開示されていない(らしい)裁定 フィリップモリス vs オーストラリア政府
先に転載したTPP阻止国民会議の首藤信彦氏のコメントに、フィリップモリス対オーストラリア政府のISDについて、触れた部分がある。
その最大のものはタバコ訴訟で(すでに10月のアトランタ合意でもタバコはISDSの対象外となっていたが)、2011年にオーストラリア政府がタバコにプレインパッケージを義務付けたのに対しフィリップ・モリス側が提訴していたが、この12月17日にシンガポールの仲裁機関で敗訴し、オーストラリア政府の主張が認められた。これはISDSもアメリカ絶対有利とは言えなくなってきた最新事例である。
このケースは、日本語報道が全くないように見える。
仕方がないので、英文を検索するが、ニュース報道による限り、この件は、ISDの「管轄に属さない」とされて、フィリップモリスの請求が却下されたとされている。
「管轄に属さない」とは門前払い却下であって、通常、内容にわたった判断は示されない。
したがって、この裁定が、健康や衛生に関する国家の施策を認めたものであると即断することはできない。
また、このISDは、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センター(ICSID)によるものではなく、国連商取引法委員会(UNCITRAL)の仲裁規則による手続でISD付託されているため、第3の仲裁人を世界銀行総裁が指名する仕組みを取っていない。
残念ながら、「管轄に属さない」とした理由は、英語の出来ない二級国民であるマチベンでは探すことができない。
フィリップモリスの本国である米国は、オーストラリア政府との間にISD条項を結んでいない。香港とオーストラリアの間の投資協定にISD条項が存在することに目を付けたフィリップモリスが香港法人を利用してISD付託した、いわゆる「協定漁り」のケースであり、香港法人はペーパーカンパニーである可能性が高い。
ISDの常として、あくまでも香港・オーストラリア間の投資協定の文言について判断を下したもので、ISD一般に普遍化することには問題がある。
フィリップモリスの請求が排斥されたことは、確かにISDに対する批判の高まりを受けたものである可能性はあるが、以上の次第で、健康・衛生に関する国家の施策が認められたものと即断することはできない。
裁判所の判決に当たる裁定が公開されるかというと、公開には当事者の同意が必要とされている。
今のところ、裁定本文が開示された形跡は見当たらない。
ISDは元来、プライベートな解決方法であるので、最も重要な裁定が開示されないこともありなのである。
手続が公開されるわけでもなく、裁定も必ず公開される訳でもない。
国民に知られないまま、ISD付託され、決着することもありである。
ここら辺の感覚が、普通に「裁判」と呼ばれるものの感覚と全然、違うのがISDである。
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