雁屋哲氏『まさかの福沢諭吉』発刊 70年戦争史観への転換点?
先日、安川寿之輔先生から、「さようなら!福沢諭吉」第2号が届いた。
第2号の刊行を急いだのは、もっぱら12月4日に予定されている三者合同講演会(安川寿之輔、雁屋哲、杉田聡の3氏)を成功させたいということによるようだ。
「目下の安川の唯一最大の夢は、12月4日の合同講演会の千百余の会場の席を満席近くにすることです。」
同封されていたチラシの表・裏を貼り付けて、宣伝に協力させていただきます。
***
同時に待望の雁屋哲氏の新刊マンガ『まさかの福沢諭吉』上下が刊行されたことも紹介されているが、こちらの方は、今のところ、ネットでも実在店舗でも、どうやったら購入できるのか、方法が不明という状態である。
『さようなら!福沢諭吉』第2号の1pには、
「目玉情報!です。『まさかの福沢諭吉』上下(1冊1800円)の店頭価格は、上下2冊で3880円ですが、当日、講演会会場での2割引きの特別価格で、上下2冊3000円で販売します。」
とあるので、とりあえず、この講演会で購入するのが一番、早道ということのようだ。
名古屋大学の安川寿之輔先生が痛烈に福沢を批判されていたことは、地元での講演会などの折りに知っていたが、当時は、まさか福沢批判が現代的な意義を持つ日が来るとは、思ってもいなかった。僕にとって福沢批判は、近代史学の誤りの一つくらいにしか思っていなかったのが率直なところだった。
安川寿之輔先生によれば「時代が安川に追いついた」とのことであるが、戦後リベラルの絶対的権威とされた丸山真男が作り出した「福沢諭吉神話」との戦いは、孤独で困難な年月であったに違いないと思う。
1955年生まれの僕の皮膚感覚に過ぎないが、戦後日本人が過ちとして振り返る戦争は、長らく1941年に開戦した太平洋戦争だけに過ぎなかった。
やがて、多分、家永三郎先生の成果が大きいのだろうと思うが、1931年の満州事変から敗戦までを一括りに見る15年戦争史観が説かれるようになり、アジア太平洋戦争と呼ばれるようになった。
これとてそんなに古いことではない。
福沢批判を踏まえれば、近代日本は、成立のときから1945年までのほぼ80年間を拡張侵略主義の流れでとらえる必要があることになる。台湾出兵、江華島事件や琉球併合から一連なりの歴史と見ると70年戦争になる。
やがて、多分、家永三郎先生の成果が大きいのだろうと思うが、1931年の満州事変から敗戦までを一括りに見る15年戦争史観が説かれるようになり、アジア太平洋戦争と呼ばれるようになった。
これとてそんなに古いことではない。
福沢批判を踏まえれば、近代日本は、成立のときから1945年までのほぼ80年間を拡張侵略主義の流れでとらえる必要があることになる。台湾出兵、江華島事件や琉球併合から一連なりの歴史と見ると70年戦争になる。
福沢の拡張主義が特殊だったという訳ではない。
当時の欧米は植民地争奪の最中で、福沢の論は、欧米列強の論を日本に導入したものだったろうし、福沢の中韓に対する極端ともみえる蔑視も、欧米のアジアに対する蔑みを引き写したものに過ぎなかったろう。
当時の欧米は植民地争奪の最中で、福沢の論は、欧米列強の論を日本に導入したものだったろうし、福沢の中韓に対する極端ともみえる蔑視も、欧米のアジアに対する蔑みを引き写したものに過ぎなかったろう。
国際法上、侵略戦争はむろん、武力の行使と武力による威嚇が原則的に違法とされ、民族平等が謳われ民族的な差別が(建前の上では)違法とされる国際的な環境の中で、今の日本では、福沢諭吉的な言説が勢いを増している(この言説の相当部分は世界を覆う潮流とも重なる)。
この間のTPP国会承認をめぐる経過には、いったん始めたら止められないという、かつての日本の心象がそのまま生きていることを思い知らせてあまりあった(こればかりは多分、特殊日本的である)。
戦争の時代への回帰を思わせる事象があまりにも多すぎる。
この間のTPP国会承認をめぐる経過には、いったん始めたら止められないという、かつての日本の心象がそのまま生きていることを思い知らせてあまりあった(こればかりは多分、特殊日本的である)。
戦争の時代への回帰を思わせる事象があまりにも多すぎる。
神格化された福沢諭吉の言説が、再び日本が時代を見誤る悲劇へと導きかねないことが、多分、とても危険なことなのだ。
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