「罪のない人を棄民したままオリンピックが大切だという国なら、私は喜んで非国民になろう」小出裕章氏「フクシマ事故と東京オリンピック」
元京都大学原子炉実験所助教小出裕章氏が、8月23日付でIOCのバッハ会長にあてて、東京オリンピックの中止を求める書簡を送ったとするブログがあった。
そこに添付されていた和文のPDFファイルが以下のものである。
小出氏は、
「罪のない人を棄民したままオリンピックが大切だという国なら、私は喜んで非国民になろうと思う。」
との覚悟で、書簡を送った。
フクシマ原発事故は、処理の方針と呼ぶに値するものすら見えず、、ただ時間と労力を浪費・消耗して、先送りされている。
溶け落ち、どこにいったかも不明なデブリを取り出すことなどできるはずもない。
原発事故の処理など一歩も進んではいない。
日本人がみんな知っていて、ただ見ない振りをしている。
その事実を小出氏の文章は、えぐり出して、改めて突きつける。
「フクシマ事故の収束など今生きている人間のすべてが死んでも終わりはしない。その上、仮に熔け落ちた炉心を容器に封入することができたとしても、それによって放射能が消える訳ではなく、その後数十万年から100万年、その容器を安全に保管し続けなければならないのである。」
小出氏は、避難指示に翻弄された人々に心を寄せる。
「福島第一原子力発電所から40~50 km も離れ、事故直後は何の警告も指示も受けなかった飯舘村は、事故後一カ月以上たってから極度に汚染されているとして、避難の指示が出、全村離村となった。
人々の幸せとはいったいどのようなことを言うのだろう。多くの人にとって、家族、仲間、隣人、恋人たちとの穏やかな日が、明日も、明後日も、その次の日も何気なく続いていくことこそ、幸せというものであろう。
それがある日突然に断ち切られた。
避難した人々は初めは体育館などの避難所、次に、2人で四畳半の仮設住宅、さらに災害復興住宅や、みなし仮設住宅へ移った。
その間に、それまでは一緒に暮らしていた家族もバラバラになった。生活を丸ごと破壊され、絶望の底で自ら命を絶つ人も、未だに後を絶たない。」
問題は、避難指示地域の外にもある。
事故の『収束』を急ぐ政府が行った避難指示の解除、そして住宅支援の打ち切りが、いかに住民に追い打ちをかけ犠牲を強いてきたか。
「極度の汚染のために強制避難させられた地域の外側にも、本来であれば「放射線管理区域」にしなければいけない汚染地帯が広大に生じた。「放射線管理区域」とは放射線を取り扱って給料を得る大人、放射線業務従事者だけが立ち入りを許される場である。そして放射線業務従事者であっても、放射線管理区域に入ったら、水を飲むことも食べ物を食べることも禁じられる。もちろん寝ることも禁じられるし、放射線管理区域にはトイレすらなく、排せつもできない。
国は、今は緊急事態だとして、従来の法令を反故にし、その汚染地帯に数百万人の人を棄てた。棄てられた人々は、赤ん坊も含めそこで水を飲み、食べ物を食べ、寝ている。当然、被曝による危険を背負わせられる。棄てられた人は皆不安であろう。被曝を避けようとして、仕事を捨て、家族全員で避難した人もいる。子どもだけは被曝から守りたいと、男親は汚染地に残って仕事をし、子どもと母親だけ避難した人もいる。でも、そうしようとすれば、生活が崩壊したり、家庭が崩壊する。汚染地に残れば身体が傷つき、避難すれば心が潰れる。棄てられた人々は、事故から7年以上、毎日毎日苦悩を抱えて生きてきた。
その上、国は2017年3月になって、一度は避難させた、あるいは自主的に避難していた人たちに対して、1年間に20ミリシーベルトを越えないような汚染地であれば帰還するように指示し、それまでは曲がりなりにも支援してきた住宅補償を打ち切った。そうなれば、汚染地に戻らざるを得ない人も出る。今、福島では復興が何より大切だとされている。そこで生きるしかない状態にされれば、もちろん皆、復興を願う。そして人は毎日、恐怖を抱えながらは生きられない。汚染があることを忘れてしまいたいし、幸か不幸か放射能は目に見えない。国や自治体は積極的に忘れてしまえと仕向けてくる。逆に、汚染や不安を口にすれば、復興の邪魔だと非難されてしまう。」
小出氏は、避難指示が解除された区域の放射線量の高さが異常な高線量であることを強調し、「原子力緊急事態宣言」下だから居住可能とされているに過ぎない異常さを指摘する。
「 1年間に20ミリシーベルトという被曝量は、かつての私がそうであった「放射線業務従事者」に対して初めて許した被曝の限度である。それを被曝からは何の利益も受けない人々に許すこと自体許しがたい。その上、赤ん坊や子どもは被曝に敏感であり、彼らには日本の原子力の暴走、フクシマ事故になんの責任もない。そんな彼らにまで、放射線業務従事者の基準を当てはめるなど、決してしてはならないことである。しかし、日本の国はいま、「原子力緊急事態宣言」下にあるから、仕方がないと言う。緊急事態が丸1日、丸1週間、1月、いや場合によっては1年続いてしまったということであれば、まだ理解できないわけではない。しかし実際には、事故後7年半たっても「原子力緊急事態宣言」は解除されていない。国は積極的にフクシマ事故を忘れさせてしまおうとし、マスコミも口をつぐんでいて、「原子力緊急事態宣言」が今なお解除できず、本来の法令が反故にされたままであることを多くの国民は忘れさせられてしまっている。環境を汚染している放射性物質の主犯人はセシウム137であり、その半減期は30年。100年たってもようやく10分の1にしか減らない。実は、この日本という国は、これから100年たっても、「原子力緊急事態宣言」下にあるのである。」
小出氏は、この原子力緊急事態宣言が恒常化したこの国で、なすべきこと、その当たり前の優先順位を改めて、強調する。
「今大切なのは、「原子力緊急事態宣言」を一刻も早く解除できるよう、国の総力を挙げて働くことである。フクシマ事故の下で苦しみ続けている人たちの救済こそ最優先の課題であり、少なくとも罪のない子どもたちを被曝から守らなければならない。それにも拘わらず、この国はオリンピックが大切だという。内部に危機を抱えれば抱えるだけ、権力者は危機から目を逸らせようとする。そして、フクシマを忘れさせるため、マスコミは今後ますますオリンピック熱を流し、オリンピックに反対する輩は非国民だと言われる時が来るだろう。」
そうして、冒頭の「罪のない人を棄民したままオリンピックが大切だという国なら、私は喜んで非国民になろう」という覚悟へ行き着くのだ。
原子力緊急事態宣言下で行われるオリンピックの異常性を訴え、アスリートが、被爆の被害者となるだけでなく、この国の異常な加害行為に加担することとなると警告して、文書は結ばれている
「原子力緊急事態宣言下の国で開かれる東京オリンピック。それに参加する国や人々は、もちろん一方では被曝の危険を負うが、一方では、この国の犯罪に加担する役割を果たすことになる。」
忘れられた原子力緊急事態宣言下で、相対少数の被害者は、忘れられた存在として放擲されている。
全国の裁判所でなお、原発事故避難者1万人近くが国と東電の責任を追及する訴訟が続いている。
名古屋地方裁判所では、9月28日(金)から原告本人尋問の手続に入った。
次の期日が予定されている。
場所は、名古屋地方裁判所1階の大法廷である。
傍聴者の減少が、原告らを心細くさせている。
是非、一人でも多くの方が足を運んで、原告に寄り添ってほしい。
10月12日(金)午前9時45分から午後5時
10月26日(金)午前9時45分から午後5時
傍聴席はいつでも自由に出入りできます。途中で入って、途中で出ても全く問題ありません。
正確には、小出裕章氏のこの文書は、英訳された上で各国のオリンピック委員会に送られているとのことである。
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