関係していると分析されている。
西側諸国の防衛予算は、世界一の武器輸出大国である米国に吸い取られる仕組みなのである。
防衛予算は、米国企業が吸い上げる。
防衛予算を増やすほど、米国企業が外国の国民の税金で潤うのである。
ただ、この範囲で言えば、政府支出1ドルに対して、国民所得は1ドル減少するか、ゼロであるようにも思うが、とにかく平均してマイナス9.8ドルの損失になっていることは紛れもない統計的事実なのだ。
EU25カ国、一カ国として、防衛予算の支出が、国民所得を減少させなかった国はない。
米国企業に貢いだ分を武器輸出で取り戻そうというのが経団連の腹かも知れないが、見通しが甘すぎる。
ストックホルム国際研究所調べ(世界ランキング統計局のサイトから)
EU各国は、米国企業に捲き上げられた損を取り戻すために精一杯に武器輸出をしている。武器輸出国5位からドイツ、フランス、イギリス、イタリア、オランダ、スペインと10位まで軒並みEU各国が並び、スェーデン(12位)、スイス(14位)、ノルウェー(16位)と続いている。
にもかかわらず、EUの防衛予算は、軒並み国民所得を減らす、平均で防衛予算のほぼ10倍国民所得を減らしているというのが厳然とした統計数字だ(論文と年度は違うから、多少はEUも回復している可能性は否定しないが)。
今さら、武器市場に競争参入して、防衛予算の増大を穴埋めしようとするなど、ばかげているし、米国に貢いだツケを世界中に武器をばらまくという究極のグローバリズムに乗ったら最後、この世界は行き着くところまでいくだろう。
一握りの軍需産業が儲かっても、国民全体は必ず貧窮化する。
経団連の提言する道はそういう道だ。
戦争したがる総理や、戦争待望論をぶつバカな経営者と違い、国民が戦争と経済を取引したりしないと確信しているが、
軍事産業で経済が潤うなどと間違っても思わないことだ。
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