2012年新型インフルエンザ特別措置法に関2012年新型インフルエンザ特措法に関する日弁連会長声明 緊急事態宣言とモーニングショーなど
2012年、現行新型インフルエンザ特別措置法の審理過程において、日弁連は複数回にわたって意見を表明し、法案に反対している。
主要なものは次の2件である。
新型インフルエンザ等対策特別措置法案に反対する会長声明
新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)に対する会長声明
新型コロナウイルス対策に適用するとして改正される内容も現行法と大差はないものと考えられるので、日弁連が指摘した、主要な問題点をかいつまんで紹介しておく。
いずれも緊急事態宣言に関わる論点である。
ストレートに危惧されるのは、報道統制の危険である。
総理は対策本部長として、指定公共機関と「調整」を図り、措置が実施されない場合等には、指定公共機関に指示する法的権限が与えられている(法33条)。
この指定公共機関にはNHKを含むので、現行法でも新型コロナウイルスに適用されれば、総理はNHKに対して「指示権」を持つことになる。
指定公共機関は政令で定めることになっているので、民放を含めることは内閣限りで可能である。
つまり、安倍内閣が民放を指定公共機関に含める政令改正を行えば、緊急事態宣言下にあっては、「羽鳥慎一モーニングショー」の放送内容に介入して、対策本部長たる総理がテレビ朝日に対して直接、「指示」を行い放送内容を是正させることが可能になる。
都道府県知事には、広範な施設の使用制限・禁止、集会等を含む催事を制限・中止させる権限が付与されている(法45条)。
使用制限・停止等の基準は曖昧であり、集会の自由を制限することになる。
参考までに施設の種類を施行令11条から列記しておく。極めて広範な施設が対象となる。
一 学校(第三号に掲げるものを除く。)
二 保育所、介護老人保健施設その他これらに類する通所又は短期間の入所により利用される福祉サービス又は保健医療サービスを提供する施設(通所又は短期間の入所の用に供する部分に限る。)
四 劇場、観覧場、映画館又は演芸場
五 集会場又は公会堂
六 展示場
七 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗(食品、医薬品、医療機器その他衛生用品、再生医療等製品又は燃料その他生活に欠くことができない物品として厚生労働大臣が定めるものの売場を除く。)
八 ホテル又は旅館(集会の用に供する部分に限る。)
九 体育館、水泳場、ボーリング場その他これらに類する運動施設又は遊技場
十 博物館、美術館又は図書館
十一 キャバレー、ナイトクラブ、ダンスホールその他これらに類する遊興施設
十二 理髪店、質屋、貸衣装屋その他これらに類するサービス業を営む店舗
十三 自動車教習所、学習塾その他これらに類する学習支援業を営む施設
使用制限等の権限は、知事にあるが、知事に対しては、対策本部長たる総理が「指示権」を持つので、結局総理の意向が反映される結果となる。
緊急事態の期間が長期間に過ぎる。
緊急事態宣言には、国会の同意は不要であり、期間の上限は2年とされており、更新も1年間可能となっている。
緊急事態宣言を出すことが出来る要件も緩すぎる。
法は「新型インフルエンザ等が全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」場合に、緊急事態宣言が可能としているが、この要件自体が曖昧である。
これを具体化した政令(施行令6条)は、さらに要件を緩和してしまっている。
政令が挙げる要件は2点である。
- 一つは、重症化率がインフルエンザより相当高いこと。
- 二つは、感染経路が不明であるか、感染者が不特定多数と接触したこと。
この2点に止まるのである。
WHOの報告書は、中国のケースについて、全体で3.8%の致死率を報告しており、往々、この確率が独り歩きしているが、3.8%は武漢の医療崩壊が大きく影響した数字であり、治療体制が向上した後は0.7%と報告されており、後者の数字が現実に近いだろう。
それでも致死率0.7%は「インフルエンザより重症化率が相当高い」とする一つ目の要件を満たすことになりそうである。
また感染経路が不明の患者が発生していることはすでに報道されている通りである。
したがって、新型コロナウイルスに新型インフルエンザ特別措置法を適用すれば、安倍総理は遠からず2年間の緊急事態を宣言することができる枠組みとなっている。
野党は、今回の件で、総理が直接、法的にテレビ・ラジオの放送内容に介入する法的な根拠を持つことになる重大性を十分に自覚して臨んでもらいたい。